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第八話 因縁

  「やっぱな」?

 それはどういう反応なのだろう。朝霞くんも神様を信じているから? だけど僕が気になっているのは。



「なぁ朝霞くん、賞与ってなんなん?」

「賞与な。通常早期元服すると、最初は天皇様から無銘の刀を賜るんじゃけど、活躍なんかによって、前世と関係の深かった刀を賞与として賜ることがあるんだって」

「前世と」

「そう。まぁそれも1個、試験みたいなんがあるらしいけど。でも今回のはほんまに俺の手柄でもなんでもないけぇ受け取れんのよな。どうせならの下で振るいたいって願望もあったり」

「兄者?」

「そ。それに、ちぃと荷が重いというか、俺にはまだそんな凄いん賜る資格はない」

「そんなもんかぁ?」

「ほぉよ。だってな、刀って国宝やぞ」

「国宝! それは、確かに」

「しかも今回のは……」



 朝霞くんがそこまで話したところで、ガラガラと先生が戸を開いて教室に入って来たのだった。





◇ ◆ ◇




「じゃあ、歴史の授業を始めます」


 そう言って先生は一限目・歴史の授業を始める。




「日本国『平安時代末期』。今の私たちの世界と似ていると言われている時代です。今日は屋島やしまの合戦について詳しくやっていきます」


 屋島の合戦。源平合戦でも有名な合戦の一つで、壇ノ浦の合戦の1つ前の戦とも言われているこの合戦は、弓の名手である那須与一なすのよいちが弓で扇を射たというエピソードが有名でもある。平家物語でも、この扇を射るときに「ひいふっとぞ射切ったる」と表現されているのがなんとも趣深い。



「この話は那須与一が有名です。彼は源氏側の人間で、船に浮かぶ平氏が掲げた扇を弓で射ましたね。その後、それを称えて舞う平氏の翁をも射殺してしまいました」


 ものすごい話だ。敵が船の上で扇を掲げているから、大将に「あれを射よ」と言われて見事に射貫いてしまうなんて、世界選手ですら吃驚ものの芸当である。



「この時、那須与一に命じた大将は誰だったでしょう。村上くん」


 村上くんはどきっとして「えっ」と言う。


源義経みなもとのよしつね?」

「正解です。源義経は、」



 と先生が言いかけたところで、「義経の八艘飛はっそうとびも屋島やっけ?」とどこからか声が聞こえた。



「八艘飛びは壇ノ浦の戦です。平氏が滅亡していく中、最後まで義経を討とうとした平教経たいらののりつねという猛将が追いかけた際に、義経が船を八艘分飛んで逃げたという話ですが……」



 平教経。昨日兄ちゃんは、平宗盛たいらのむねもりという平氏の棟梁だった武将の記憶を持っていると言っていた。じゃあ平教経の記憶を持つ人や、源義経の記憶を持つ人もいるのだろうか。




「伊月くん」




 そういう人たちって、生まれ変わっても仲悪かったりするんかな。兄ちゃんも前世の記憶をちょっと引き摺っていたようだったし。

 ……そういえば前世の記憶と元服の話。昨日の秋宮くんの口ぶりだと、それらはどうやら関係があるようだった。兄ちゃんは『平宗盛』だと言うし、朝霞くんも先ほど、、と言っていた。ということはつまり、早期元服している人は、誰かしら前世の記憶を持つ人である可能性が高いということだ。




「おーい、伊月ィー」




 じゃあ朝霞くんは……さっき『兄者』と言っていた人も含めて、一体誰だ。

 ふと朝霞くんを見ると、なにやらこちらを見て気まずそうな顔をしている。




「なぁ伊月くん、先生呼んどるで」

「えっ」




 こそこそっと朝霞くんが教えてくれたけれど、先生の目は完全に鬼モードになっていた。

 驚いて、僕はガタッと勢いよく椅子を下げて起立する。



「伊月、今話聞きよらんかったじゃろ」

「……ハイ」

「伊月がぼんやりするなんて珍しいが、私の話を無視して考え事とはえぇ度胸しとるな」

「……スミマセン」

「朝霞くん、代わりに答えたって」



 ごめん、朝霞くん……

 だけどあてられた隣の朝霞くんは、一瞬怖い顔をした。



「壇ノ浦の戦で平教経は結局、八艘飛びで逃げた義経を捕らえることはできずに、別の敵を抱えて最後は入水します」

「その通りです。伊月くん、ちゃんと話を聞くように」

「……スミマセン」



 しょんもり着席する僕は、隣で朝霞くんが「義経ェ……」と怖い顔をしながらつぶやいていたのを見逃さなかった。

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