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第四十四話 神勅が下る条件

 早期元服に際し、神勅が下る、条件。

 眞城くんと初めて会った時に、言っていた。



 一つ目が、前世の記憶を持つこと。

 二つ目が……その記憶が誰なのかを思い出すこと。



 それは武将だったり政治家だったり、色々あるかもしれないけれど……と、そこまで聞いた時に、眞城くんの前世は源義経なんじゃないかと思って……そうだ、最後まで聞かずに遮ってしまったんだ。



「三つ目……」

「そう。三つ目が重要」

「……わかんない」

「ちゃんと考えた?」



 すぐにわかんないと言ってしまった僕に対して、静かで真っ直ぐな眼差しで尋ねる眞城くん。その様子を見ている令順のりよりさんは、やや苦笑いである。



「……ちょっと待って」



 そう言われる僕は少し考える。

 早期元服の条件は……前世の記憶を持ち、それを思い出すこと。

 それは武将や政治家だったりすることもあるとのこと。今のこの院政などの時代背景を考えると、平安時代と何か関係がある……とか?



「その記憶が平安時代のものであること?」

「あぁ、それもあるかもね。だけど、もっと重要」



 平安時代に生きた人間の記憶を持ち……それ以上に重要なこと……



「平安時代の……歴史的な知名人」

「違う」

「教科書に載ってる人?」

「うーん、遠のいたかな」

「……?」



 わからない。平安時代の人で……武将とか政治家とか……色々いるけど……?



 ……



 僕がうーん……と唸りながらぐるぐると考えていると、その様子を見ていた令順さんが助け船を出してくれる。



「じゃあ伊月くん、ヒント。ここはどこでしょう」

「……京?」

「……の?」

「御所……ですけど……」



 御所。天皇家のお住まいであり、政治や儀式を行う場所。ここに何か関係が……?

 余計にわからない。平安時代に御所を訪れた事がある人……? いや、そんな安直なわけ……

 僕が熟考していると、眞城くんたちが話すのが聞こえてくる。



「兄さん、それじゃわかりにくいと思うよ」

「そうかな?」

「伊月くん。『神勅が下る』条件だからね。君は勝手に早期元服してしまったけど、本来、誰が神勅を下す?」



 ……神勅が下る、条件。

 神勅を下すのは天照大御神アマテラスであり、天照大御神は天皇の祖神で……



 ……



 ……!



 わかった……かもしれん。



?」



 半分ドキドキを抑えられない気持ちで、眞城くんを見る。当の眞城くんは満足そうな笑みを浮かべて僕を見返している。



「正解」



 自分で言っておきながら、うわぁ、と思う。

 ……どういうことか。それは、源氏も平氏も、そもそもは天皇家の血を引く家系であったのだ。

 頼朝や義経の源氏の血筋は、清和天皇を祖とする清和源氏であり、一方の清盛や知盛といった平家の血筋は、桓武天皇の子孫である桓武平氏を祖先とする。



 この場に来ていたのは、僕と眞城くんと令順のりよりさんの、三人。僕は思っていた以上に少ないと感じていたけれど、そもそも前世の記憶を持つという人が少ない上に、天皇家の血筋を引く前世を持つなんて、更に稀少なことなのだろう。



 つまり神勅が下る者は、生まれつき決まっていたということだ。あとはそれを……思い出せるか、どうか。



 ……。



 改めて、不思議な世界だ。神様がいて、前世の記憶を持つ者がいて。



 ……では、魔物とは一体、なんなのだろう。

 僕がそんな疑問を抱いていると、法皇様の使いの者が、間もなく法皇様がお越しになる旨を伝えに来たのだった。

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