しばらく真面目に授業を聞きながらも、先ほどの朝霞くんの怖い顔が離れない。何か義経に思う所がありそうなあの様子は……もしかして朝霞くんが持つ前世の記憶は、平家の誰かのものなのかもしれない。
誰だろう。
あとは壇ノ浦で平家の棟梁だった平宗盛は兄ちゃんだし、それから平家の軍を指揮していたのは……
壇ノ浦で、軍を……指揮していたの、は、
……
………平の、知、
……?
突然、ぐるりと脳が揺れるような感覚に襲われる。
……なんだこれ……っ、頭が割れるように痛い……
「なぁ伊月くん、大丈夫か」
はっと顔を上げると朝霞くんの心配そうな顔が目に入る。
突然の頭痛で僕は真っ青になっていたらしい。
「伊月くん、さっきも集中しよらんかったようじゃし、体調悪いんじゃないん?」
「いや……そんなことは」
「先生に言っといたるけぇ、今日は帰りんさいや」
「……」
本当は朝霞くんとももっと話をしたかったけれど、致し方ない。この時、僕は動悸がすると共に全身にすごい冷汗をかいていた。
朝霞くんは先生に僕の体調不良を告げ、僕はこの日早退することになった。
◇ ◆ ◇
帰り道。先ほどの頭痛が嘘のようにひいていて、やっぱり帰ってくるんじゃなかったなぁと僕は後悔していた。せっかく朝霞くんも来ていたから、もっと話を聞いてみたかった。
よく晴れた道を、家のある海の方へ向かって歩く。今日は快晴で少々暑く、半袖のカッターシャツがじんわりと汗ばむのを感じていた。
今ならまだ戻れるかも、と引き返そうと思ったその時、やや小柄の、白のカッターシャツに黒い学生用スラックスを履いた男の子が海に向かって歩いていくのを見た。
色白で、さらさらと風に靡く短い黒髪に、ぱっちりとした大きな目と形の良い凛々しい眉は……遠目から見てもあれは眞城くんかもしれないと思った。よく見ると、背丈の半分以上はあるんじゃないかというほどの刀を佩刀している。
……昨日も、履いていた。あれは、眞城くんだ。
だけど全国大会は昨日中止になったはずで……もしかしたら昨日の大嵐で
……だけど、一人で? 一人が好きなのだろうか。
話しかけようか一瞬躊躇したけれど、僕は思い切って追いかけて、話しかけてみることにした。
「ねぇ、君」
なんだこのナンパみたいな声のかけ方は。間違えたーっと、僕は思ったけれど、その眞城くんと思われる子は驚いたように振り向いて、「君は、」と小さく声を発する。
僕よりもちびで、声変わりが始まったばかりのような高い声。そんな特徴がどことなく僕と似ていると思ったけど、僕と違うのはもっと可愛らしい雰囲気だということだ。長い睫毛も、陶器のような白い肌も、改めて大変な美少年である。これでいて反則級に剣道が強いだなんて、それこそが反則である。
そんで背が低くて色白で……彼を間近で見ながら、何かが脳の奥の記憶に触れるような感触を感じていた。
……この、特徴って。
そう思った瞬間に、昨日と同じような、強烈な既視感に襲われる。
そして……昨日同様、僕のではない記憶が流れ込んできたのだ。