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第24話 これって宝石?

「つまり、桜の木の足元にある宝石は2なんですね」


 桜の木の前で村人たちに囲まれながら、酒をすする。


「爺様から聞いた話じゃあ。

 当時、悲しみの宝石と呼ばれ、洞窟にあったそうじゃ」


 年老いた村長が、爺様と呼ぶくらいだから、相当昔の話なのかもしれない。


「魔に染まった宝石は鉱山夫たちを魅了し、悪さをしていたようじゃが、二人の旅人により倒されたんじゃ」


「母さんとヴァル――」


 リリーベルさんが息を飲む。


「その時の欠片をここに埋め、旅人が東方の珍しい樹木を植えていったのさ」


「それでこの状況なんですね。

 けど、なぜ埋めたんですか?」


 悪さをした宝石ならばそのまま倒すだけでいいのではないのだろうか。


「――声を聞いたそうじゃ」


「声にゃ?」


 団子を見つめていたロロが顔を向けた。


「暗い――寂しい、とな。

 その心に魔が取りついたんじゃろう。

 寂しさを紛らわす為に、魅了し、宝石を集めさせていたんじゃ」


「意思を持つ石だったんですね……」


 しみじみと村上が頷く。


「師匠……」


「ムラカミさん……」


「ん――?」


「意思と石を掛けるとは、パパと同じオッサンだにゃあ……」


「わ、私は嫌いじゃないですよ」


「ち、違う、偶然だ!」


 オッサンという生き物は、意図せず、韻を踏んだだけでも駄洒落として受け取られるのだから、不毛な生き物だ。


 呆れるロロはともかく、頑張って励ましてくれるリリーベルの優しさが痛い。


「話は戻るがな、その旅人はこう言っとった。

 初めから悪いやつはいない――そう信じたい、とな」


 村長は髭を撫でて桜を見上げた。


「宝石と桜はみるみる仲良く成長してな。

 その後は寂しくないように、村人が年に1度、こうして桜を見ながら宴をするんじゃよ」


「お花見ってやつですね」


「おはなみ――ふぉっふぉ、良いな。

 集会に名前はないが、その名を付けよう」


 陽気に笑う村長はぐいっと酒を飲み干す。


「でな、桜の宝石に鉱山で発掘した宝石の原石を備えるんじゃが、まだまだ足りんでな。

 ルシフェルも手伝ってくれたんじゃが、この辺りはもう……」


「掘れなくなってきたと?」


 村上の言葉に村長は静かに頷いた。 


「桜の宝石は、原石を取り込んで寂しさと栄養を見たんじゃが、困り果ててたんじゃ」


「取り込むとは……石独自の文化ですね」


「師匠、せっかくだし、わたしたちも鉱石ほるほーるをするかにゃ?」


「良いですね、ロロ。

 私たちも手伝いましょう!」


 母親の足取りに辿り着いたこともあり、リリーベルが両手を握って立ち上がる。


 しかし村長は首を横に振った。


「残念ながら、ルシフェルでも両手に持つ程度しか集まらんのでは、もうここは廃坑じゃ」


「そんにゃ……」


「それでは、これから、どうなってしまうんでしょう」


 不安そうなリリーベルの声に、村長は息を吐いた。


「次の鉱山が見つかるまでは、寂しい想いをさせるじゃろう」


「そんな――ムラカミさん」


 リリーベルが不安げに村上を見上げる。


 宝石が力を失っていけば、再び人を魅了するかもしれない。


 せっかく平和になった村が、また危険に脅かされてしまう。


「じゃが、ワシらやルシフェルでこの一帯を改めて探してみたんじゃが、

 何も見つからずに、折れそうだった巨木が落下しただけじゃったよ」


 がははと笑うが、まさかその木は通り道を塞いでいた巨木だと気が付いたのは村上だけだった。


(宝石を取り込む修正か……。

 役に立つか分からんけど、何もしないよりはマシかもしれない)


「一応、やるだけやってみましょう」


 村上は腕まくりをしてメニュー画面を呼び出す。


「ムラカミさん、宝石も出せるんですか!?」


「さすが師匠、ただの軽食屋の中年店員じゃないにゃ!」


「それ褒めてないよな!」


 ツッコみつつメニュー画面をスクロールするが、さすがに宝石はない。


 スキルポイントはアウラレイクの旅でまだ余っているので、新しいスキルが取得できないか見てみる。


「ん……」


(これってファストフードなのか?

