お祖母様が言っていた通り、楽しいことが起きた。なんと、庭のスルールの低木の中に、小さな女の子がいたのだ。
真っ白で、ふわふわとしたドレスに包まれたその姿は、まるで夢の中の存在のよう。蜂蜜色の髪は陽光を受けてきらきらと輝き、小鳥のさえずりに、溶け込むような軽やかな声が響いた。
「アオ君! 見て!」
カサンドラは隣にいたアオ君の手を掴み、目を輝かせながら低木を指さす。
「小さな女の子よ! お祖母様が言っていた楽しいことって、この子のことだったのね! 可愛いわ!」
「お、おぉ、見えてる! 見えてるから! だから、そんなに引っ張るなって!」
慌てた様子のアオ君が抵抗するが、カサンドラはお構いなしだ。彼女はアオ君の手を離すと、今度は肩を掴み、ブンブンと揺らし始める。
「カサンドラ! だからやめろって!」
「アオ君、見てよ! 本当に小さな女の子がいるの!」
そのやり取りを遮るように、どこからかクスクスと、可愛らしい笑い声が聞こえてきた。
「ふふ、人間さんと獣人さん、こんばんは!」
二人が驚いて目を向けると、スルールの低木の中から、小さな女の子がひょっこり顔を覗かせた。
小さな女の子はふわりと宙を舞い、カサンドラたちの目の前までやって来ると、小さな手で挨拶するようにスカートを摘み、お辞儀をした。
「あたち、キリリっていうの。このスルールの木が大好きで、ここに住むことにしたの!」
カサンドラとアオ君は目を丸くした後、思わず微笑む。
「キリリちゃんね。私はカサンドラよ。よろしくね!」
「オレはアオだ。これからよろしくな!」
「うん! カサンドラ、アオ、よろしくね!」
キリリは嬉しそうに笑いながら、スルールの低木の上にふわりと腰を下ろす。
⭐︎
「お祖母様、シュシュ! 昨日、素敵な家族が増えたのよ!」
カサンドラはキリリと出会った興奮冷めやらぬまま、家族へ報告した。シュシュはパンを置く手を止め、不満げに頬を膨らませる。
「お嬢様、なぜ私を起こさなかったのですか! 私もその子に会いたかったのに!」
「ごめんなさい、シュシュ。すぐに紹介するから!」
庭に向かったシュシュは、スルールの低木に座るキリリを見た瞬間、怒りを忘れて顔を赤くした。
「可愛い……本当に妖精さんみたいです……!」
「妖精、そのものよ!」
カサンドラも隣で目を輝かせる。
すると、お祖母様が静かに語り出した。
「そうだよ、あの子は妖精だ。スルールの木に惹かれて住む妖精は、その家を幸せで満たすと言われているんだよ。この木と妖精を大切にしなさいね。」
「はい! もちろんです!」
「絶対に大切にします!」
みんなでスルールの木とキリリを見つめ、その温かな光景に、カサンドラの心が満たされた。