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第4話 【第3章】魔竜を射落とせ――神通力、解放!

3-1 魔竜討伐への依頼




 王宮の謁見の間。

 陽光が射し込む中、静香は王アルベールと再び対面していた。




 静香の隣には、金色の髪を揺らすハイネルの姿もある。

 彼は小さな手を胸の前でぎゅっと握りしめ、真剣な表情で静香を見守っていた。




 王の表情は重々しかった。

 勇者として認めたとはいえ、目の前の少女にどこまで頼れるか、心のどこかでまだ計りかねている様子だった。




「宮本静香よ」




 王は厳粛な声で告げた。




「この国において、最も深刻な脅威――

 北の空を支配する"魔竜アークダロス"を討伐してほしい」






 広間にざわめきが走る。

 兵士たちも魔術師たちも、その名を聞くだけで顔を強張らせた。




「魔竜、ですか」




 静香は動じることなく問い返した。

 その静謐な態度に、王はわずかに目を細める。




「うむ。アークダロスは空を飛びながら魔素を撒き散らし、

 周辺の村を病と呪いで壊滅させておる。

 飛行高度が高く、我が王国の弓手も魔術師も届かぬ。

 討伐は試みたが、全て失敗した……」




「……なるほど」




 静香は短く頷く。




 強大な脅威、そして人々の無力感。

 それが王の重たい口調からも伝わってきた。




 王は続けた。




「このままでは、我が国はじわじわと侵食され、滅びを迎えるだろう。

 どうか、勇者よ……貴殿の力を貸してほしい」






 頭を垂れる王。

 静香はその姿を静かに見つめた。




(――あの傲慢な王が、ここまで頭を下げるとは)




