河原で少し語り合った後、濡れたままの身体が夜風に冷え始めた僕たちは、眞城くんの「今日は家に泊まったら」の言葉に、眞城くんの家に一泊させてもらうことになった。
「ありがとう、眞城くん」
「どういたしまして。そんな濡れた恰好じゃ帰れないもんね」
「恩に着ます」
「そんな畏まらなくてもいいよ」
そんな風に笑いながら言う眞城くんとは、少し距離が近づいたようにも思われて、嬉しくも感じる僕であった。
眞城くんの家はそこから歩いて十分くらいのところにあったけど、なんとも綺麗なマンションにも見えるここは、天皇家に仕えるために京で活動する人たちの寮らしい。見た感じ新しそうだけど、景観を損なわないようにやや和風な造りで落ち着いた雰囲気の建物のようで、セキュリティなんかもしっかりとしていそうである。
……天皇様にお仕えする人たちがいるということは、他にも前世の記憶を持つ人たちが、ここには住んでいるのだろうか。
なんとなく警戒してしまう僕だったけれど、眞城くんは特に気に掛けることもなく、エントランスへと入っていく。
「どうぞ、伊月くん。……何もないけど」
「ありがとう。お邪魔します」
まだ新しく、きちんと整頓された眞城くんの部屋は、確かに普段京で活動しているという割に、思った以上に何も置いていない。……片づけられているというのも確かにそうなのだが、そもそもの物自体が少ない。
だけどそんな部屋に、眞城くんがその腰に佩く薄緑を丁寧に置くと、なんだかそこだけ異様にも感じられる。
「眞城くん……意外とミニマリスト?」
「別にそういうんじゃないけど。非番の日は大体
「じゃけぇか。……これは?」
僕が目に入ったのは、ひらがなで『まこと』と書かれた絵本を含む、平安時代に関する書籍の数々だ。思い入れがあるのか読み込んだものなのか、どれもかなり使い込まれていたように見える。
「前世のこと。君だって調べたでしょ」
「それはそうじゃけど……まことって、眞城くんの名前?」
「そう。僕の幼名」
「まことくん」
「……なんだよ、あきら」
ぶっきらぼうにそういう眞城くんは、やっぱり眞城くんである。
そんな後ろ姿を見て、改めて、同じ中学生なんだなぁと思った。……だけど、なんだか先程から少し様子がおかしい。どこか寒そうに腕をさすったり、小さくくしゃみをしたりしている。心配になって声をかけるも「大丈夫」というばかりで、眞城くんはてきぱきとお風呂の用意すると、僕を向いて言う。
「とりあえず、先シャワー浴びていいよ」
「いや、眞城くんから……」
「いいから。客人より家主が先に入るとか、ありえないでしょ」
「……でも」
「湯船も多分もうすぐたまるから、使って。あと、これ。服とバスタオル。サイズ大体一緒だと思うから。あとは適当に使って」
ぼん、と押し付けるように僕にそれらを渡す眞城くんは、13歳にして随分と一人暮らしに慣れてるんだなぁと思うと同時に、今日の取り乱し方と弁慶と再会できた時のあの喜び方を見ているからか、今までどんなふうに一人で過ごしてきたんだろうと……そんな風に思う僕もいた。
……。
……でもやっぱり、先程から眞城くんはややしんどそうに見える。疲れているというよりは、体調が悪いような。寒そうに少々身体を震わせ、顔色も声のトーンも優れない。
「眞城くん」
「なに」
「……今日、は…………なぁ、顔色悪いけど、ほんまに大丈夫?」
「うん、大丈夫……っくしゅっ」
改めて正面から眞城くんを見ると、その白い顔はやや熱を帯びているかのように紅潮している。
「眞城くん、やっぱり先入りよ」
「いい」
そんな風に言う眞城くんだったけど、僕が急いでシャワーを浴びて出てきたときには倒れ込むかのようにベッドに横になっていたのだった。