高位貴族の令嬢、ミラ(未来)は、本来、家庭教師を招いて教育を受けるのが通例だった。しかし、家庭教師とのマンツーマンでは彼女の能力を隠しきれないと判断し、学院への入学を希望する。しかし本音は、学院生活を楽しみたいだけであった。
受験に向けて、家庭教師が、強化カリキュラムを用意するが、ミラには、無用であった。家庭教師は、あまりの能力の高さに驚嘆する。
「あなたは、私の授業など受けなくても合格間違いなしでしょう」
ミラは、家庭教師に口止めする。
「どうかこのことは、ご内密に…」
家庭教師は驚きながらも、ミラの要望を受け入れ、彼女の秘密を守ることを誓った。そして、口止めの報酬として、家庭教師の授業を2倍にすることを約束した。ミラは、学院での新しい生活に期待を膨らませながら、受験日を待つのだった。
ミラが試験会場に入ると、小さなどよめきが起こった。
「あれって、確か公爵家の…」
彼女は美貌と優れた才能の持ち主との噂で有名人だった。しかし、その才能を正しく知る者はいない。大概は尾ひれのついた噂程度の認識でしかなかった。
「公爵令嬢なんか、自分の才能に自惚れるだけのくせに…」
「いきなり、嫌われてるな…」
ミラは、周囲の反応に気づかないふりをしながら席に着いた。
試験の問題を見て困惑した。
「簡単すぎる…貴族学院の試験は難関と聞いていたのに…」
チート能力のせいで全問正解してしまう恐れがあったため、適当に手を抜くことにする。彼女はぶつぶつと呟きながら回答していく。
「この能力、転生前に欲しかったのに…」
貴族学院が下位貴族の子弟が中心なのは、高位貴族が家庭教師を招いて教育を受けることが一般的だからである。しかし、それは財力だけが理由ではない。もしも難関である貴族学院の試験を受けて落ちたら、高位貴族のメンツが潰れるためである。一方で、その実力でより高い地位を目指すのが下位貴族たちである。故に高位貴族のミラの受験は異例であり、中には「高位貴族のミラが受験に落ちたら笑ってやろう」と言う輩も存在していた。