 それだけ、追い詰められているということだろう。






「わかりました」




 静香は、一歩前に進み出た。

 自らの影が、玉座の階段に長く伸びる。






「貴方がたの事情に応える義務は私にはありません。

 しかし、私は……」




 ハイネルを一瞬だけ見やる。




「守りたいと思うものを、守るために戦います」






 静香の声には、迷いも虚勢もなかった。

 それを聞いた王も、そして臣下たちも、何も言葉を挟めなかった。






 その時だった。




 ハイネルが、ぱたぱたと小走りで静香のもとへ駆け寄った。




「静香様……!」




 きらきらとした蒼い瞳で、彼は言う。






「どうか、お気をつけて……!」






 小さな手が、静香の制服の袖をぎゅっと掴んだ。

 その温もりが、静香の胸に静かに染み込んでいく。






「ありがとう。行ってきます、ハイネル殿下」




 柔らかく微笑み、静香はその手をそっと握り返した。






 その光景に、王も家臣たちも、何も言えなかった。




 この少女が、なぜここにいるのか。

 彼女が何のために戦うのか。

 誰の目にも明らかだったからだ。






 ***






 魔竜が飛来するという北方の被害地域へと到着した静香は、

 一同に向かって静かに言った。




「準備を整えたいので、控えの場所を借りてもよろしいでしょうか?」






 兵士たちは一瞬きょとんとしたが、すぐに簡易テントを用意した。




 静香は静かにその中に入り、袴と白い道着へと着替えた。






 身支度を整えた静香は、静かにテントから姿を現した。






 真っ白な道着。

 黒い袴。

 背筋をぴんと伸ばし、黒髪を一つに結ったその姿は、

 まるで神事に臨む巫女のようだった。






「な、なんだあれは……」


「……ただの娘じゃなかったのか……」






 ざわめきの中、静香は無駄な動作なく右手を掲げた。






 次の瞬間、彼女の掌に淡い光が集まり、

 光は弓の形を取った。




 漆黒の和弓――神通力によって召喚された武器だった。






 静香は、弓を手に取ると矢筒を背負い、静かに一言だけ告げた。






「集中力を高めるためです」






 その言葉に、兵士たちは思わず息を呑んだ。






 静香が顔を上げたその時――

 北の空から、黒い巨影がゆっくりと近づいてくるのが見えた。






 魔竜アークダロス。




 空を裂くような唸り声が大地を震わせる。






 静香は、弓を構えた。




 白い道着、黒い袴、漆黒の和弓。

 全身から静かな威圧感が溢れ出していた。






「……来ます」






 静香の呟きに、誰もが凍りついた。




 だが、彼女だけは、一歩も退かず、

 まっすぐに空の悪夢を見据えていた。




3-2 魔竜アークダロスとの遭遇




 黒く巨大な影が、北の空を覆っていた。




 魔竜アークダロス。




 王国北部を荒廃させ、人々に病と恐怖をもたらした存在。

 鋭く反り返った双翼を広げ、その翼の一振りで大地の空気すら震わせる。




 地上にいる兵士たちは、魔竜の姿を仰ぎ見るだけで膝をつき、

 怯え、祈るしかできなかった。






 だが――。






 宮本静香は一歩も退かず、その場に立っていた。




 白い道着、黒い袴。

 背中には、召喚された黒漆の和弓。

 その佇まいは、まるで嵐の中に立つ一本の松のように揺るがない。






「……高いな」






 静香は、上空高くを旋回する魔竜を見上げながら、淡々と呟いた。






 アークダロスは、地上から容易には手が届かない高さを飛んでいた。

 さらに、絶え間なく魔素の霧を撒き散らし、下界に死を振りまいている。




 この国の弓手も魔術師も、あの高度に届く攻撃を放てなかった。

 無力感が広がり、人々は魔竜の脅威に屈していった。






(確かに、この高さでは通常の攻撃は届かないでしょう)






 静香は、冷静に状況を見極めた。

 だが、自分には――






「届かせればいいだけです」






 誰に向けるでもなく、静かに呟いた。






 そして、ゆっくりと呼吸を整える。




 深く吸い、深く吐く。




 周囲のざわめきも、兵士たちの動揺も、

 魔竜の唸り声すらも、静香には届かなかった。




 ただ、自分の鼓動と、流れる空気の感触だけがあった。






 ――一射一生。




 かつて、弓道の師が教えてくれた言葉。

 一本の矢に、己のすべてを込める。






 静香は、そっと手を伸ばした。




 神通力が静かに集まり、手の中に一本の矢が具現化される。




 細く、白銀に光る矢。

 ただの物質ではない、静香の"意志"そのものだった。






 和弓に矢を番え、ゆっくりと引き絞る。




 その動作は、あくまで静かで美しく、

 誰もが言葉を失い、ただ見つめるしかなかった。






 弓道着の袴が風にたなびく。

 静香の黒髪が、ふわりと揺れる。




 天を睨む黒い魔竜と、地上に立つ白い少女。

 その対比は、まるで絵画のようだった。






(届かせるイメージ……)




