私は重衡の軍勢を、落とされたという山の手の方へ援軍に出しながらも、自らは最後までこの森で戦い抜くと心に誓う。
だが、次第に我が軍は敗走する者が増え、源氏の者が森を抜けていく。平家側の士気の低下、源氏側の滾る勢いは火を見るよりも明らかであり、本当に平家は敗北したのだと悟る。
「新中納言殿も、もうお逃げください」
「……っ、しかし……!」
「貴方は、今後の平家になくてはならぬお方です。新中納言殿がいなくなられては、誰が今後の平家を指揮して下さるのでしょう」
家臣である
敵に討たれ、皆散り散りに敗走するうちに、私は息子・
だがそんな折、敵陣……源氏・児玉党と見られる団扇を差した十騎ほどの武者集団が追いかけてきたのだ。
「そこにいらっしゃるは生田森の総大将とお見受けする! いざ尋常に勝負致せ!」
その声に振り向く私に、頼方は弓を構えながら大声を張る。
「新中納言殿はお逃げくだされ! ここは私共がお相手申す!」
そう言いながら頼方が番えた矢は、敵の先頭の首をひょうっと貫く。
敵勢は一瞬静まり返ったのちに、「やりおった……!」と此方に勢いよく駆けてくる。
「皆の者! 今こそ手柄を挙げる時である! 総大将を狙え!!」
「うおおおおおおっ!!」
勢いそのまま、敵の大将と見受けられる者が、私と組み合おうと馬を横に走らせたときである。私のすぐ近くを駆けていた息子、知章がその間に割り入ってきたのだ。
「父上! ここは私共が守ります! 父上は一刻も早く御座船へ!」
「知章……っ、何を」
「父上は平家になくてはならぬお方……! 必ずや、ご無事で!」
言うが早いか、知章は敵将に掴みかかると、二人揃って勢いよく馬から落ちた。敵将に重なるようにして落ちた知章は、素早く相手を取り押さえ、腰刀を抜いてその首を斬る。鮮烈に散るその鮮血が、脳裏にじわりと焼き付くもそれも束の間、知章に近づくは小さな童。その手には太刀を握り、刹那、知章の首を目掛けて振り落とし―――
「っ……、知章ーーーーーっっ!!!」
私の声は、もう息子には届かない。
私がその後に見たものは、私と守ると言った家臣……監物太郎頼方が、息子の首を討ち取った童の首を刎ね、そのまま敵陣に囲まれながらも散々に弓を射まくり、最後は膝を斬られて立ち上がれぬままに討死する姿であった。
……
…
* * *
…
……
う、わあああ、あああっ
今の叫びは自分の口から出ていたものなのか、前世の
はっとして上体を起こすとそこは、物が少なく、綺麗に整頓された部屋で、一瞬どこであったかと困惑する。……が、僕の顔を心配そうに覗き込むその顔を見て、ここが眞城くんの部屋だったことを思い出す。
「伊月くん……大丈夫?」
「……っ、…………眞城、……くん……」
どうやら、今の叫び声は自分の口から出ていたらしい。全身に汗をかき、涙がほろほろとこぼれた今の僕は、きっと酷い顔をしていたことと思う。コップに水を注いで持ってきてくれた眞城くんはそれを僕に手渡すと、静かに僕に尋ねる。
「前世の夢を見た?」
「…………うん」
「そう」
僕は水を一気に飲み干すと、涙と汗を袖でごしごしと拭う。
眞城くんは少し哀しそうな顔をしていたけれど、僕の肩をぽんぽんとするなり、「ゆっくりしてて」と言って朝食の支度を始める。
僕は、前世のことだと強く言い聞かせながらも、なかなか動悸が収まらず……つい、「知章……」と声が漏れるのだった。