ブランシュール子爵邸の朝、アリアの寝室には穏やかな陽光が差し込んでいた。アリアを起こすためにメイドのクレオが寝室に入室すると、そこで幸せそうにアリアの寝顔を見守っているキャナルの姿を見つけた。

クレオは深いため息をつき、声をかけた。「キャナルお嬢様、アリアお嬢様の寝顔を見に来るのはおやめください。アリアお嬢様が嫌がります。」

キャナルは心配そうな顔を崩さずに答えた。「アリアが怖い夢を見ていないか、とても心配なの。」

クレオはもう一度深いため息をつき、静かにアリアを起こしにかかった。「私は、キャナルお嬢様がとても心配です。」

キャナルが不思議そうな顔をすると、クレオは話題を変えながらアリアの寝室を整え始めた。「アリアお嬢様、今日も学校に行かれるのですね。準備を整えましょう。」

アリアはベッドから起き上がりながら、小さな声で呟いた。「というか、客観的に見ればストーカーだよ、姉様。」

キャナルは一瞬驚いた表情を見せた後、慌てて取り繕った。「ストーカーだなんて、そんなことないわ、アリア。私はただあなたのことが心配で…」

アリアは優しく微笑みながら、姉に言った。「姉様、大丈夫。必要ない」

しかし、心の中ではアリアはこう思っていた。「学院では過保護だが、自宅では溺愛が過ぎる。もう少し自由にしてほしいのに…。」

「さあ、朝食の準備もできています。食堂に行きましょう。」クレオが促し、アリアは準備を終えた後、姉と一緒に食堂に向かった。

キャナルの過保護な態度に憂鬱な気持ちを抱えつつ、アリアは自分の成長を姉に理解してもらう日が来ることを願っていた。彼女にとって、姉の愛情は嬉しいものの、時折その溺愛ぶりに困惑する日々が続いていた。

アリアは食堂で朝食を取りながら、心の中で決意した。「姉様にもう少し自由にさせてもらうためには、私がもっとしっかりしていることを示さなければならないわ。」

食堂の窓から差し込む陽光が、彼女の決意を照らし出すかのように輝いていた。

### キャナルの溺愛

キャナルがアリアの部屋を訪れると、クレオが部屋の整理をしているのを見つけた。しかし、アリアの姿は見当たらない。

「クレオ、アリアはどこ？」キャナルは焦りの色を隠せずに尋ねた。

クレオは冷静に答えた。「お手洗いでございます。」

その言葉を聞いた瞬間、キャナルの顔はものすごい形相に変わり、彼女はクレオの胸ぐらを掴んだ。「なぜ、一人で行かせた？」

クレオは冷静さを保ちながら答えた。「お手洗いは、一人でするものでございます。」

「途中で何かあったらどうするの？」キャナルの声には不安と苛立ちが混じっていた。

クレオは優しく諭すように言った。「何かとは何でございますか？」

「事故とか誘拐とか迷子とか…」

クレオは一瞬考えた後、しっかりと答えた。「お嬢様、屋敷内で誘拐や事故など起こるわけがありません。アリアお嬢様は、屋敷の内部構造を熟知していますし、迷子になることもありえません。」

「賊が侵入してくる可能性は？」

「ありえません。当家のセキュリティは万全です！」

「本当に？」

「はい、100％問題ございません。」

クレオはもちろん、100％などということは現実にはありえないことを知っている。しかし、そう言わないとキャナルお嬢様が安心できないことも理解していたため、あえて100％と言い切ったのだ。

キャナルはその言葉に少し落ち着きを取り戻し、クレオを見つめた。「そう…ありがとう、クレオ。」

クレオは微笑みながら頷いた。「どういたしまして、お嬢様。アリアお嬢様はもう10歳です。一人でお手洗いに行くくらいはできますよ。」

その時、アリアが部屋に戻ってきた。彼女は開口一番、「姉様、やめて。部屋の外まで聞こえました。一人でお手洗いに行ける、行けない、そんなこと聞こえたら恥ずかしい」と言った。

キャナルはアリアに優しく微笑んだ。「そうね、アリア。私が心配しすぎなのかもしれないわ。」

クレオも微笑みながら、「お嬢様、お姉様はあなたのことを本当に大切に思っているのです。ただ、それが少し過剰になってしまうだけです。」とアリアに言った。

「少し？クレオ、あなたの量計がおかしい」アリアは半ば呆れながらも笑顔で言った。

アリアは少し困ったように笑いながら、「わかってる、クレオ。でも、姉様、もう少し私を信じてくれると嬉しいな。」とキャナルに言った。

キャナルはアリアの言葉に頷き、少しずつ過保護を控えることを決心した。しかし、アリアのことを思うあまり、完全にその心配性を克服するにはまだ時間がかかりそうだった。

アリアは思った。学院では過保護だが、自宅では溺愛が過ぎると…。