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第25話

「ほぉ~れ、チョチョイのちょい!」


 お祖母様が、カサンドラたちの前で杖を一振りすると、まるで夕食時におっしゃっていた通り、別荘内に新たな部屋が現れる。


 魔法でできた部屋には、お祖母様の個室に調合室、専用のお風呂場まで、見事に増築されていた。


「素敵! 魔法って本当にすごいですわ!」

「はい、本当に驚きです!」

「さすが、魔女様ですね!」


 カサンドラたちは目を輝かせながら、魔法の力に感嘆の声を上げた。その様子を満足げに見たお祖母様は!自ら増やした部屋の一つを開け、にこやかに言った。


「ハハハッ、カサンドラ、シュシュ、タヌっころ。わたしはもう先に休ませてもらうよ。おやすみなさい」


「おやすみなさいませ、お祖母様!」


(お祖母様の創作魔法って、部屋まで増やせるなんて……すごいわ。私もいつか、こんな魔法を使えるようになりたい)


 カサンドラはそう思いながらも、自分も早めに休むことにした。だがベッドに入ったものの、なかなか眠りにつけない。心に引っかかるものがあったのだ。


「……シャリィが、私を殺したいほど憎んでいたなんて」


 その事実が信じられなかった。


 今回のカサンドラは舞踏会の前、後も、妹をいじめたこともなければ、冷たい態度を取ったこともない。むしろ、常に優しく接してきたつもりだ。だけど、ここまでシャリィがカサンドラに対して、強い憎しみを抱く原因。


(だって、シャリィには優しい両親がいて、友人もいる。何より、アサルト皇太子殿下という、好きな人と、結ばれる未来があるというのに)


 答えの出ない問いを胸に抱えながら、カサンドラはやがて、浅い眠りについた。


 ⭐︎


 一方その頃、王城ではシャリィが荒れた心を抱えていた。


「最近……アサルト様がカサンドラお姉様の話ばかりする……。どうせあのお姉様の大きな胸に気を取られているんでしょ。私のほうがずっと可愛いのに……!」


 憤りと嫉妬で、顔を歪めたシャリィは声を張り上げる。


「ユリィ、いるの?」


 彼女がそう呼ぶと、闇のような霧が立ち込め、黒衣の男が現れた。


「ご主人様、いかがなさいました?」


「この毒、本当に即効性があるのね?」


「もちろんです。僕の用意したものですから」


 その返答を聞いて、シャリィは薄笑いを浮かべた。


「そう……なら、いいの」


 シャリィの頭の中には、三ヶ月後の舞踏会での、光景が鮮明に描かれていた。


 毒を仕込んだ封筒を手にした、カサンドラが人前で苦しむ様子、その後、その姿を見た周りからの嘲笑を浴びる姉の姿。それを思い浮かべるたび、彼女の口元には笑みが浮かぶ。


「そうね……ピンクのドレスがいいわ。似合わない色を選んで、リボンをたくさんつけて。醜くなった姿に、ぴったりの衣装を作らなくちゃ」


 シャリィの心は、幼少期からの劣等感で満たされていた。いつも両親の目は、姉に向けられているように感じ、嫉妬は膨らみ続けていた。


 さらに追い討ちをかけたのは、初恋の相手である、アサルトが姉を婚約者に選んだことだった。


(お姉様なんかに負けない。すべて奪ってやる……!)


 そう決意したとき、彼女は城の書庫で「ユリィ」と名乗る黒衣の男を召喚する魔導書を発見した。彼女の願いを聞いたユリィは、不思議な力を持つブレスレットを渡した。


「これを身に着ければ、すべてが思いのままになる」


 そのブレスレットを手に入れてから、シャリィの世界は一変した。両親も、アサルトも、国王陛下も、王妃様も――国中の人々が彼女を愛し、彼女の望みを最優先にする。

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