 静香は心の中で強く念じた。

 ただ矢を飛ばすのではない。

 魔竜の心臓を、正確に、迷いなく貫くイメージを。






 魔竜が、低く唸り声をあげた。

 まるで小さな存在を嘲笑うかのように。




 しかし。




 次の瞬間――






「はぁぁっ――!」






 宮本静香が放った一矢が、風を裂いた。






 矢は、音もなく、空を切り裂き、一直線に魔竜へと飛んでいく。




 その速さは、常識を超えていた。

 兵士たちの誰も、矢が放たれた瞬間すら捉えられなかった。






 そして――。






 閃光。






 矢が魔竜の胸を正確に貫いた。




 黒い鱗を砕き、魔素の霧を切り裂き、

 まるで空そのものに穴を穿つように、一直線に。






「が、あ、ぁああああああああああッ!!」






 魔竜が絶叫を上げた。




 その咆哮は、天地を揺るがすほどだったが、

 すでに、その巨体は支えを失っていた。




 バサバサと羽ばたきながらも、

 次第に高度を失い、黒い影となって地上へ墜落していく。






 大地が揺れた。

 砂埃が舞い上がり、空が一瞬、暗くなる。






 やがて、静かになった。






 魔竜アークダロス――死す。






 兵士たちは呆然と立ち尽くしていた。






「……うそ、だろ……」


「一撃で……?」


「いや、今の矢、見えたか?」


「いや、何も……」






 誰も、何も、理解できていなかった。




 ただ、ひとつだけ確かなのは、

 あの絶望的な脅威が、たった一人の少女によって、討ち落とされたという事実だけだった。






 静香は、静かに弓を収めた。




 神通力の矢が消え、弓もふわりと光に溶けるように消失する。




 袴の裾をそっと整え、

 静香は兵士たちの方を振り返った。






「……これで、少しは落ち着けるでしょう」






 その言葉に、兵士たちは息を呑んだ。




 力を誇示するでもなく、

 勝ち誇るでもなく、

 ただ静かに、淡々と。




 それが、宮本静香という存在だった。



3-3 神通力の矢――静香、圧倒的な一撃




 砂煙の中、魔竜アークダロスの巨体が地に横たわっていた。




 もはや動く気配はない。

 その鱗は砕け、胸部にはぽっかりと空いた穴が空いている。




 それこそ、宮本静香が放った神通力の矢による致命傷だった。






 静香は袴の裾を払いながら、深呼吸をひとつした。




 もう手には弓も矢も持っていない。

 だがその立ち姿は、まるで戦いを終えた剣士のような静謐な気配を漂わせていた。






 遠巻きに見ていた兵士たちは、まだ信じられないという顔で立ち尽くしていた。






「……本当に……?」


「勇者様が、一撃で……?」






 呆然とつぶやく声が、あちこちから漏れていた。




 だが静香は、騒ぎにも顔色ひとつ変えず、

 ただ静かに、地に伏した魔竜を見下ろしていた。






(……これが神通力)






 ただの力ではない。

 魔法とも、技術とも違う。




 心に描いたイメージを、ありありと具現化する力。

 己を信じ、揺るがぬ心を持つ者だけが使える、特別な力。






 ――届かない高さなど、関係ない。




 魔竜に向かって矢を放つ瞬間、静香の心には一片の迷いもなかった。




 必ず貫く。必ず倒す。




 そう信じたからこそ、矢は天を貫き、巨躯を撃ち抜いたのだ。






「心の力――か」






 小さく呟き、静香は袴の帯をきゅっと締め直した。




 魔竜を倒しても、心は決して緩めない。






 その時、背後から小さな足音が駆け寄ってきた。






「静香様っ!」






 振り向くと、金色の髪を揺らしながら、ハイネルが走り寄ってきた。




 その蒼い瞳は、尊敬と感動に満ちていた。






「すごかったです……! 本当に、すごかった!」






 まだ幼いその少年が、精一杯の力で静香を讃えた。




 静香はふっと微笑み、しゃがんで彼の目線に合わせた。






「ありがとう、ハイネル殿下」






 そう言って、静かに彼の頭を撫でた。






「私は、まだまだ未熟です。

 これからもっと強くならなければいけません」






「……僕も、強くなります!」






 きらきらと輝く瞳。

 その瞳の奥にある決意を、静香は見逃さなかった。






(……あなたの未来を守るために)






