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第5話 第4章 四天王戦1――屍の将軍ヴォルグ戦

4-1 北方の異変――カルネリアの悲劇



春の陽気がようやくルンバリア王国全土に満ち始めた頃。


城の広間には、ただならぬ空気が漂っていた。



「……カルネリアの町が……アンデッドの軍勢に襲われたと?」



国王の厳かな声が広間に響く。


隣に控える第一王子アルベルトも顔を曇らせ、手にした報告書を固く握りしめた。



「はい、陛下。北方カルネリアの地が、屍の将軍ヴォルグと名乗る魔物の軍勢に支配され、住民たちは逃げ惑っております」



報告をしたのは、顔に疲れを滲ませた使者の騎士だった。


彼の甲冑には、長旅と戦いの痕跡が生々しく刻まれている。



「これは一刻の猶予もならぬ事態ですね」



宮廷魔術師グラハムが眉間に皺を寄せ、深く頭を下げた。



そんな張り詰めた空気の中、静香は静かにその場に立っていた。



(……アンデッドの軍勢、そして将軍ヴォルグ……)



静香は報告を聞きながら、心の奥で静かに決意を固めていた。



「勇者殿、お願いできるだろうか……」



国王は沈痛な面持ちで、しかし希望を託すように静香へと問いかけた。



「もちろんです、陛下」



静香は凛とした声で応じ、深々と頭を下げた。



「カルネリアの人々を救い、王国の未来を取り戻してみせます」



彼女の言葉に、広間に集まった騎士や貴族たちはざわめきを漏らした。


希望の光を見たように、皆の顔にわずかな安堵が広がる。



「静香殿、どうかご武運を」



グラハムが深く礼をし、第一王子も真剣な眼差しを静香に向ける。



その場にただ一人、小さな影が駆け寄った。



「勇者様!」



それは第二王子、ハイネルだった。


小さな体を震わせながら、まっすぐに静香を見上げるその青い瞳は、憧れと不安、そして必死の祈りに満ちていた。



「僕も……一緒に行きたいです!」



「ハイネル王子……」



静香はそっと微笑み、彼の頭に優しく手を置いた。



「ありがとう。でも、あなたにはまだ早い。私が必ず、無事に帰ってきます」



「……はい!」



ハイネルはぎゅっと拳を握りしめ、力強く頷いた。


その小さな背中に、静香はかつて自分を救ってくれたあの少年の姿を重ねずにはいられなかった。



(必ず……守る。あなたが誇りに思える勇者になるために)



静香は心の中で、改めて誓った。



---



静香は出立の準備を整え、早朝の城門をくぐった。


背中に村雨を携え、風になびく黒髪のポニーテールが朝日に映えている。



「カルネリアへ、か……」



馬上で呟いた彼女の声は静かだったが、その胸の奥には燃えるような闘志が宿っていた。



道中、荒れ果てた農村を幾つも通り過ぎた。


かつては人々の笑顔で賑わっていたはずの村々は、今は廃墟と化し、かすかな腐臭が風に運ばれてくるだけだった。



(……これが、魔王軍のやり方)



静香は鞍の上で静かに拳を握った。


怒りに身を任せることはない。


だが、心のどこかに確かに燃え上がるものがある。


それは、弱き者たちを踏みにじる者たちへの、静かな怒りだった。



やがて、遠くに見えたのは、巨大な城壁に囲まれた都市――カルネリアだった。



だが、そこに生気はなかった。


街全体が、まるで巨大な墓標のように、静かに、しかし不気味な沈黙を保っていた。


空は鈍色に曇り、地面からは瘴気が立ち上っている。



(……着いた。ここからが本番ね)



