カサンドラたちは、日が暮れた暗い道を、ランタンの灯りを頼りにカーシン国から荷馬車でのんびりと戻っていた。
「アオ君、疲れたでしょう? そこの広場に停めて休憩しましょう」
「わかった! 荷馬車を止めるとき少し揺れるから気をつけて」
「はーい」
広場に荷馬車を止め、スズさんからもらったパンを袋からカゴに移すと、シュシュは用意してきたバスケットを開けた。
中にはひんやりした水出し紅茶が、ティーカップとともに並んでいる。
「お嬢様、お祖母様、ドラお嬢様、アオ君、水出し紅茶をご用意しました」
「ありがとう、シュシュ」
「サンキュ!」
「水出し紅茶か。懐かしいね。でも少し冷やした方が美味しいよ。私が氷魔法で冷やしてあげよう」
お祖母様が杖を取りだし軽く振ると、みんなのティーカップの中に、小さな氷が次々と音を立てて落ちた。紅茶は冷気をまとい、さらに鮮やかな琥珀色を放つ。
「お祖母様、いただきます……あら、氷で冷やすと香りと味が引き締まって、とても美味しいわ」
遠出の際には火が使えないため、水に紅茶の葉を一晩浸し、茶こしでこして注ぐ水出し紅茶。しかし、氷魔法で冷やされると、こんなにも味わいが変わるとは思わなかった。
「ドラ、シュシュ、最後のスルール貰うな!」
アオ君が竹カゴに手を伸ばすと、その瞬間、スルールの実が眩しい金色に輝き始めた。
「な、なんだ? スルールが金に変わったぞ!」
「まあ、本当に」
「信じられません……」
お祖母様はそのスルールをじっと見つめてから、微笑んだ。
「珍しいね。アオ君は種入りを引き当てたようだ。この種を庭に植えて井戸水をかければ、明日には低木が育つよ。そして……楽しいことが起きるさ」
「楽しいことですか?」
「そうだとも、とても楽しいことさ」
「ふふ、お祖母様のその言葉、ワクワクしますわ」
「オレもだ!」
アオ君が金色のスルールを剥くと、中から小さな種が一粒現れた。カサンドラはその種を大切にハンカチで包み、胸にしまった。
⭐︎
翌朝、庭にスルールの種を植え、井戸水を撒くと驚くべきことに、昼過ぎには低木まで成長していた。
「なんて早い成長なの。不思議だわ……」
「いや、不気味だろ、これ……」
「はい、不気味さもあります。シャクと豆の木みたいです」
「それだ!」
「それですわ!」
みんなで頷き合う楽しげな様子を見て、お祖母様が庭に現れた。
「フフッ、やっているね。そのスルールの木、実をつけるのは深夜か、明け方だろうね」
⭐︎
深夜。カサンドラは寝室で、庭先から聞こえる小さな話し声に目を覚ました。そっと部屋を出ると、隣の部屋からパジャマ姿のアオ君がナイフを手に現れた。
「ドラ、お前も聞こえたか?」
「ええ……」
カサンドラはランタンを手に取り、足音を忍ばせながら庭に向かうと。育ったスルールの低木の周りには光る球体がいくつも浮かび、可愛らしい声が響いてきた。
「たくさん実れ~! 甘く美味しくな~れ! 果実が実ったら分けてもらうんだぁ~」
「……⁉︎」
目を凝らすと、背中に光る羽を持つ手のひらサイズの女の子が、低木の周りを楽しげに飛び回っていた。その存在はまるで夢の中のように、美しく、幻想的だった――。