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第16話

 いよいよ、冒険の始まりだ。


 道具屋へ向かう前に、カサンドラたちが冒険者ギルドで受けたクエストは──ギルド近くにあるロロの森で採れる薬草『ミーン』を十束、採取するというものだった。


 アオは彼女たちよりレベルが高いため、レベル補正により、得られる経験値は少ないらしい。


「アオ君、いいの?」


「構わない。このままクエストを受けてくれ」


「かしこまりました」


 クエストを受理し、一行は街の道具屋へ向かった。



 ⭐︎


 カランコロン── 


 真鍮のベルが優しく鳴る。木造の温もりが漂う店内は、冒険者向けの装備や道具で所狭しと並んでいた。


「初めて見るものばかりね、シュシュ。何を買いましょうか?」


「どれも、面白そうで迷います……」


 大きな盾に長剣、短剣、冒険者の衣服──目を輝かせるふたりに、アオ君は一つずつ丁寧に説明してくれる。


「服はこれがいいな。革製のジャケットの下に布のシャツ、スラックスに靴下。足元はこの革のブーツで、どうだ?」


「まぁ、素敵。どこか乗馬服のようで上品ですわね。それでお願いします」


「私は、ドラお嬢様と色違いがいいです」


「ハハ、了解」


 衣服が決まり、次は武器選び。しかし、見た目で選んだ長剣も、強そうなハンマーも、アオ君はすべて却下した。


「アオ君、これでは全部ダメですわ。私、屋敷の騎士と剣の特訓もしてきましたのよ?」


「それは剣の“基礎”だろ。……その長剣は熟練者でも扱いが難しい。実戦では咄嗟に動けないし、何より怪我をする」


「では、私たちは何を使えば……?」


「小型のナイフがいい。薪割り、料理、解体──用途が多くて、戦闘以外でも重宝する」


「多機能……なるほど。それなら私は、この青い石のついたナイフを」


「私は隣の赤い石のナイフで、アオ君は緑の石のナイフね」


「ドラお嬢様、ありがとうございます」

「俺もいいのか? ありがとう」


 新しい装備を試着室で身につけ、次に回復薬、傷薬、解毒草と、それらを入れる肩掛けカバンを選んだ。ナイフはベルトにしっかり固定する。


 準備を終えて道具屋を出たとき、カサンドラがふたりを呼び止めた。


「アオ、シュシュ。これ……四葉のクローバーのチャーム。レジ横で見つけて、可愛いから買ったの。私たち……冒険者パーティー、でしょう?」


(お揃いにしてみたけど……二人は、喜んでくれるかしら?)


 差し出されたチャームを見て、ふたりの目が見開かれる。


「おお、四葉のクローバー? たしか……幸運の象徴だったな。いいセンスだ」


「とっても可愛いです。大事に使います、ドラお嬢様」


「ナイフと同じ色の石をつけましょう」


「はいっ」

「おう」


 ⭐︎


 預け所から荷馬車を受け取り、ロロの森への出発準備が整う。御者席で荷をまとめる、アオ君がふと何かを察したように、近くの建物の影に目をやった。


 そして、小さくため息をつく。


「……ふうっ」


「アオ君、どうしたの?」

「いや、なんでもない。……さあ、出発だ!」


「「はい、行きましょう!!」」


 ⭐︎


 荷馬車が街の外へと姿を消したあと──奴らは建物の影から現れた。


「へっ、何もできねぇアオが女連れとはな。笑わせるぜ」


「どっちも可愛かったな。兄貴、どっちにする?」


「俺か? 黒髪の、大きい胸の方がいいな。あの胸、触ってみてぇ……」


 下卑た手つきをする男の横で、仲間らしきふたりがにやりと笑う。


「じゃ、俺たちはメガネのちっちゃい方な」

「決まりだな」


「「ククク……ギャハハハッ!! まずは、あの生意気な、アオをぶっ潰してからだ」」

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