静香は馬を降り、村雨の柄にそっと手を置いた。


その刀は、彼女の神通力に呼応するかのように、かすかな光を放つ。



――かつてない闘いが、いま幕を開けようとしていた。




4-2 カルネリアの惨状と静香の決意



 北の果て、カルネリアの町に近づくにつれ、空気は重苦しく変わっていった。


 静香たちの一行が丘を越えたとき、眼下に広がるのは、もはや町とは呼べぬほど荒れ果てた光景だった。



「……これが、カルネリア……」



 静香は呟き、胸の奥にひりつくような痛みを覚えた。


 家々は朽ち果て、広場には黒ずんだ霧が立ちこめている。かつて人々が笑い、生活を営んでいたはずの場所は、今や屍たちの徘徊する無残な墓場と化していた。



「勇者殿、これが……屍の将軍ヴォルグが支配する地の現実です」



 隣に立つ宮廷魔術師グラハムが、眉をしかめながら苦々しく告げる。



「この瘴気……普通の兵士では近づくだけで命を落とすでしょう。ですが、勇者殿なら――」



「私が行きます」



 静香は短く答え、腰の村雨に手を添えた。鞘越しに触れたその刃は、淡く冷たい光を放っている。



(村雨……あなたも、戦う覚悟を決めているのね)



 静かに心の中で語りかける。すると、不思議なことに、刀から応えるような震えが伝わってきた。



「ハイネル王子を頼みます。グラハム殿、ここから先は私一人で」



「しかし――」



「これは、私の戦いです」



 静香の瞳に宿る強い光に、グラハムはそれ以上言葉を継げなかった。



 その様子を少し離れた場所から見ていたハイネルも、ぎゅっと拳を握りしめる。



(僕も……静香のように、誰かを守れる強さがほしい)



 その小さな背に、静香はそっと微笑みかけた。



「必ず戻ってきます。信じて待っていてください」



 そう言い残し、静香は一人、カルネリアの町へと足を踏み入れた。



---



 町の中心へと向かうにつれて、瘴気はますます濃くなり、空気すら粘つくようにまとわりつく。


 あちこちにうろつくアンデッドたち――無残に朽ちた兵士たち、かつて農夫だったであろう男たち、老婆や子供の姿すらあった。


 そのすべてが、生気のない瞳で静香を睨み、唸り声を上げながら集まってくる。



(こんなもの……これ以上、放っておけるものですか)



 静香は静かに立ち止まり、村雨の柄に指をかけた。



「……いきますよ」



 その囁きと共に、村雨が清冽な光を放つ。


 鞘から引き抜かれた刃が一閃した瞬間、刀身から放たれる清浄な波動が周囲に広がった。


 触れたアンデッドたちは、一瞬にして光に包まれ、まるで塵に還るかのように跡形もなく消えていく。



「――!」



 わずかな間に、周囲を取り囲んでいた屍たちは、すべて光の中へと消え去った。



 静香は刀を構えたまま、冷静に周囲を見渡す。



「村雨の力……想像以上ですね」



 この力を無闇に振るうのではない。


 これは、苦しみながら屍へと変えられた人々を、せめて安らかに解き放つための祈りだ。



(これ以上、苦しませたりはしない……)



 静香は静かに心に誓った。


 そして、町の中心、最も瘴気の濃い場所へと歩みを進める。


 そこにいるのは――屍の将軍、ヴォルグ。



(待っていなさい。すべてを、浄化してあげる)



 静香の瞳に、決して揺るがぬ覚悟の光が宿った。


 その光は、どんな闇よりも強く、鮮やかに燃え続けていた。





---


4-3 屍の軍勢との激突




カルネリアの町に到着した静香は、静かに村の外れに立った。


眼前には、禍々しい瘴気に覆われた町が広がっていた。かつて豊かだったであろう田畑も、黒く枯れ果てている。




「ここまで酷いとは……」




傍らに立つ宮廷魔術師グラハムが、静かに言葉を漏らす。


アンデッドたちが彷徨う町は、まるで生者を拒絶するかのような雰囲気を纏っていた。




「行ってきます。ここは私に任せて」


「勇者殿……。どうか、ご武運を!」




静香はグラハムたちに小さく頷きかけると、ひとり瘴気の渦巻く町の中へと足を踏み入れた。




静寂を破るように、アンデッドたちの呻き声が響く。


死者たちの白濁した目が、静香を一斉に捉えた。




「……これが、ヴォルグの支配する世界」




静香は小さく息を吐き、腰に下げた『村雨』の柄にそっと手を添えた。


村雨の刀身が、かすかに淡く光を帯びる。




次の瞬間――




「うぉぉおおおお!!」




叫び声とともに、アンデッドたちが一斉に襲いかかってきた。


腐り落ちた鎧を纏い、かつては騎士だった者たちが、無惨な姿で剣を振りかざす。




(来る……!)




