眠りが邪魔された。春香の怒鳴り声と、私の髪を掴んで引きずり回す春香の手。
痛い、と思わず口から洩れてしまった私の声を遮り、春香が、ここにあった物はどうした、と、さらに私を引きずり回したせいで、体操服の短パンのポケットに入れていた小石がバラバラと畳の上に散らばった。
あっ……と声が出る。小石が……。
石を拾い集めようとした私の手を、春香が畳に踏みつける。
そんなものはどうでもいい、ここにあったプラスチックの皿と割り箸どうした、どこにやった、あ? 捨てた? 何やってんだよ、洗って使うために片付けろっつっただろ、ものは大切にしろ、使えねぇな、本当に。
春香がたぶん、そんなようなことを怒鳴り散らす。
だって片付けろって言っ……。た、とは最後まで言えなかった。
口答えすんな、大切だったのに、ゴミじゃない、洗って使えるだろ、片付けろってのはそう言う意味だ、と春香が叫ぶ。
あの散らかっていたコンビニ容器が、大切? と春香に向かって私は言っていた。
元通りにに戻せ、元通りにできるまで帰ってくるな、出ていけ。春香が怒鳴り返してきて畳に転がっている小石を私に向かって投げつけた。こんなもんばっかり家に持ち込みやがって、石ころを拾ってる暇があるならゴミとして出したものを返してもらってこい。
春香が投げつけてきた小石が、私の額をぱっくり切って、血がダラダラと流れ出す。
額から血を流し、体操服が血まみれになった私の髪を掴んで、私を玄関まで春香が引きずっていく。抵抗しながら私は玄関の引き戸に掴まった。家から出されたら、捨てたゴミをすべて元通りにするまで帰ってこれない。
春香が私の髪ごと引き倒して、とうとう玄関の外に出された。玄関のすりガラスの引き戸がぴしゃりと閉まり、春香が中からは鍵をかけてしまった。
この騒ぎに近所の人たちは、それぞれの家の窓からこちらを見ていたが、誰も手を貸してくれたり、春香を注意してくれる大人はいなかった。
関わりになったら面倒だ。そんな空気になっている。
外に放り出された私は、どうすればいいのか、途方に暮れた。