暫くの間沈んだ気持ちを整理できないまま、眞城くんが朝食を作って持ってきてくれた。体調は……昨日はあんなに具合が悪そうだったけれど、もう良いのだろうか。
トーストした食パンに、目玉焼きとサラダの乗ったプレートは、お世辞抜きに、凄くおいしそうである。しかもコーンスープまでついている。
あのような苛烈な夢を見た直後で食欲はなかったけれど、これを眞城くんが作ったの……? という驚きが、今は少し哀しみを癒してくれている気がする。
小さなテーブルにお皿をことり、と置く眞城くんは、コップに水を注ぎながら僕に言う。
「少しは食べた方がいいよ」
「……眞城くん、体調はもういいん」
「うん、大丈夫。昨日は……色々と、ごめん」
「ううん。元気になってよかった。……これ、全部眞城くんが?」
「スープは違うけど。市販のやつ混ぜただけ」
「眞城くん、すんごいんじゃなぁ……」
「……全然、凄くないよ。前世の夢は、僕も見るから」
そんな風に言う眞城くんの言葉に、眞城くんもなんだ、と胸がぎゅっとなると同時に、少しだけ、ほっとする僕もいた。
……そっか、僕だけじゃないんだ。
前世の記憶を持つ人は、もしかしたら少なからず、あるのかもしれない。
「眞城くんは」
「……ん」
「どんな夢を見るん」
「僕はね。…………」
「……答えにくい?」
「いや、……ごめん、…………僕は」
「……うん」
「自分の、最期を」
「……」
「それから、弁慶の事」
「……!」
……そうか。だからあんなにも取り乱したのだ。
弁慶は、前世でよっぽど大事な人だったのだと、思った。僕も先ほど……前世の、息子や家臣の夢を見て、思った。
きっと、大事な人だから夢に見るのだと。
そして、もしも叶うのならば、今世でまた会えたらと。
だけどそんな可能性、きっと本当に少ないことなのだろう。
でも……そう願わずにはいられない。
「眞城くんは」
「……うん」
「弁慶に会いたいんだね」
「……そうだね」
「……」
そこまで話をして、眞城くんが『今世では、君と仲良くしてみたかった』と言った意味が、やっと分かった気がした。
こんな、同じ時代の者同士の転生なんていう、物凄く低い確率での再会は、もしかしたら奇跡に近いのかもしれない。
……そう思ったら、知章も、頼方も、この時代には転生していないかもしれない。
……。
いや、だけど、もしかしたら。もしかしたら、この世界のどこかのどこかにいるんじゃないか。そんな風に、信じてもいいんじゃないだろうか。
……信じるくらいは、許されるのではないだろうか。
「伊月くん」
つい考え込んでしまう僕に、静かに話しかける眞城くんが、そこにはいた。
「ね、食べよう。食べたら、ちょっとは元気が出るかも」
「……」
「ね」
「……うん。ごめんな、眞城くん」
「いいんだよ」
眞城くんも、きっと前世の記憶に苛まされたことがあるんだろうなと、思った。だから、会いに来てくれたんかな……僕が、同じように前世の記憶に、囚われてしまわないように。
僕は一口、トーストをかじる。
「……美味しい……」
「でしょ」
僕はにこりと笑う眞城くんの優しさに、温かいトーストを食べながら、涙がほろりと零れるのだった。