静香は一歩も退かず、静かに村雨を抜き放った。


刹那、村雨の刃が蒼白い閃光を放つ。




「――邪なるものよ、退け!」




一閃。


その光を浴びたアンデッドたちは、触れる間もなく蒸発するように霧散していった。




「な……なに……!?」




後方に控えていたヴォルグ配下の魔物たちが、恐怖に声を上げた。




(村雨は……やはり、ただの刀じゃない。アンデッドに対して、圧倒的な浄化の力を持っている)




静香は確信を深める。


それと同時に、これまで鍛え上げた自らの技と心を、今こそ試すときだと自覚していた。




「次……!」




次の群れが迫ってくる。


10体、20体――数は膨れ上がり、黒い波となって静香を飲み込もうとしていた。


だが。




「――ハァァアアッ!!」




村雨を握りしめた静香の身体から、眩い光が爆発する。


それは『神通力』。


彼女が鍛え上げてきた精神と心、そのすべてを剣に込めた力だった。




「うおおおおお……!」


「ぐ、ぐああああああ!」




アンデッドたちは、次々と光に飲まれ、塵と化していく。


まるで、存在そのものを否定されるかのように。




そして。




「まだまだ……終わらせない!」




静香は全身から汗を流しながらも、一歩も引かずに剣を振り続けた。


どれだけアンデッドが湧こうとも、どれだけ数に囲まれようとも――


彼女の心は折れなかった。




なぜなら。




(私には……あの人がいるから……)




心の中に蘇るのは、あの日自分を守ってくれた金色の髪の少年の背中。


――誰よりも勇敢に、己の痛みも恐怖も押し隠して、静香を守ろうとした、あの少年の姿だった。




(あの時、私に勇気をくれた。だから、今度は――私が、守る番)




静香の瞳は、決して揺らがない。


ただ真っ直ぐに、強く、清らかに、すべての敵を見据えていた。






「勇者殿、すごい……! 本当に……すごい……!」




遠くから見守っていたグラハムたちは、感嘆の息を漏らした。


兵士たちもまた、静香の圧倒的な強さに心を震わせていた。




(勇者様は……本当に、奇跡を起こしてくださった)




彼らはそれを確信していた。


静香の存在そのものが、民にとっての希望となっていたのだ。






やがて――




アンデッドたちの群れは、すべて浄化された。


町に立ち込めていた瘴気も、徐々に晴れていく。


黒ずんでいた空に、うっすらと青空が戻り始めていた。




静香は剣を収め、静かに息をついた。




「……さあ、ヴォルグ将軍。あなたに、話をつけに行きましょうか」




彼女は穏やかに微笑みながら、町の中心へと歩き出す。


そこには、屍の将軍――ヴォルグが待ち受けていた。



了解です!

【第三章3-4】をラノベらしい文体&行間を広く取りながら、2000文字以上で執筆しました。

さっそくお届けします!



---


4-4 ヴォルグ将軍、屍の王との対峙




カルネリアの町の中央広場――。


かつて市民たちで賑わっていた場所は、今や瘴気の巣窟と化していた。




中央の噴水の前に、黒い鎧を纏った巨躯の男が立っていた。


屍の将軍、ヴォルグ――。


かつて王国最強と謳われた将軍だった男は、魔王の呪いによって不死の怪物へと変貌していた。




「……来たか、勇者」




ヴォルグの声は、鉄を引き裂くような重苦しい響きを持っていた。


全身から漂う圧倒的な殺気に、並の者なら立つことすらできないだろう。


だが――




「ええ。あなたに、ここで終わってもらいます」




静香は一歩も退かず、まっすぐにヴォルグを見据えた。


彼女の手には、邪気を祓う刀・村雨が静かに握られている。




「……ほう。小娘一人で、我を討とうというのか」


「ええ。私がやります」




ヴォルグは仮面の奥で不敵に笑った。


だが、その心にはほんの僅かな警戒が生まれていた。




この娘は、ただの少女ではない――。


いや、戦いを通して分かる。


彼女の中には、鋼よりも硬く、純粋な強さが宿っている。




(勇者とは……こういうものか)




