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第3話 その顔は……誰?

 アパートでの生活は気付けば3年が経っており、私は小学校4年生、妹は1年生になっていた。


 「お姉ちゃん、おままごとしよう!」


 門音は飛び跳ねながら笑顔で私に迫ってくる。


 「えー、またやるの? 一人でやってよ」

 「やだ! 早くー!」


 今日で3回目、私はため息をつきながら、妹のおままごとに付き合っていた。


 「ねぇ門音?今日でもう3回目だよ飽きないの?」


 「チッチッチ!お姉ちゃん3回じゃなくて5回だよ!」


 人差し指を振りながら喋る妹に少し腹がたちながら聞き返す。


 「1人で2回もおままごとやったの?」


 「1人じゃないよ!友達とやったの!」


 あぁ、人形を友達にしていたのか、さては寂しくなって私と遊んで欲しかったのかな?そんな妹の姿を想像して少し笑ってしまった。


 「はい!お姉ちゃんは赤ちゃんのジョージね!」


 赤ちゃん!?なんでジョージ……

 そんな役、やりたくないんだけど!


 「ちょっと門音——「お姉ちゃん、ジョージは赤ちゃんだから喋れないよ、私はお母さん役だから!ほら泣いて」


 「泣いてって……」


 妹に途中で言葉を遮られる。いつもこうだ妹のおままごとの熱が凄くて言い返してもなかなか聞いてもらえない、あんまりごねると泣いちゃうし……ため息をつき、私は赤ちゃんの真似をする。


 「え〜ん、え〜ん」

 「お姉ちゃん、下手!」


 この妹、わがまますぎる。もうやめようかな。でもここで辞めると余計長くなる。拳を握りながら私は、泣き真似を続けた。


 「かわいくない赤ちゃんでちゅね?」

 「びえ〜ん、だう、だう」


 そんな風に、毎日を普通に過ごしていた。たぶん、私が気づいていなかっただけで、何かはもう起きていたのかもしれない。

 でも、そのときはまだ、私たちの日常は普通に見えていた。


 ただ一つ、不気味だったのは——

 家の中で写真を撮ると、決まって白い玉が数個、写り込んでいたこと。妹は何故か嬉しそうにしていたことを門音を除き、少し気味悪がっていた。


▼△▼△▼


 いつからか、門音が寝言を言うようになった。ずっと同じことを言っていた。


 「……お腹が痛い……くるしい……」

 「門音、大丈夫?」


 心配になって、私と両親で起こすと、妹はけろっとした顔で起きて、「痛くないよ」と笑っていた。


 「門音、大丈夫かな……お父さん」


 「最近、お腹の調子悪いみたいだし、一度病院に連れてくか。いいよな?母さん」


 「……そう言って、病院に連れて行くのは私なんですよね?」


 「頼むよ、母さん〜!」


 ——いつもの光景だった。

 お父さんがお母さんに頭を下げる姿。それを楽しそうに見る私と門音。

 思い出すと、ふふっと笑ってしまう。懐かしいなぁ。


 その後、門音は小児科を受診したが診断はただの消化不良。

 特に異常もなく、母とすぐに帰ってきた。


 「お父さん、特に問題ないみたいでしたよ?」

 「そっか〜! よかった、よかった!」


 「明日は鈴の誕生日だし、ケーキでも買ってくるか!」

 「ケーキ! チョコがいい!」

 「お姉ちゃんばっかりずるい! 私は白いやつがいい!」

 「だめ! 明日は私の誕生日なんだから、チョコケーキ!」

 「こらこら、二人ともケンカしない!お父さん、お金渡すので、2つ買ってきてください」


 母が財布からお金を出し、父に渡した。


 「ああ、分かった! 美味しいところから買ってくるよ!」


△▼△▼△


 ——そして、私の誕生日がやってきた。


 『ハッピーバースデー! 鈴、お姉ちゃん、おめでとう!』


 その声と共に、私は蝋燭の火をふっと消す。


 「2人とも、あっという間に大きくなっていくなあ」


 「本当に。子どもの成長って早いですよね。門音なんて、この前まで喋れなかったのに」


 「そんなことない! ずっと喋れた!」


 妹は、父と母の会話にふてくされ、少し拗ねていた。


 「みんなで写真撮りましょう?誕生日祝いにぴったりですよね、お父さん?」


 「よーし、せっかくだ! みんなで撮るぞー!」


 父の声に、門音は少しむくれながらも頷いた。 


 「ほら、テレビの前に集まって! 撮るぞー!」

 「はい! チーズ!」


 ——カシャ。


 「よし、撮れたな! 明日、カメラ屋に現像しに行くから楽しみにしてろよ!」


 妹も私も、「うん!」とうなずいた。



▼△▼△▲


 ——そして翌日。


 父が帰ってくると、私は昨日の写真のことを聞いた。


 「お父さん、昨日の写真、見せて!」

 「……あー、それなんだけど、撮れてなくてな……ごめんな」

 「えー、うそでしょ!? ちゃんと撮ってたじゃん!門音も楽しみにしてたんだよ?」

 「あれ、門音は?特に変わったことはないか?」

 「うん、あっちの部屋で1人でおままごとしてるよ」

 「そうか、わかった。母さんは?」

 「ご飯作ってる!今日はすき焼きだって!」

 「それは楽しみだ!ちょっと母さんと話してくるな」

 「うん、わかった!」


 笑顔で言うと、父は大きな手で私の頭をゆっくり撫でた。父と母が話している途中は私はひとりで遊んでいる門音の様子を見に行った。


 それにしても、門音最近、1人で遊ぶの多くなったな…..部屋を開けるとぶつぶつ言いながら座っていた。


 「門音、ご飯だよ?」

 「あっ、行っちゃった……」


 その声が、あまりに自然で、そして誰かに話しかけているようで。

 思わず、足を止めてしまった。


 「誰かいたの?」

 「門音一人だよ?お姉ちゃんどうしたの?」


 「え、どうしたのって……今、行っちゃったって言ってたじゃん」

 「門音、そんなこと言ってない、そんなことよりお姉ちゃん、おままごとやろ!」


 さっきのは私の聞き間違い……?門音が嘘をついてる雰囲気もない。さっき聞いた言葉に自信が持てなくなり、それ以上、問い詰めるのをやめた。


 「そろそろご飯できるからおままごとはご飯食べてからにしよ?」

 「わかった!約束だからね!」


 会話が終わると、私と門音は部屋から出て父と母がいるリビングに行った。

 リビングに行くと2人はもうリビングの椅子に腰をかけていた。


 「あっ、2人もご飯出来てますから席についてください!」

 『うん!』

 門音と2人で頷き、席につく。

 いつもなら賑やかな食卓なのに、今日は不思議とみんな静かだった。

 その時の私は、すき焼きの魅力には抗えず夕ご飯をパクパクと食べ続けた。


 後になって、私は父から聞かされた。

 あの時、撮った写真には、大量の白い玉と、門音の顔が、中心から半分に割れていた。

 しかも、その半分は門音じゃない、別の子供の顔だったらしい。


 ……たぶん。

 ここから、あの家での怪異現象は加速していったのだと思う。


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