目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第4話 ログハウスに避難したら性癖を尋ねてくる巨乳美女


「にしてもホントに変わった格好してるね、おにーさん」


 メリカは珍獣でも見るかのような目で俺をジックリ観察している。


 特に青ジャージに興味があるらしく、やたらめったらベタベタ触ってくる。


「あー、俺はこことはちょっと違う世界から来たんだわ。いわゆる異世界人ってやつ?」


 助けてくれたお礼に素直な情報提供を。


 なんとも奇抜な『イセカイ』という単語に、予想通りメリカは目玉をキラリキラリさせて過剰な反応を見せた。


「すっごーーーい! 要約するとおにーさんは、こことはちょっと違う世界から来た、いわゆる異世界人ってやつなの!?」


「要約できてねえな。両替機に千円入れたらそのまま野口が返ってきた気分だわ」


「……? それで話を戻すけど、おにーさんは何で追い掛けられてたの?」


「世の中ってのは理不尽でな。金払わずにごはん食べて店から逃げ出しただけなのに、なんか怒りながら後をつけてきたんだよ…………クソが!! 思い出したらムカついてきた!!」


「ド食い逃げじゃん!!『被害者ヅラした犯罪者がこの世で一番怖い』っていう母さんの教えはホントだったんだ!!」


 せっかくだから『ベタの呪い』うんぬんの話もしといた方がいいかな。


 つーか『ベタの呪い』って長いし言い辛いな。


 ベタノロでいいや。


「どうしよう! あたし食い逃げ犯に手ぇ貸しちゃったよ!! 母さんに怒られる!!」


 顔面蒼白で立ち尽くすメリカ。冷や汗が次々と頬を流れ落ちる。


 さっきから母さん母さんってやけにビクついてるけど、そんなに怖い人なのか?


「『めっ!』って叱られたあと、もうやらないように指切りげんまんさせられちゃうよぉ!」


「教育あっっま!! 原材料ガムシロなのかお前の母親!?」


 冷や汗ムダ遣いしてるやつ初めて見た。


「とっ、とにかく詳しい話はあとだ! なあメリカ、俺の身柄を安全な場所に運んじゃくれねえか!? ここじゃあ見付かるのも時間の問題だ! 俺はまだ死にたくねえんだよおおお!!」


「そ、そんなこと言われても……ああもういいや、わかったよ! あたしの家に来て! ここから近いから!」


 裏路地をヘビのようにスイスイ通り抜けて俺を先導するメリカ。


 念のため後方をチラチラ気にしながら後に続く。


 なーにをやってんだかね俺は。


 食い逃げなんかして、こんな女の子にかくまってもらうなんて。


 これじゃリベンジどころか、恥ずかしくて魔王に顔向けできねえよ……。




*****




「じゃじゃーん! ここがあたしの家! なかなか立派でしょ?」


 メリカが鼻をフンスと鳴らし、したり顔で自宅をお披露目する。


 薄汚い裏路地を抜け出してすぐの場所に、赤屋根が特徴的な二階建てのログハウスが、俺を見下ろすようにドッカリと立ち塞がっていた。


「こりゃすげえ。確かに金持ちが持ってる別荘みたいなゴージャスさだねぇ。ついでに言うと、三匹の子ブタだったら二番目にオオカミに破壊されそうだな」


「ついでの部分いらないじゃん!! なんでわざわざ余計なこと言っちゃうの!?」


「え? いい意味で言ったんだけど。お前三匹の小ブタ知ってんの?」


「知らないけど『破壊』が入ってる時点で我が家を侮辱されてるのは分かるよ!!」


 とにもかくにも、この中にいりゃひとまず命の危機は避けられる。


 ホッと胸を撫で下ろす。


「いやはや、ようやく安全そうなところに…………とりあえず何か食わしてくれよ! この世界に来てからなにも口にしてないし、お腹がペコペコだぁ!」


「食い逃げした事実をなかったことにしようとしてる!? おにーさんそれはいくら何でも酷すぎない……?」


「いやいや、俺のいた世界では罪というものは氷で出来ていると考えられていてな。時間経つと溶けるから犯罪とか何回でもやりたい放題なんだよ」


「なにその偉めな神様が聞いたらアワ吹いて倒れそうなロジック!! あたしが何も知らないからって適当なウソつきすぎでしょ! と、とりあえず早く入ってよバカおにーさん!」


 メリカに背中を押されつつ中へ。


「バカって言うな! こう見えても俺は円周率の小数点より左側にある数字を丸暗記できるほどの頭脳の持ち主なんだぞ! どやっ!」


「3だけじゃん!! そんなことでドヤ顔作らされる表情筋が哀れだよ!!」


「お前ずっと大声出しててすっごい疲れそうだな。一回休んだ方がい…………」


 俺の言葉が止まったのを見て、メリカがポカンと口を開けた。


「ふぇ……? ど、どしたのおにーさん?」


 そこにはメリカと同じ赤茶色の髪を腰くらいまで真っ直ぐ伸ばし、超越的な気品と妖艶さを兼ね備えた絶世の美女が、赤いカーペットに置かれた木の椅子に、そっと腰かけていた。


 白いローブの上からでもはっきり分かる、誰もが羨む理想的なボディを持つその女性は、しばし窓の外を優雅に眺めていたが、俺の姿を捉えるとニッコリと微笑んだ。


 長い睫に薄く真っ赤な唇。色気がハンパないよ。


 まるで絵画の世界からニュルリと飛び出てきたかのような美貌にクラリとする。服装や体勢も相まって女神みたいだ。


「あ、あの…………お、おれおれ、おれっ、ワワッ、ワケワケ、ワワワワケあってここっ、こここ、ここに……しばしば、しばば、しばらく置いていただっ、ただっ、いただきたいんですけど…………」


 緊張がピークに達し、キチンと喋れねえわロクな声量が出ねえわで、死にかけのDJみたいになってしまった情けない俺を見据えながら、その女性はゆっくりと立ち上がる。


 そして……一歩、また一歩と近付いてくる。


 俺と同じくらいの、女性にしてはかなり高めの身長。


 ローブがはだけ、けしからん胸元が強調される。


 距離が縮まるにつれて心臓が高鳴る。


 女性は俺の目の前に到着すると、顔をグググと近付けて、その真っ赤な口をゆっくりと開いた。



「キミは巨乳と貧乳、どちらが好きですか?」



 ぽ?




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?