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第四十話 夢と現実

 暫くの間沈んだ気持ちを整理できないまま、眞城くんが朝食を作って持ってきてくれた。体調は……昨日はあんなに具合が悪そうだったけれど、もう良いのだろうか。


 トーストした食パンに、目玉焼きとサラダの乗ったプレートは、お世辞抜きに、凄くおいしそうである。しかもコーンスープまでついている。

 あのような苛烈な夢を見た直後で食欲はなかったけれど、これを眞城くんが作ったの……? という驚きが、今は少し哀しみを癒してくれている気がする。

 小さなテーブルにお皿をことり、と置く眞城くんは、コップに水を注ぎながら僕に言う。



「少しは食べた方がいいよ」

「……眞城くん、体調はもういいん」

「うん、大丈夫。昨日は……色々と、ごめん」

「ううん。元気になってよかった。……これ、全部眞城くんが?」

「スープは違うけど。市販のやつ混ぜただけ」

「眞城くん、すんごいんじゃなぁ……」

「……全然、凄くないよ。前世の夢は、僕も見るから」



 そんな風に言う眞城くんの言葉に、眞城くんもなんだ、と胸がぎゅっとなると同時に、少しだけ、ほっとする僕もいた。

 ……そっか、僕だけじゃないんだ。

 前世の記憶を持つ人は、もしかしたら少なからず、あるのかもしれない。



「眞城くんは」

「……ん」

「どんな夢を見るん」

「僕はね。…………」

「……答えにくい?」

「いや、……ごめん、…………僕は」

「……うん」

「自分の、最期を」

「……」

「それから、弁慶の事」

「……!」



 ……そうか。だからあんなにも取り乱したのだ。

 弁慶は、前世でよっぽど大事な人だったのだと、思った。僕も先ほど……前世の、息子や家臣の夢を見て、思った。


 きっと、大事な人だから夢に見るのだと。

 そして、もしも叶うのならば、今世でまた会えたらと。


 だけどそんな可能性、きっと本当に少ないことなのだろう。

 でも……そう願わずにはいられない。



「眞城くんは」

「……うん」

「弁慶に会いたいんだね」

「……そうだね」

「……」



 そこまで話をして、眞城くんが『今世では、君と仲良くしてみたかった』と言った意味が、やっと分かった気がした。

 こんな、同じ時代の者同士の転生なんていう、物凄く低い確率での再会は、もしかしたら奇跡に近いのかもしれない。


 ……そう思ったら、知章も、頼方も、この時代には転生していないかもしれない。



 ……。



 いや、だけど、もしかしたら。もしかしたら、この世界のどこかのどこかにいるんじゃないか。そんな風に、信じてもいいんじゃないだろうか。

 ……信じるくらいは、許されるのではないだろうか。



 「伊月くん」



 つい考え込んでしまう僕に、静かに話しかける眞城くんが、そこにはいた。



「ね、食べよう。食べたら、ちょっとは元気が出るかも」

「……」

「ね」

「……うん。ごめんな、眞城くん」

「いいんだよ」



 眞城くんも、きっと前世の記憶に苛まされたことがあるんだろうなと、思った。だから、会いに来てくれたんかな……僕が、同じように前世の記憶に、囚われてしまわないように。

 僕は一口、トーストをかじる。



「……美味しい……」

「でしょ」



 僕はにこりと笑う眞城くんの優しさに、温かいトーストを食べながら、涙がほろりと零れるのだった。

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