「眞城くん、大丈夫か」
「うん……」
半分眠ったように倒れる眞城くんに触れると、身体が熱い。先ほど川の水に濡れたまま、身体を冷やしたのかもしれない。
「なぁ、大丈夫じゃないじゃろ。とりあえずシャワーを……濡れた服も脱がんと」
「うーん……」
ぼんやりと応える眞城くんは、僕に言われるがままにシャツを脱ぐ。こういうところ、末っ子気質だよなぁと………
……末っ子?
そういえば。
眞城くんを介抱しながら、前世では弟がいたような気がするなぁ……と思い出す。
眞城くんの白い身体は、冷たいような熱いような変な感じがして、肩で浅い呼吸をするとともに、額にもじんわりと汗をかいている。
これ、絶対大丈夫じゃないやつじゃろ……
熱がありそうだから風呂に突っ込んで大丈夫なのかとちょっと心配にもなったけれど、川の水に
「ほら、脱衣所はこっち。下は自分で脱いで……」
そんな風に眞城くんを風呂場へ誘導していると、またしても記憶が……それも、随分と古い記憶が、頭の中に思い起こされたのだ。
……
…
* * *
…
……
「 「弟??」 」
目を丸くして言うは、幼少期の私と……兄、清三郎(宗盛の幼名)である。
時は1160年。平治の乱が終わったばかりの頃で、私は八つ、兄は十三。一昨年、平五郎(重衡の幼名)が生まれ、四男である私にも弟ができたと喜んでいた時のことだ。
「先の平治の乱で勝利を収めた父上がお救いになられた、妾の子、だそうだ。上から今若、乙若、牛若というらしい」
言うは長兄、重盛である。一番上の今若は私と同じくらいの年のようだが、一番下の牛若はまだ歩けるのかも怪しい赤子。この時、弟の平五郎をとてつもなくかわいがっていた私は、同じ年頃の今若よりも、赤子の牛若が気になって仕方がない。
そんなある日、兄上と共に弓の訓練をした後に縁側で並んで休息を取っていると、奥の部屋から赤子のもののような泣き声がする。母は離れているのか、赤子はなかなか泣き止まない。
「兄上、赤子の泣き声が」
「平五郎……じゃなさそうだが」
「先日の、牛若でしょうか」
「覗いてみよう」
兄上とともにちら、と覗くと、まだ一つか二つになる前程の、珠のように可愛らしい赤子が、顔を真っ赤にして泣いていた。
どうやら昼寝から目覚めたところらしく、母を探しているようにも見てる。
「母君は……近くにおらぬようだが」
近くに母がいないのかと探し始める兄上をよそに、私は部屋には入らず、縁側からその赤子を眺めていた。
泣いてはいるが、なんと可愛らしい赤子だろうかと、思った。
「牛若」
私はそっと名を呼んでみる。しかし、一向に泣き止む気配はない。
「おぉい、牛若ぁ」
私の声に、一瞬、此方を向いたような気もした……が、私を見るなり泣き止むどころか、ますます大きく泣くばかりである。幼い私はただ狼狽えることしかできず、「う……、今、母君が来るぞ」などと、伝わるかどうかもわからないのに、
……
…
* * *
…
……
その赤子こそが、将来の源義経……自分を平家諸共、海に沈める存在になることなど、この時には知る由もない。
だけど僕は今、僕の肩でぐったりとする眞城くんをなんとか脱衣所に押し込みながら、そういえばそんな時代もあったんだったなぁ……などと、平和なひと時があったことをそっと胸の裡に仕舞う。
……今はそんなことよりも、とにかく、早く熱が下がってくれたら良いのだけど。
今回の眞城くんの体調不良は僕のせいではあるけれど、なんとなく……相変わらず世話の焼ける弟のようだなと思うとともに、眞城くんのお兄さんがあんなにもツンデレ過保護になる理由が、よーく分かったような気がした。
* * *
暫くすると、シャワーを浴びて寝間着代わりのラフな服に着替えたものの、適当に髪を拭いただけの状態の眞城くんが出てきた。
……その様子を見て、僕はお節介が発動する。
「眞城くん、髪、乾かさんと」
「もう……いいよ……」
「……。また風邪悪化するじゃろ。僕が乾かしたるけん、ドライヤー借りるで」
「……うん……」
ぐったりとする眞城くんは、相当体調が悪そうである。
「あと、薬は?」
「……そこの引き出し」
「わかった。あとは僕が片づけとくけん、眞城くん、これ飲んでおやすみ」
「……ん……ありがと…………」
眞城くんは薬を飲むなり、静かに眠ってしまった。
……
……。
……だが、無防備が過ぎんか?
いや、和解したとはいえ、前世も前世。先ほど決闘したばかりの仲なのに。万一今僕が心変わりして、寝首をかかれでもしたら、どうするんだろう。
まぁ、そんなことはせんけども。
信頼してくれとるという証だろうか。
だけどこれはー……眞城くんのお兄さんが過保護になるのも致し方ないなぁと(二回目)改めて思いながら、濡れた服を洗って干す等片付けをした後、僕も床に横になって緩やかに眠りにつくのであった。