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第2話 サイドエピソード 冷たそうで冷たくない彼

 そうして走り出して、少しして私を降ろす。

 彼はそのまま何かを考えこんでいる。


「ねぇ」


 少ししてもブツブツ考え込んでいて私の問いかけに返事がない。


「ねぇねぇ……ねぇってば!!」

「あぁ、ごめん。 考え事してて……何?」


 私が大声で叫ぶと、彼はこっちを向くと自分の知りたい事を問いかける。


「私、何にも思い出せないんだけど私は誰で、貴方は誰なのか教えてくれない?」


 自分の事を知りたいし、彼が誰で私とどう言う関係かを知りたいのだ。


「僕はリック、この村の三守護の一人だ」

「リック?」


 彼の名はリックというらしい。


「あぁ、そして君の名前だけど、残念ながらわからない。 君と僕は初対面で、記憶の無くなる前の君とは話した事もない」

「そっか」


 あの会話でなんとなくわかってはいた。

 だから不思議と驚きはないが、なんだか悲しい気持ちになった。


「でもあれだな、名前もないのは不便だな……帰ったら仮の名前を考えようか」


 今はここを切り抜け村に変えることが先決なのだろうと私は感じたので小さく頷く。


「これ、持っとけ」

「これ、何?」

「これは魔道具って言ってな、こう使う」


 そう言ってもう一つ同じ丸い円形の魔道具?を取り出し、ボタンを押す。


「これだけでいい、これを押し続けている間は君を守ってくれる」

「これだけ?」

「あぁ、それをするだけで君を守ってくれる。 危険だと思ったら使ってくれ」

「わかった」


 私は手放さないように、ぎゅっとそれを抱き寄せる。

「ちょっと辺りを見てくるからここで休んでろ」

「え?」

「敵がいないか見てくるだけだ、少し待っててくれ」


 そう言って一人行こうとする彼を見て私は一緒に行くべきだと胸の奥からそんな感情が溢れ出てくる。


「私も、行っちゃ、駄目?」


 私が彼の服の袖を掴み、そういうと「……好きにしろ。 ただし、命の保証は出来ないからな」と返してくる。

 その言葉は選択と同時に彼の目を見ると、真剣そのものだった。

 私は一瞬その目にたじろぐ。

 自分のその言動は本当に正しいのか? 彼についていかない方がいいんじゃないかと私の心は様々な感情が入り混じる。

 だが、少しして私の心はついていくべきだと感じ、決意を込めた眼差しで頷いた。

 彼と共に一時間ほど共に歩いていた。

 彼についていって感じた事は足元が何度か歩いた後があった。

 足跡は二つ、私と彼の足跡だった。

 追跡してきているか、調べているようだ。

 疲れた……。

 彼の歩く速度は早く、小さい私はついていくのでやっとだった。


「だから言っただろ、あそこで休んどけって」

「……だい、じょ、うぶ、だよ!!」


 正直強がりだ、今すぐにでも休みたい。

 身体は軋みを上げ、息も乱れて苦しい。

 だが、私が彼にお願いした事だ、最後までやらなければいけない。


「少し休む、お疲れ」


 その言葉を皮切りに言葉に糸が切れたかのように膝から落ちその場に座り込んだ。



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