眞城の今言った『前世』。兄もぴくりと反応したようではあったが、僕は思わずその言葉を復唱する。
「前、世……?」
「そう、前世。君のお兄さんだって……」
眞城がそこまで言いかけたところで、突然、けたたましい警報の音が鳴り響く。
ジリリリリリリリッ……!
唐突な警報音に、思わずびくりとする。
この警報は……今まで僕も、何度か聞いたことがある。
「これ、は……」
「魔物出現の警報……かな?」
「……っ、待って、眞城くんは……、」
「ごめん伊月くん。僕、行かなくちゃ」
眞城くんは静かにそう言うなり、凛とした真顔のまま会場内へと戻っていってしまった……が、その直後。会場には警報と、本日の
『只今、海の方角より魔物が発生した模様です。誠に残念ながら、本大会の決勝戦は
……っ、中止!? 延期ではなく???
僕は驚くと共に、ピシャリと冷や水をかけられたようなショックを受ける。今までこんなにもがんばって来て、あと残すは決勝戦だけだったのに……!
なんで、こんな時に魔物なんか……っ
……
…………だけど、この騒動では……悔しいけれど、そんなことを言っている場合ではない。何よりも人命が大事である。
辺りを見回すと、館内も騒然とし、わぁわぁと混乱し始める。
……どうしよう。
「晃も
「……兄ちゃんは」
「俺は、」
僕のことを気にかけつつも、扉の向こうをじっと見る兄は、冷汗が浮かんでいる。もしかしたらこのまま魔物を討伐しにいかなくてはならないのかもしれない、と思った。
……不安である。この兄は、確かに剣道の腕は凄いのだが、やや優柔不断なところもあるのだ。それも、今手に持つのは
竹刀とは、きっと重みが違う。
だけどそんな時、先ほど体育館へ戻った眞城くんが走って出入り口の扉へ向かっていくのを見る。
「……っ、眞城くん……っ」
眞城くんの小柄な体は、迷うことなく、風のようにするすると人と人の間をすり抜けてゆく。そしてそのまま、傘もささずに外へと駆けていってしまったのだ。
「……!」
僕が眞城くんと話したのは、ほんの数秒。
だけど、彼の圧倒的な存在感とその言葉は、確実に、僕の心をつかむ何かがあった。
……彼は、何を知っている?
『前世』とは?
なぜ、一度会ったことがあると思ったのだろう。それも……恐らく、ただ会っただけではない。
……この違和感のその正体を、きっと彼は知っている。
行かなくては。
「……っ、晃!?」
兄の声がするより早く、僕は何も持たずに会場を飛び出していた。
「おい、晃っ!!」
『繰り返します、本日の決勝戦は中止といたし……』
館内では、繰り返し本日の大会中止と避難の案内が流れている。
大会自体の、中止。ここまできて、こんなにも悔しいことなんてないはずなのに……だけどそんなことすら気にならないほどに、今の僕の心は眞城くんに囚われて離れない。
僕の、前世。そして魔物や佩刀の制度などと言った、この世界の謎は。
僕は大雨の降りしきる中、試合会場という小さな世界を飛び出して、走り出している。眞城くんが何を知っているのかも、どこへ行ったのかも、わからないのに。
だけど僕は……なぜか、眞城くんのことを放っておけなかったんだ。