 静香は改めて心に誓った。




 この世界に召喚された理由。

 この国を救う使命。

 それらすべてよりも、もっと根本的なもの――




 ――ハイネルの未来を守りたい。






 それだけが、今の静香の原動力だった。






 ふと、兵士たちが静香に向かって膝をつき、

 剣を地面に突き立てて敬礼する姿が見えた。






「勇者様……!」


「ありがとうございました!」






 誰も、もはや静香を侮る者はいなかった。

 心からの敬意を込めて、彼らは頭を垂れた。






 だが静香は、ただ静かに首を振った。






「私がしたことは当然のことです。

 守るべきものを、守っただけですから」






 飾り気のないその言葉に、兵士たちはさらに深く頭を下げた。






 静香は、再びハイネルに向き直った。






「さあ、戻りましょうか、ハイネル殿下」




「はいっ!」






 小さな手を取り、静香は歩き出した。




 その歩みは、確かな未来へと続く道だった。




3-4 魔竜討伐完了――人々の驚愕




 王都ルンバリア。

 その中心にそびえる白亜の王城には、数日ぶりに活気が戻りつつあった。




 北方からもたらされた朗報――

 あの魔竜アークダロスが、討ち果たされたという知らせが、王城中を駆け巡ったのだ。




 兵士たちは目を見開き、宮廷魔術師たちは顔を見合わせ、

 侍女たちは歓声を上げた。




「……本当に……?」


「本当に……魔竜が、倒されたのか……?」






 誰もが、信じきれない思いだった。

 あの絶望そのものだった魔竜を、ただの少女が、一撃で……。






 だが、目の前にいる者たちが証明していた。




 勇者、宮本静香。

 凛とした弓道着に身を包み、静かに王宮へと帰還した彼女の姿。






 その背中には、決して誇り高ぶることのない、

 だが確かに"勝者"の風格が漂っていた。






 玉座の間では、すでに国王アルベールが待っていた。

 かつての尊大さは影を潜め、

 今は一人の王として、一人の戦士を迎えようとしていた。






「宮本静香よ」




 王は厳粛な声で告げた。




「この国において、最も深刻な脅威――

 北の空を支配していた魔竜を討ち果たしたその偉業、

 我が国は心より讃える」






 広間にざわめきが走る。

 誰もが、静香を異邦人でも、異物でもなく、

 真に「国を救った英雄」として見ていた。






 静香は、膝をつくことなく、真っ直ぐに立ったまま王を見上げた。




「私は、約束を果たしただけです」






 その言葉に、広間に集う家臣たちは息を飲んだ。




 この少女が、自らを英雄と誇らず、ただ成すべきを成しただけだと、

 静かに言い切ったことに、心を打たれたのだ。






 王は重々しく頷き、続けた。






「宮本静香――そなたを、ルンバリア王国の勇者と正式に認める」






 その宣言に、広間中から一斉に拍手が沸き起こった。




 兵士たちも、魔術師たちも、侍女たちも、誰もが手を叩いた。






 しかし静香は、誇るでもなく、微笑みさえせず、

 ただ淡々と、胸に拳を当てて答えた。






「ありがとうございます。

 今後も、守るべきもののために、力を尽くします」






 その言葉に、王も家臣たちも、さらに頭を下げた。






 ***






 その夜。

 王都は盛大な祝祭に包まれていた。




 広場には無数の松明が灯され、人々が歓喜の歌を口ずさんでいる。

 兵士たちは酒を酌み交わし、子供たちは踊り、

 町中が、ようやく訪れた希望の夜を祝っていた。






 だが――。






 静香はその喧騒から離れ、王城のテラスに佇んでいた。




 夜空には、無数の星が煌めいている。






 魔竜が撒き散らしていた魔素は消え、

 空はかつてないほど澄み渡っていた。






 ふと、後ろから足音が聞こえた。




「静香様……」






 振り向くと、そこにはハイネルが立っていた。




 幼い少年。

 だが、その蒼い瞳には、確かな意志の光が宿っていた。






「今日の静香様、すごくかっこよかったです!」






 はにかむような笑顔に、静香の胸が温かくなる。






「ありがとう、ハイネル殿下」






 静かにそう返しながら、静香は再び空を見上げた。






 この空の向こうには、まだ魔王という存在がいる。




 今日の勝利は、あくまで第一歩にすぎない。






「……まだまだ、これからです」






 誰に聞かせるでもなく、静香は小さく呟いた。






 ハイネルを守るために。

 この世界を守るために。






 宮本静香は、剣を取り、弓を引き続けるだろう。






 凛として、風に舞う花の如く――。




3-5 静香の覚悟、そして新たな戦いへ(




 祝祭の余韻が、まだ城内に満ちていた。




 だが、宮本静香はその喧騒から離れ、王城の奥まった庭園にいた。

 満天の星の下、ひとり弓を握り、静かに目を閉じていた。




 魔竜アークダロス――討伐成功。

 人々は勇者の勝利を讃え、未来に希望を見出した。




 けれど、静香は知っている。




(これは……始まりに過ぎない)






