荷馬車を預かり所に預け、カサンドラたちはララサ街の冒険者ギルドへと足を運んでいた。
これからギルドの受付で名前を記入し、丸い水晶に手をかざして能力を測定。登録料をカーシン国の通貨(トゥン)で支払えば、私とシュシュも正式に「冒険者」として認められる。
ララサ街の冒険者ギルドは、木造と煉瓦を組み合わせた堂々たる建物だ。中に入ると、剣や盾、魔法の杖を携えた人間や獣人の冒険者たちで賑わっていた。
その冒険者達の中に、ワンピース姿のカサンドラとメイド服のシュシュが現れると、途端にざわめきが広がった。
(……そんな格好で来るな、って?)
「舐めてるのか」
「ここはお嬢様の遊び場じゃない」
と、聞こえたヒソヒソ声はすべて無視。カサンドラだってギルドで登録を済ませたら、彼らと同じ冒険者だ。
先に受付を済ませていたアオ君が、こちらに手を振る。
「こっち、ドラ、シュシュ。ここで登録するんだ」
「わかったわ。シュシュ、私たち、これから冒険者になるのよ。ギルドカードを作ったら、冒険用の服を買いに行きましょう」
「はい、ドラお嬢様」
前のカサンドラは十八歳のとき、妹に対する醜い嫉妬で命を落とした。だが、大聖女マリアンヌの加護で時は巻き戻り、彼女は再び生き直す機会を得た。
今度こそ、強く、たくましく、そして楽しく生きていきたい。
――これが、その第一歩。
「こちらの登録書に名前と血判を。冒険者の心得も、きちんと読んでくださいね」
受付嬢が用紙を差し出しながら、丁寧に説明してくれる。
冒険者の心得。
その一、一か月に一度は討伐か採取クエストをこなすこと。
その二、高ランク冒険者はギルドからの緊急召集を断れない。
その三、モンスターの素材はギルド、または指定の店舗でのみ売却可能。
その四、冒険中の死亡に対し、ギルドは一切責任を負わない。
その五、怪我や病気の治療費は自己負担。
どれも当たり前のこと。自分の意志で冒険者になるのだ。
(この用紙に名前を書いて、この針で指を刺して血判を押すのね。最後に水晶玉に手をかざして……)
数分後、カサンドラとシュシュのギルドカードが完成した。ふたりはアオ君と待ち合わせていた、初級クエストが張り出された巨大な掲示板の前へと向かう。
その場で待っていたアオ君が、ふたりの姿を見つけて駆け寄ってくる。
「ドラ、シュシュ、ギルドカードはできたか?」
「はい。私とシュシュ、二人分できましたわ」
「よし。じゃあ次に、そのカードを手に持って、『ステータスオープン』って唱えてみて」
「ステータスオープン……? わっ、なにこれ……目の前に四角い板が浮かんだわ。文字が……浮かんでる」
名前 カサンドラ・マドレーヌ 十八歳。
職業 公爵令嬢
レベル 18
体力 1500
魔力 3000
攻撃力 500
防御力 100
俊敏力 50
スキル 水 氷 風 属性。回復魔法 調理 生活魔法 シシン語 リン語 サーロン語 新アマラン語 古代アマラン語、
固有スキル 薬草調合
「レベルが十八? 体力? 魔力? 攻撃力、防御力、俊敏力、と魔法、調理、生活魔法、固有スキルが薬草調合? 何かは、まだわからないけど……面白そうね。シュシュは?」
「レベルですか? それはお嬢様とあまり変わりませんが。生活魔法、編み物 縫い物 固有スキルは調理でした」
「私にも調理スキルがあったから、一緒に調理できるわね」
シュシュと冒険から帰ったら、ほうれん草とベーコンのキッシュを作ろうと、話していた。
隣で、二人のステータスを見ていたアオ君は。
「へぇ、ドラとシュシュ、中々いいステータスとスキル持っているな。薬草調合スキルは冒険者にとっていいスキルだし。シュシュのメイド特有のスキルは長旅にも使える」
「長旅?」
「ああ。街の外で野宿することになったり、衛生の悪い宿に当たったりしたときに、生活魔法があると全然違うからな」
「そうなのね、シュシュ、生活魔法は冒険に使えるって……覚えてよかったわ」
「はい、お嬢様」
いつか、みんなで古代アマランの魔法都市へ。長い旅にも、きっと行ける。
「じゃあ、ドラ、シュシュ。まずは採取クエストを受けて、道具屋で必要なものを揃えようか」
「ええ、行きましょう!」
「はい、行きましょう!」
こうして、三人はギルドを後にし、ララサの街にある道具屋へと向かった。