 いや軽食の女神さんだから、軽食扱いってことなのか……?)


 疑問を持ちつつも村上は新スキルを開放する。


「くう……分かっちゃいるが、これを押すのは勇気がいるぜ」


 新しい軽食スキルはとある商品を取り扱っているのだが、それをタップするには、相当な精神力が必要だ。


(だがこれも、リリーベルさんのため――)


「うりゃあああああ!」


 ――ぴっ。


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【本日のデザート】

・山梨県産シャインマスカットのレアチーズタルト/15cmホール(シャア・ト・レエゼン)

・2,700G

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 村上の財布から自然と2700Gが消える。


 これまでの軽食の約5倍のGが一瞬にして消えた。


 売上は軽食の女神さまへと繋がるのだろう。


「わあ、宝石のように綺麗な果実が乗ってますね」


「シャインマスカットという果物を使ったタルトさ」


 シャインマスカットとは日本産のブドウだ。


 1粒12gほどで食べ応えがあり、皮まで食べられる。


 糖度も高く甘みが非常にあり、宝石のように緑に輝いていることから『緑の宝石』なんて呼ばれているとか。


「まずは皆さんでどうぞ」


 ロロから切り分け用ナイフを借りて、タルト生地とムースがふんだんに使われているケーキを切り分ける。


(桜の宝石にもさらに納品するから、出費は痛いが――水路レースの時、十分に稼いだしな!)


 ゴールドに十分な余裕はあるが、一度で大きな金額が消えるのは貧乏性の

村上には精神的ダメージが大きかった。


「ほう……果実が宝石のようじゃ」


 手元にあった木のフォークで口元へ運ぶ。


 味わうようにゆっくりと口を動かしていたが、次第に表情が明るく変化する。


「み、皆の衆……!!」


 立ち上がった村長は村人へと大声を上げ、シャインマスカットを振舞う。


「た、魂が昇天しかけるぞい……!」


 おいおい、それは言いすぎだろ村長――と疑いながら若い村娘が一口。


「ん~~~~~っ!!!」


 手ごたえを感じた村上は、口元を押さえよだれを見せぬようにしているリリーベルへシャインマスカットを渡す。


「はい、リリーベルさんとロロさんも」


「あ、ありがとうございます!」


 ――ぱくり。


「うう~~~!!!

 口の中に広がる酸味と甘さ!

 こんなにも甘いフルーツは世界中を探しても見つかりません!!」


 目をキラキラとさせ、頬を抑えるリリーベルはさらに一口食べるたびに、自身の身体を抱いている。


 抑えきれないほどおいしいのだろう。


 その隣のロロは目を瞑りながら、しっかりと味わっている。


「……タルトのムースも極上ですわ。

 果物に目が行きがちですが、マスカットの甘みに合うように計算され、主役を際立たせるためのタルトたち」


 お料理メモへと書き込みながら、弟子として料理を学んでいた。


「では村長さん。

 今召喚したもう一つのシャインマスカットを、桜の宝石へ」


「うむ。

 行けるんじゃろか」


「信じましょう」


 ――シャインマスカットの価格と実力を!


 皆が息を飲みながら固唾を飲んで見守る中、村長は桜の宝石の一部、平たくなっている上部分へシャインマスカットタルト置いた。


「お願いしますじゃ……」


 他の村人も手を合わせて祈る。


「頼む……!」


「やはり食品は食品なのか……!」


「食べ物じゃ宝石の役割はできないのか……!?」


 誰もが諦めかけたその時、桜の宝石の中にストンとタルトが落下して消えた。


「お……?」


 まるで桜の宝石も『え、これって行けるの……?』と戸惑っているように見えたが――。


 結果は、待つまでもなく示された。


「おお、……桜が」


「さらに花を付けましたね」


 散った花びらさえも再び花を咲かせ、満開の桜の花びらが、小高い丘でそよそよそと春風に揺れた。


 ――新触感に感動するように。




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