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第26話

 アサルト殿下と妹の、婚約発表の舞踏会まであと三ヶ月。時間は限られているけれど、しっかり対策を練れば大丈夫。


 今のカサンドラにはシュシュ、アオ君、そして頼れる、魔女のお祖母様がいるのだから。


 ――その前に、まずはアオの知り合いでパン屋を営む、スズさんの奥様の病気を治さなくては。


 ⭐︎


 翌朝、朝食を済ませたカサンドラとアオ君は、荷馬車を貸してくれた家を訪れた。そこで、荷馬車を譲ってもらえないか交渉を始めた。


 持ち主は、使い古された荷馬車を気に入る、カサンドラたちに驚きながら尋ねた。


「こんな、ボロボロの荷馬車で本当にいいのか?」


「はい。この荷馬車を、とても気に入りましたわ」


「オレも操縦しやすい。それに、馬をこのまま貸してもらえたら助かる」


 持ち主は「わかった」と頷き、


「その荷馬車は売ってやるが、馬はこの値段で貸そう」


「ええ、それでお願いします。私達に、何か頼み事や伝えたいことがあれば、別荘にいらしてね」


 こうしてカサンドラたちは、格安で荷馬車を譲り受け、馬も二頭、月五千ピールで借りれることになった。


 ⭐︎


 出発の準備を整えた一行は、アオ君が操縦する荷馬車に乗り、国境を目指した。空ではお祖母様が、ホウキに乗って優雅に同行している。


(お祖母様、すごいわ。私もホウキに乗れたら、どんなに素敵かしら。何かあったときに飛んで逃げられる……)


 ――もう、スイスイ飛んで逃げますわ。


「クク、ドラ……そんなに楽しそうにして、何を考えてるんだ?」


 運転するアオ君に問われ、隣の席に乗った、カサンドラは微笑む。


「お祖母様を見て、自分がホウキに乗れたらって、想像しの。すごく便利ですわよね」


「ホウキに乗るか……確かに乗れたら、どこでも、ひとっ飛びで飛んでいけそうだな」


「まあ。どこでも、ひとっ飛び!」


 そのアオ君の発想に驚き、目を輝かせるカサンドラ。


「それはいい案ね。私、ますますホウキに、乗りたくなりましたわ。あとで、お祖母様に聞いてみましょう!」


「はい! 私も聞きたいです!」


 荷台で本を読んでいた、シュシュが元気よく手を挙げた。その愛らしいシュシュの姿に、思わず、笑みを漏らすカサンドラ。


 勢いよく揚げた手を下げ、シュシュは頬を赤くさせた。


「ふふ、シュシュったら照れなくても、いいじゃない。私も、同じ気持ちですもの」


 陽気なやり取りを聞きながら、お祖母様は空から優しく見守っている。


(なんて、いい子たちだろう。昨夜の出来事でカサンドラが落ち込んでいると思ったが、心配いらなかったね)




 和気あいあい荷馬車を走らせ、途中で休みをいれて、カサンドラ達とお祖母様は国境を越えて、スズさんのパン屋についた。


 店はまだオープン前で、昨日の約束の時間よりも早く訪れたカサンドラ達に驚くも、魔女を連れてきたと伝えると、スズさんは何度も頭を下げ喜んだ。


 そしてお祖母様と、奥様のところに向かった。まだ起きたての、チビうさチロは、目をこすりながらアオ君に近寄った。


「アオにぃ、チロのママ、助かる?」


 アオ君はしゃがんで、チロの目を見つめながら頭を撫でる。


「ああ、大丈夫だ。魔女様を連れてきたから、チロのママは必ず助かるよ」


「ほんと?」


 チロの瞳に涙がたまり、「うっうう」と声を上げて、アオ君に抱きついた。その様子を見ていた、カサンドラとシュシュは微笑みつつ、少し意地悪く声をかけた。


「まぁ、アオ君。可愛いチロちゃんを泣かせるなんて」


「ええ、ひどいですね、ドラお嬢様」


「はぁ? なんだと? オレがいつ、チロを泣かせたぁ? どう見ても、慰めているところだろう!」


「ふふ。アオ君、怒ったわ」

「はい、怒りましたね!」


 カサンドラとシュシュが笑いながら、アオ君から逃げる。そのアオ君に抱っこされていた、チロはいつの間にか泣き止み、笑い声をあげていた。


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