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第15話 誕生杯の開始

 レースはアウラレイクの街に張り巡らされている水路を活用する。


 順当に各レースの予選が終わり、ついにロロ(操者)、リリーベル(射手)対ケビン(操者)、ヴァル(射手)のカードが始まろうとしている。


 船は24艘が横一列に並び、スタートの砲撃を今か今かと待ち構えていた。


 幸か不幸かロロ艇のすぐ隣はケビン艇であった。


「逃げずによく来たなロロ、父として誉めてやろう。

 だがどうかな、この水路レース12回参加の実力は伊達ではない」


「参加数が半端なのよ。

 しかもパパは毎回、予選敗退じゃない」


「うぐ、そ、それは忖度なく本気の勝負を皆に徹底したためでな――」


 慌てふためく領主を遮り、長杖を肩に担いだエルフの戦士はリリーベルへと指さした。


「リリーベル。

 マリアベルは強かった。

 ここで私に負ける程度じゃこの先、苦労するよ!」


「はい、胸をお借りします!」


 リリーベルが見据える先がヴァルから進行方向へと移動する。


 まるで強敵を乗り越えて前進する決意のように。


「まったく親子ともども、私を視界に入れてくれもしないねえ!」


 各艇では半身が水に沈んでいる競走馬――ケルピーたちのいななきがこだまする。


 ――3。


 ――2。


 ――1。


 ――ドンッ!!


『各艇一斉に走り出しました。

 おおっとスタートと同時に、すでに砲撃が始まっている!』


 村上は時計塔近くで観客席として作られたやぐらの上から、二人を見守っていた。


(がんばれよ、リリーベルさん。

 頼んだぞ、ロロウェルミナさん)


 握る拳につい力が入る。


(レースは1周して一番初めに戻ってきた船が優勝だったな)


 その間、自分の魔術は使えず、射撃による妨害のみが許されている。


(そして、二人でゴールしないといけない――難しいのはこっちか)


 スタートと同時に乱戦状態となり、射手が落下してリタイアしているチームが早くも散見される。


「まずは市街地か……がんばれ!」


★☆★


 水柱が上がる。


 ロロは手綱を華麗にさばいて、ケルピーを誘導した。


「ロロ、上手です!」


「簡単なモノよ――でもあの水柱は何!?

 同じウォーターアローとは思えにゃいんですけど!」


 支給された杖の改造はもちろん禁止だ。


 混戦の中、ヴァルが戦場の戦乙女の如く、次々と両手斧を振り回して魔術を使用している。


「うはははは!

 魔術の使い方ってのは、唱えるだけじゃないんだぜ!」


「ヴァルの筋力で杖を振る遠心力をウォーターアローに乗せている!?」


「そ、そんなの反則技じゃない!」


『ケビン艇のヴァル選手の射撃法ですが――許されます!』


「あんなのに巻き込まれる前に、前に出るわよ!」


 手綱を強く握る。


「いえ、スピードを落としてください」


「え――?」


 リリーベルの言葉を反射的に信じて、混乱している塊から後方に抜け出す。


「ふははっはー!

 一位は貰ったぜー!」


『おーっと、混戦を抜け出したのは我らが誇る領主ケビン様だー!

 人生初、人生初の1位の光景を堪能しているうう!』


 余計なお世話の実況に、ケビンは何やら叫び返したようだが、水柱の爆音により、すべてがかき消される。


 ここで脱落者は6艇、残りは18艇。


 ロロ艇は12位で順位をキープしている。


「ナイス判断よ、リリー。

 あのまま前に出たら、あの怪力エルフの水柱の餌食になってたわ」


「火力を重視し、命中率を無視した攻撃は混戦のみで効果を発揮します。次は市街地です、ですから――」


「狙いにくいところで、後ろから攻撃を仕掛ける――!」


 ケルピーの手綱を強く引いて、加速する。


 ケビンとヴァル以外はロロの手にかかれば敵ではない。


 華麗にウォーターアローを避けつつ、抜き際にリリーベルが一撃必殺で撃沈していく。


 狭い水路を壁際ぎりぎりで駆けていく。


 ケルピーは水辺の妖精だ。


 船を引いていても強い馬力が鈍ることはない。


『さあ、各艇、狭く曲がりくねった水路へと侵入する。

 速度を出しすぎれば壁に激突する難関だあ!!』


 追い抜くためにいくつかの船が速度を上げたが、曲がり切れずに水上露店へと激突する。


「おお、俺の露店がー!」


 だがその声はどこか嬉しそうだ。


 それもそのはず、この水路レース。


 破壊されたものは後から補填が入るので、商人たちからはむしろ歓迎されていた。


『おおーーーーっと!?

 なんだあの猛スピードで追い上げてくる船は!』


 後方のS字カーブを水しぶきを撒き散らしながら進む一つの船があった。


『あんな態勢見たことないぞー!?

 恐怖を知らないのは若さ故なのか、父を水に突き落とすという決意の表れなのか!』


 直角の曲がり角。


 ロロは手綱を握りつつも水面と180度になるように身体を傾ける。


 合わせてリリーベルも船のヘリをしっかりと掴んでロロと同じように身体を水面と並行していた。


『転覆しない、なんというバランス感覚!

 あの荒々しいケルピーを御しながらも進む姿は、水上の聖母様そのものだー!』


 ドリフトにより、天高く水しぶきが生まれる。


 ロロとリリーベルの水しぶきを観客たちが浴びると、歓声が沸き上がった。


「見えた――!」


 追い抜いた先、トロトロとようやく市街地を抜け出した船が見えた。


(母さんが書いてた通りだ)


 リリーベルは長杖を構えながら、こちらを鋭い眼光で睨みつけるヴァルを捉えた。


(澄ました表情で黙っていれば、きっと誰よりも美しいエルフなのかも――でも私は今の姿も嫌いじゃないです) 


白い牙をむき出しにして、口を歪めて笑う姿は悪役そのものだ。


「さああ、落としあおうじゃないか、娘ええ!!」


 長杖によって水が一刀両断される――!!


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