スルール採取の依頼を出すのは、パン屋の定休日を利用して、明日冒険者ギルドへ向かうことに決めた。
お祖母様は「ここで解散だよ。夕方には戻るからね」と一言残し、魔道具や古書を扱う店へと足を向ける。その後、カサンドラ達はギルドで、手頃な採取クエストを探すことにした。
「ドラ、スルールの採取クエストを依頼するのはいいけど……報酬金を設定するには、それなりに費用がかかるぞ」
心配げに呟くアオ君に、私は軽く肩をすくめて答える。
「お金のことなら大丈夫よ。今はちょっとだけ“お金持ち”ですもの」
そう、私には王家からの慰謝料や手切れ金、そして両親から送られてくる生活支援金がある。もっとも、両親からの支援は「もう帰ってくるな」という、意図が透けて見えるものだけど。
「ドラ、本当にいいのか?」
「ええ、生スライムのためと経験値稼ぎを兼ねたクエストだもの。ここは惜しまないわ」
「私も、少しだけならお給金があります!」
シュシュが元気に声を上げるが、カサンドラは半笑いで問い返した。
「シュシュのお給金の大半って、食べ物と本に消えてない?」
「だ、大丈夫です! 豚さんの貯金箱、ちゃんと育てています!」
そんなやりとりを交わしながら、初級クエストボードを眺める私とシュシュ。その横で、アオ君は何も言わず、カサンドラたちを見守っていた。
このとき、アオ君は心の中で固く誓った。
――自分が、カサンドラとシュシュを守り抜くのだ、と。
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翌日、アオ君とスズさんは冒険者ギルドに足を運び、スルール採取の依頼を正式に登録した。
「気にせずドンと使って」と、カサンドラが背中を押したおかげで、報酬金を少し高めに設定することができた。その結果、経験豊富な冒険者たちが次々と、クエストを引き受けてくれることに。
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夕方、ギルドから連絡が入る。アオ君とスズさんは冒険者ギルド向かい、戻ってくると。その手にはカゴいっぱいの、スルールの実を抱えていた。
「魔女様、スルールをお持ちしました。冒険者たちのおかげで、予想以上に集まりました」
お祖母様はカゴを覗き込み、満足げに頷くと調合道具を取り出した。手際よくスルールを加工し、果実入りのお湯割りと乾燥チップスを作り上げる。
「この、お湯割りを飲ませてごらん」
スズさんが受け取り、奥さんのユズさんに飲ませると、しだいに、体に溜まっていたロンヌの花の毒が抜けたのか、黄色く輝き始めた。そして、彼女はゆっくりと目を開けた。
「あら……なんだか、体が楽になったわ」
「あ、ママ! ママが元気になった!!」
「ユズ、よかった」
チロとスズさんは泣きじゃくりながら、目を覚ましたユズさんに抱きつく。その光景を見て、カサンドラたちも安堵の笑みを浮かべた。
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チロちゃんとスズさんに、たくさんのありがとうをもらい。カサンドラは家族でゆっくり過ごすようにと伝えて、店を後にした。
その帰り道、荷馬車に揺られながらスルールを試食する、カサンドラとシュシュ。
「甘酸っぱくておいしいわ! 何個でも食べられそう」
「本当に! ドラお嬢様のおっしゃる通りです!」
それを聞いた祖母が、ふっと笑みを浮かべて言った。
「でもね、このスルールは強いヒグマンというモンスターを倒さないと手に入らない貴重な果実なんだ。種があれば、庭に植えてみるといいよ。滅多に見つからないけどね」
その話に、カサンドラはシュシュと顔を見合わせた。
「よし、アオ君の分を残して、種を探しましょう!」
カサンドラたちは、カゴいっぱいのスルールの種を探しはじめた。