エチカちゃんはクラスでも人気がある。なのに私と仲良くする。
私が学校図書館に行くときは、お昼休みの時間に、他の子の誘いを断ってまで私と一緒に来てくれる。
私は何も言わない。エチカちゃんが私といたいならそうすればいいし、私から離れていくときはすぐにわかるし、春香みたいに別れぎわの彼氏に泣き叫んですがりついて引き留めるような真似は、エチカちゃんにはしたくない。
五年生の終わりに、エチカちゃんは塾に通い始めた。
「中学は私立に行かせたいようなんだよね、父親が」
とエチカちゃんがつまらなそうに言う。
「わたし、私立、落ちるつもり」
何を考えているのかわからない笑顔で、エチカちゃんは私にこっそり耳打ちをした。
エチカちゃんにはエチカちゃんの地獄があるのだ、と理解した。
春香が彼氏とドライブに行っているあいだに部屋を片付けておけ、と春香に命令された。
春香が食べ散らかしたコンビニの弁当容器、割り箸、スプーン、フォークを市役所から
支給された可燃ごみのピンクのビニール袋に入れていく。
ゴミをどううやって捨てればいいのか、春香は何も言っていなかった。わからないからピンクの袋に全部入れる。
ポテチの食べかすも捨てピンクの袋へ。目についたゴミっぽいものはピンクの袋に詰め込んだ。
ようやく畳が見えてきた。
虫もいたけど、気持ち悪いから見なかったことにした。
テレビのコンセプトのあたりのゴミを捨てたら、春香の彼氏が、以前、私の首に突きつけてきた折りたたみナイフがあった。
手で取ろうとして、私は不意に浮かんだ考えに従い、春香の破れたストッキングに包んで、春香の履かなくなった靴が溢れている玄関収納の、キラキラしたヒールの靴の後ろに、
それを隠した。
そのナイフで春香の彼氏が私を脅して、私にオレンジ色の薬を飲ませ、すぐによくなるから、と言って彼氏も薬を飲み、春香が外出しているあいだに私を裸にして、犬みたいな息で私にのしかかり、痛いことをしてきたことを思い出し、身震いした。
気持ち悪くて吐きそうになる。
春香は飽きるのが早い。特に靴は、一回足を入れただけで、気が済んで玄関収納から溢れ玄関を埋め尽くしていた。
ここの靴は捨てずにおく。
ピンクの袋がなくなってしまい、どうしたらいいのか、わからない。
誰かに聞いたほうがいいのか。でも誰かに聞いたことが春香の耳に入れば、また殴られる。
私は迷ったあとに、エチカちゃんの家に行った。
昼間に歩く川の道は、水の音が輝いていて眩しく心地いい。
川の道の横で、少し小石を拾った。いくつかの石を玄関の外に置いておこう。次に外で時間を潰すときに、太陽系の外に配列しよう。探査機の新記録を作るんだ。
体操服の短パンの後ろのポケットに小石を入れる。
エチカちゃんの家の門のインターフォンを鳴らしたら、エチカちゃんは塾で、お母さんが出てきた。
ゴミの袋をどうすればいいのかを聞くと、うちに来てゴミの出し方を教えてくれた。
エチカちゃんのお母さんはピンクの袋の数をかぞえ、表情を歪め、春香の靴で埋まった玄関で、靴の多さに立ち尽くしていたが、私の前にしゃがんで、一人で家にいるのは何日目か、と聞いてきた。
まだお腹がすくほどの日にちはたっていない、と私が答えると、エチカちゃんのお母さんは、うちでごはん食べていきなさい、と泣きならが言った。
まただ。なんでエチカちゃんのお母さんが泣いているのか、私にはわからなかった。
私は、春香がいつ帰ってくるかわからない、春香が帰って来た時に私がいないと春香が怒る、と伝えて、その日はエチカちゃんの家に行くことはなかった。
春香の物には手をつけなかったし、ゴミを片付けて、畳が見える部屋になったのは引越しのとき以来で、私は手足を伸ばして横になった。
ゴミの中で身を縮めて寝なくていいので開放感があった。そのときはそのまま私は眠ってしまった。