ヴォルグは魔王に忠誠を誓った者だったが、同時に戦士としての矜持も持ち合わせていた。


眼前の少女は、戦士として――否、ただの戦士以上の存在として、彼の本能に戦慄を与えた。






「よかろう」




ヴォルグは巨大な斧剣を肩に担ぎ上げた。


大地を揺るがす一歩を踏み出し、静香へと迫る。




「全力で来い、小娘! 我も全力で応えよう!」


「……それでは、いきます」




静香は静かに村雨を抜いた。


刀身が蒼白い光を放ち、瘴気すら払いのけるように周囲を浄化していく。




「――参ります」




次の瞬間、両者は一気に間合いを詰めた。











ヴォルグの巨斧が唸りを上げる。


空気を引き裂く一撃。


常人なら、その風圧だけで吹き飛ばされるだろう。




だが静香は、村雨を軽やかに振るい、それを紙一重でいなした。


まるで舞うような動きだった。




「なに……!?」




ヴォルグは驚愕した。


巨躯の自分に対して、この少女はまったく臆することなく、むしろ流れるように動きをかわしていく。




(これは……ただの剣術ではない。心が、完全に研ぎ澄まされている!)




静香は再び村雨を振るった。


刹那、白い閃光が走る。


ヴォルグの黒鎧に深い傷が刻まれ、瘴気が漏れ出した。




「くっ……!」




だがヴォルグは一歩も退かない。


逆に、巨大な腕を振り上げ、力任せに殴りつけてくる。




「ぐっ……!」




静香はそれを受け流しながら、ステップで距離を取った。


正面から受け止めるには、あまりにも巨体と力が違いすぎる。




(正面からぶつかるだけじゃ、勝てない……!)




静香は冷静に状況を見極めた。


村雨の力でアンデッドを浄化することはできても、ヴォルグの肉体そのものを打ち砕くには、相応の一撃が必要だった。











一進一退の攻防が続く中――


静香は呼吸を整え、心を無にした。




(私には、迷いがない)




(私には、守るべき人がいる)




頭に浮かぶのは、金色の髪の少年――ハイネルの姿だった。


かつて自分を救ってくれた、あのまっすぐな背中。




(あの人のように。私は、絶対に……!)




静香の心に、火が灯る。


まるで氷のように静かに、だが激しく燃える決意の炎が。






「――村雨よ」




静香は小さく囁いた。


刹那、村雨の刀身がさらに強く光を放つ。


まるで、彼女の心に応えるかのように。




「すべての邪を――断つ!」











静香は足元に力を込め、一気に加速した。


疾風のごとく駆け抜け、ヴォルグの懐に飛び込む。




「小癪な……!」




ヴォルグの斧剣が振り下ろされるが――


静香はそれを村雨の背で受け流し、流れるように側面へと回り込んだ。




「これで――!」




渾身の力を込め、村雨を横一文字に薙ぐ。




白い閃光が走り、ヴォルグの胴鎧に深々と斬撃が刻まれる。


同時に、ヴォルグの巨体がぐらりと揺らいだ。






「ぐ……っ!」




ヴォルグは片膝をつき、呻き声を上げた。




「見事だ、勇者……」




彼は認めた。


この少女こそ、真の勇者であると。




「……だが、まだ、終わらぬぞ!」




ヴォルグは残る力を振り絞り、最後の一撃を繰り出そうとする。


だが静香は、静かに、しかし力強く村雨を構え直した。




「あなたは、もう……」






「終わっています」






静香が最後に放った一閃は、すべての瘴気を払い、ヴォルグの心臓を貫いた。











ヴォルグの巨躯が、静かに崩れ落ちる。


黒い瘴気が抜け、かつての騎士だった頃の穏やかな顔に戻りながら。




「……ふ、ふふ……」


「ありがとう……勇者よ……」




それが、ヴォルグの最期の言葉だった。




静香は刀を静かに鞘に収め、深く祈りを捧げた。


戦士として、彼の矜持を讃えて。




(さあ、次は……民たちを、笑顔にする番です)




