いよいよ、冒険の始まりだ。
道具屋へ向かう前に、カサンドラたちが冒険者ギルドで受けたクエストは──ギルド近くにあるロロの森で採れる薬草『ミーン』を十束、採取するというものだった。
アオは彼女たちよりレベルが高いため、レベル補正により、得られる経験値は少ないらしい。
「アオ君、いいの?」
「構わない。このままクエストを受けてくれ」
「かしこまりました」
クエストを受理し、一行は街の道具屋へ向かった。
⭐︎
カランコロン──
真鍮のベルが優しく鳴る。木造の温もりが漂う店内は、冒険者向けの装備や道具で所狭しと並んでいた。
「初めて見るものばかりね、シュシュ。何を買いましょうか?」
「どれも、面白そうで迷います……」
大きな盾に長剣、短剣、冒険者の衣服──目を輝かせるふたりに、アオ君は一つずつ丁寧に説明してくれる。
「服はこれがいいな。革製のジャケットの下に布のシャツ、スラックスに靴下。足元はこの革のブーツで、どうだ?」
「まぁ、素敵。どこか乗馬服のようで上品ですわね。それでお願いします」
「私は、ドラお嬢様と色違いがいいです」
「ハハ、了解」
衣服が決まり、次は武器選び。しかし、見た目で選んだ長剣も、強そうなハンマーも、アオ君はすべて却下した。
「アオ君、これでは全部ダメですわ。私、屋敷の騎士と剣の特訓もしてきましたのよ?」
「それは剣の“基礎”だろ。……その長剣は熟練者でも扱いが難しい。実戦では咄嗟に動けないし、何より怪我をする」
「では、私たちは何を使えば……?」
「小型のナイフがいい。薪割り、料理、解体──用途が多くて、戦闘以外でも重宝する」
「多機能……なるほど。それなら私は、この青い石のついたナイフを」
「私は隣の赤い石のナイフで、アオ君は緑の石のナイフね」
「ドラお嬢様、ありがとうございます」
「俺もいいのか? ありがとう」
新しい装備を試着室で身につけ、次に回復薬、傷薬、解毒草と、それらを入れる肩掛けカバンを選んだ。ナイフはベルトにしっかり固定する。
準備を終えて道具屋を出たとき、カサンドラがふたりを呼び止めた。
「アオ、シュシュ。これ……四葉のクローバーのチャーム。レジ横で見つけて、可愛いから買ったの。私たち……冒険者パーティー、でしょう?」
(お揃いにしてみたけど……二人は、喜んでくれるかしら?)
差し出されたチャームを見て、ふたりの目が見開かれる。
「おお、四葉のクローバー? たしか……幸運の象徴だったな。いいセンスだ」
「とっても可愛いです。大事に使います、ドラお嬢様」
「ナイフと同じ色の石をつけましょう」
「はいっ」
「おう」
⭐︎
預け所から荷馬車を受け取り、ロロの森への出発準備が整う。御者席で荷をまとめる、アオ君がふと何かを察したように、近くの建物の影に目をやった。
そして、小さくため息をつく。
「……ふうっ」
「アオ君、どうしたの?」
「いや、なんでもない。……さあ、出発だ!」
「「はい、行きましょう!!」」
⭐︎
荷馬車が街の外へと姿を消したあと──奴らは建物の影から現れた。
「へっ、何もできねぇアオが女連れとはな。笑わせるぜ」
「どっちも可愛かったな。兄貴、どっちにする?」
「俺か? 黒髪の、大きい胸の方がいいな。あの胸、触ってみてぇ……」
下卑た手つきをする男の横で、仲間らしきふたりがにやりと笑う。
「じゃ、俺たちはメガネのちっちゃい方な」
「決まりだな」
「「ククク……ギャハハハッ!! まずは、あの生意気な、アオをぶっ潰してからだ」」