 空に浮かぶ星々の向こうに、さらに強大な敵の影を感じていた。






「静香様……」






 声をかけてきたのは、やはりハイネルだった。




 まだ小さな身体。

 けれど、その胸に宿す意志の強さは、何よりも静香を打った。






「こんな夜更けに、どうかしましたか?」






 ハイネルは少し困ったように笑った。




「……静香様を探してたんです。

 みんな、祝宴に出ないことを心配していましたよ」






「私は……ああいう賑やかな場所は少し苦手なので」




 静香は小さく微笑む。

 それは、どこか寂しげで、けれど確かな芯を持った笑みだった。






 ハイネルは静香の隣にちょこんと座った。




 夜風が二人の間を静かに吹き抜ける。






「……怖くないんですか?」






 ぽつりと、ハイネルが尋ねた。






「これから戦う、魔王とか……四天王とか。

 きっと、魔竜よりも、もっともっと強いんでしょう?」






 静香は、夜空を見上げたまま、答えた。






「怖いですよ。……怖くないと言えば嘘になります」






 本心だった。




 異世界に召喚され、いきなり国の命運を託された。

 どれだけ鍛えた心でも、恐怖を完全に消すことなどできない。






 けれど――。






「それでも、私は戦います」






 静かに、けれど確かに言葉を紡ぐ。






「守りたいものがあるから」






 視線を落とし、隣に座るハイネルを見た。




 幼いながら、まっすぐな目で静香を見返してくる少年。






「貴方の未来を、守りたいからです」






 ハイネルの目が、驚きに見開かれた。






「僕の……?」






「はい」






 迷いなく頷く。






「あなたのような高潔な心を持つ者が、

 この世界を導く未来を、私は信じています」






 だから、私は戦う。




 剣を取り、弓を引き、心を研ぎ澄ませて――。






 たとえその道に、どれだけの困難が待ち受けていようとも。






「静香様……!」






 ハイネルは、今にも泣き出しそうな顔で、静香を見つめた。




 だが、彼は泣かなかった。

 ぎゅっと小さな拳を握りしめ、きらきらと輝く瞳で静香に言った。






「僕も、強くなります!」






 静香は、そんなハイネルの頭をそっと撫でた。






 その時だった。






 庭園の奥、石畳の影から、密やかな足音が聞こえた。




 そして、ローブをまとった一人の男が姿を現した。






「失礼、勇者様」






 それは、宮廷魔術師グラハムだった。




 年老いた体をゆっくりと運びながら、静香たちの前に歩み出る。






「グラハム様?」






「お伝えせねばならぬことがございます」






 グラハムは、声を潜めるようにして言った。






「魔竜アークダロスを倒したことで、

 魔王軍が本格的に動き出す兆候が見られます」






 静香は、眉をひそめた。






「どういうことですか?」






「魔王軍には、四天王と呼ばれる幹部たちが存在します。

 そのうちの一人――『黒闇の軍団』を統べる者が、

 すでに王国領内に侵攻を開始したとの報が入っております」






 空気が、ぴんと張りつめた。






 静香は、しっかりとグラハムを見据えた。






「詳しい情報を、集めてください」




「かしこまりました」






 グラハムは頭を下げ、再び闇の中へと消えていった。






 静香は、深く息を吐いた。




 やはり、魔竜討伐はただの序章に過ぎなかった。




 これからが、本当の戦いだ。






 隣にいるハイネルに、静香は微笑みかけた。






「まだまだ、学ぶことも、鍛えることもたくさんあります」






「はい!」






 小さな声に、大きな希望が宿っていた。






 静香は、夜空を見上げた。




 その先に待つ困難を恐れることなく――

 胸を張り、まっすぐに。






 凛として、風に舞う花の如く。






 静かに、確かに、

 彼女の戦いは、これから本格的に始まるのだった。





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