そう言って彼女に連れられ、彼女の部隊ミスト・フォーレン略してミストの拠点へ着く。
「ここから先は僕はやめとくよ」
ここから先は基本的に女人禁制の場所だと僕は思っている。
僕の部隊アストラと違って彼女の部隊は基本的に女性ばかりなので、僕が行くのは嫌がられるに決まってる。
「気にしなくていいのに、リックならみんな大歓迎っていつも言ってるのに」
逆にそれが怖いんよ、後から男達に恨まれそうだから。
僕だけじゃなく例外もあればまぁいいかとなるが、僕以外の例外を聞いたことがない。
「まぁ、練習だよ。 僕が居なくてもやっていけるか」
まぁ、入りたくないだけなんだけど。
そういうとイアは「ふ~ん」っと何かを察するように目を細めてこちらを見てくる。
「リファちゃん、いこっか」
「う、うん」
そう言ってイアの手を恐る恐る握ると、二人は奥へと消えていった。
さて、僕はあの馬鹿に事情を聴くかな。
さっきの扉道での件を彼に問いただしに行く。
彼女がいない今が丁度文句を言いに行くのにいい。
イファルに伝えれば、フェイルは確実にどこかへ逃げるのであの場では何も言わなかった。
通関道の履歴を見たら、僕が帰ってくる少し前にイファルが申請した記録があった。
イファルの性格上そんなありえないミスをするわけがない。
同じ家だから部下に名義を彼にするようにしかけたに決まってる。
彼の部隊は二つに分かれてはいる。
イファルの部隊は基本的に実力主義で移民平民等でも平等に実力で真面目で実力もある部隊だ。
だが、フェイルの率いる部隊は言い方を考えるなら傲慢怠慢の部隊だ。
基本的にイファルに任せて奴らの部隊は基本的に遊んでいるらしい。
それでも一部は剣の技術が凄まじい者を雇い入れているため、イファルは何も言えないんだとか。
そうして彼の家に向かうと、門前の男二人が腰に帯剣している剣に手を掛ける。
「嫌われたものだね。 いや、何か後ろ暗い事でもあるのかな?」
門番たちを圧を掛けるように言うと、一人が気圧されたのか剣を抜き迫ってくる。
「未熟だな」
この程度の圧で気圧され来るなんて、僕の部隊でもイアの部隊でもあり得ない。
未熟で気持ちが揺らいでいる剣など、僕が当たる訳もない。
振り下ろす前に僕は彼の腕を使み、捻ると男は回転し背中から叩きつけられる。
「先に手を出したのはこいつだからね」
僕がそう言うと同時に、もう一人の門番は笛を吹く。
少ししてから、上から何かが振ってくる。
門番長でありフェイルの雇い入れてる最強格の一人、レグルという男だ。
勝気で好戦的な瞳でこっちを見る彼と視線が合う。
「やぁレグル、元気そうで何よりだな」
「あ、あぁ……」
僕がそういうより先に彼の勝気な表情が一変して恐怖で歪む。
そこまで怖がらなくていいのに……。
昔一度ボコボコにしたからか、彼は僕に合う度にこうなっていた。
「えっと、フェイルに用があるんだけど、通してもらえるか?」
「あ、いえ、俺ではその権限が……」
「いいよ、通してくれるだけで、ね?」
「はい……」
虎の威を剥されたせいか、勝気な瞳は猫のようになりを潜めている。
そうして僕は扉をあけると、屋敷内に入る。
森で視界が覆われ、彼の屋敷までは少し距離がある。
ここで出てくるのは……。
そう思っていると、何かが飛んでくるので回避する。
地面に刺さったのは黒い刃の苦無?だった。
「ウィル、危ないじゃないか」
僕の言葉にお返しとばかりに苦無というものが飛んでくる。
「そこか」
僕は苦無を弾き、一気に距離を詰める。
「やぁ、共に向けるとは危ないじゃない、か!!」
彼に掌で触れると、地面を踏み抜き一気に力を籠め彼を吹き飛ばす。
魔掌底、魔力で風魔法を圧縮した攻撃だ。
「がはぁ!」
そのまま彼は吹き飛んでいく。
しまった、やりすぎたか……。
そう思っていたが、直ぐに黒い苦無が飛んでくる。
距離を取る為にあえて着地しなかったのだ。
彼はこういう場所を得意としているので、なかなか面倒だ。
「それ以上やるなら、死んでも文句言うなよ。 次はないからな」
僕はそういうと、再び屋敷に向かって歩き出した。
面倒だ、ここは……。
そうして森を抜ける間、攻撃はなくすんなり森を抜ける事が出来、もう一つの扉の前の門番とひと悶着あったが、通してもらいフェイルのいるであろう場所へとたどり着く。
「はいれ」
ノックをすると、声が聞こえはいる。
「お、お前!?」
「やぁフェイル、元気だったかい?」
狼狽する彼に僕は挨拶する。
「突然押しかけて無礼だと思わないのか!?」
「無礼なのはどっちかな?」
そういうと、彼は黙る。
この感じ、心当たりがあるんだろうなぁ。
「少し聞きたいんだけどさ、僕が帰る時、君、何かした?」
「な、何の事だ?」
「それがね、僕が丁度返ってくるときにさ、迎撃の仕掛けが発動して危うく死にかけたんだよ。 それから僕が帰って一番最後に使ったってのがさ、君の名前だったんだよ」
名義が違うんだけどね。
心の中でそんなことを言いながら真実に嘘を少し混ぜる。
「ほう、そりゃ大変ですな。 しかし、俺はそんな命令を出した覚えがない」
「そうなんだ」
あくまで知らぬ存ぜぬを通すか。
「ならいいんだ、あくまで君の名前を誰かが使った。 そういう事だね?」
「そうなんじゃないか? 俺はあくまで何も知らん。 これだけは断言できる」
「そっか、悪いね。 押しかけて悪かったね」
「全くだ、変な憶測で忙しい俺に時間を割かせるな」
嘘つけ、金儲けの算段と村の要人と村長に媚へつらってるだけだろうが。
「それじゃ今から三政会議を開かないとな。 君の名を語って悪事を働いた人物を徹底的に探し出さなきゃいけないからな」
その言葉に彼はきょとんとした顔を浮かべる。
「それじゃ」
そういうと僕は彼の部屋を出ていく。
さて、少し待つか。
「ヒナ、いるんだろ」
「お呼びですか?」
黒装束を着こんだ人影が現れる。
ヒナ・スピット、それが彼女の名前だ。
「これを使ってからお前の仲間を使ってここから出る奴ら全てを監視しろ」
通信魔法を阻害する魔道具をヒナに渡すと「御意」と彼女は消え去る。
ウィルやこの一帯にいる奴らでは彼女達の気配に気づく事など出来ないだろう。
彼女の組織「暗闇の雛鳥」は僕の作った隠形部隊だ。
潜入調査等主に必要な部分はヒナを主格として蜘蛛の糸のように情報を集めてくる。
ヒナ以外の一部の幹部以外は僕が命令を出しているのを知らない。
表向きは商人から娼婦まで様々まで人がいるとヒナは言っていた。
因みにもう一つ男の組織もいるにはいる。
こっちは武闘派というか脳筋が多いが、「黒狼我」という名前で潜入して暗殺等を生業としている。
国内はヒナ達「雛鳥」、国外は「狼我」で基本的に分けてはいる。
「さて、ヒナに任せた事だし、戻るか」
そうして僕はリファ達のいるミストの拠点へ戻るのだった。