静かに、そして力強く心に誓いながら、静香は歩き出した。




4-5 歩き出す未来――ハイネルの誓い




カルネリアの町を覆っていた瘴気は、ヴォルグの敗北とともに徐々に消え去っていった。


枯れ果てていた木々が新たな芽を吹き、乾ききった大地に生気が戻っていく。


まるで、町そのものが静香の勝利を祝福しているかのようだった。






「……はぁっ」




静香は大きく息をついた。


戦いの緊張から解放され、わずかに膝が震える。


だが、それ以上に胸の中には温かな達成感が広がっていた。




「終わった……これで、カルネリアは……!」











ふと見上げた先には、丘の上からこちらを見下ろしている一団の姿があった。


騎士団、宮廷魔術師グラハム、そして――




「勇者様っ!」




ハイネル王子だった。


小さな体で、必死に駆け下りてくる。


その姿に静香は微笑み、軽く手を振った。




「ハイネル王子……無事でよかった」






駆け寄ってきたハイネルは、目を潤ませながら彼女の前で立ち止まった。


そして、小さな両手でぎゅっと静香の手を握りしめる。




「本当に、すごかった……! 僕、見ていました。勇者様が、あんなにたくさんのアンデッドを……そして、あの屍の将軍まで……!」


「……見ていてくれたのですね」




静香はそっと微笑んだ。




「はい! 僕……感動しました! そして、決めました!」




ハイネルは胸を張り、力強く宣言した。




「僕も、勇者様みたいに……誰かを守れる剣士になります!」











静香は一瞬、目を見開いた。


その真っ直ぐな瞳。


十年前、あの公園で自分を守ってくれた少年の瞳と、まったく同じだった。




(やっぱり……)




心が震えた。


あの日、あの背中に憧れた気持ち。


今、目の前にいるこの少年も、同じ強さを持っている。




(私は、彼を守るためにここに来たんだ――)




静香は強く、強く思った。






「ハイネル王子」




「はい!」




「あなたなら、きっとなれます」




静香はしゃがみこみ、ハイネルと視線を合わせる。


そして、柔らかく、しかし力強く言葉を紡いだ。




「あなたは誰よりも強い心を持っています。剣の技術だけではなく、大切なものを守りたいという意志。それこそが、本当の強さです」


「……本当、ですか?」




ハイネルは恥ずかしそうに頬を染めた。




「はい。本当です。だから、焦らず、ゆっくりでいい。あなたの歩幅で、一歩ずつ進んでください」




静香は、そう――十年前に、自分が欲しかった言葉を、今、彼に贈る。






「……勇者様」




ハイネルは、小さな拳をぎゅっと握りしめた。


その瞳に、確かな決意の光を宿して。




「僕、約束します。必ず、静香様のような……強くて、優しい剣士になります!」






静香は、思わず胸が熱くなるのを感じた。


彼の未来を、どうしても守りたかった。


このまま、まっすぐな心を持ち続けてほしかった。




(私が、守る。どんな困難が待ち受けていても――)




心の中で、改めて誓いを立てる。











グラハムと騎士たちも駆け寄ってきた。


「勇者殿、本当に……本当にありがとうございます!」


「あなたのおかげで、カルネリアは救われました!」




兵士たちは次々に頭を下げ、町の人々も静香に感謝の声をかける。




「ありがとう……勇者様!」


「私たちは、あなたに救われました!」




その言葉のひとつひとつが、静香の胸に温かく染み渡る。




(私は、もう一人じゃないんだ……)




ここには、守るべきものがある。


守りたい人たちがいる。


そして――




傍らには、憧れ続けたあの瞳を持つ少年がいる。











その日の夕方、カルネリアの町に灯る光は、久しぶりに心からの笑顔を照らしていた。


住民たちが歌い、踊り、喜び合う。


その中心に立つ静香とハイネルは、静かに空を見上げた。






「静香様……」




「はい、ハイネル王子」




「僕、もっともっと強くなりたいです。静香様みたいに」




「きっとなれますよ」




静香は彼の小さな手をそっと握った。


その手は、まだ細く小さいけれど、確かな未来へと続く力を宿している。






――この世界を守るために。


――彼の未来を守るために。






静香は再び、強く、優しく誓った。






「あなたの未来は、私が必ず守ります」






夕暮れの空に、ふたりの新たな誓いが静かに溶けていった。










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