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第3話 ライバル宣言?


 ギルド設立の許可を得たオレとリリスさん。これでようやくスタートラインに立てたわけだけど、次の問題はギルドを営業する場所だ。リリスさんはすでに決めてあるようなことを言っていたよな。


「リリスさん、ギルドの拠点となる場所はどこですか?」


「今から案内しますよ。王都だと、本当に良いところがたくさんありすぎて迷いました。でも、あえて冒険者が良く立ち入るところは避けたいと思っていて。ああいう場所には、既に競合となる冒険者ギルドも多いでしょうし、下手に鉢合わせしたら、なんか喧嘩になりそうですしね?」


 そう言ってニヤリと笑うリリスさんの顔を見上げながら、オレは内心冷や汗をかいた。きっと、物理的に手が出そうなのはリリスさんだけだと思いますよ……


 危うく「それはリリスさんだけでは……?」と口に出そうになった言葉を慌てて心の中に押し込める。うん、これは言わない方が賢明だ。絶対だ。


 オレたちがそんな現実的な話をしながら、王都の活気あふれる大通りを歩いていると、前方にやけに派手で、周りから浮いている一団が見えた。


 キンキラと光る高価な金属鎧や、大仰な装飾の施された武器。いかにも「私たちは特別です!」と言いたげな雰囲気を全身から発している。なんだろうあの人たちは?見たところ冒険者っぽい格好もしているが、あまりにも実戦的でない、まるでパレードでもするような装備だ。そのあまりの場違いさに、思わず立ち止まって見てしまった。


 オレとリリスさんがその一団を視界に入れた時、向こうもこちらに気づいたらしい。彼らのリーダー格らしき、一番装飾過多な鎧を着た男が、こちらに視線を向けた後、大仰な足取りで近づいてきた。その後ろからは、眼鏡をかけた細身の男と、やたらと体の大きな男が続く。さらに少し離れて、可憐なドレスを着た少女がこちらを見ているのが見えた。


 男はオレたちの前で立ち止まり、フン、と鼻を鳴らした。そしていかにも尊大な態度でオレたちを見下ろした。


「お前たち、ちょっといいか?」


 不躾な呼び止め方に、オレは怪訝な顔をした。リリスさんも無言で警戒するような視線を彼らに向けている。一体、この派手な人たちは何なんだ?


「なかなか見かけない顔だな。王都の冒険者ではないか?あるいは、これから王都で一旗揚げようとしている新参者か?どちらにせよ見るからに場末の匂いがするが……」


 なんだいきなり失礼なんだがこの人。オレが呆気にとられているとそのまま話し続ける。


「どうでもいい。聞け! 我々が率いるのは、この王都で今最も注目されている、そしていずれ王都一となるギルドだ! その名を『ロイヤルファング』という!」


 男は胸を張り、自慢げにギルド名を口にした。『ロイヤルファング』。聞き覚えのない名前だ。そして彼はそのまま一方的に話を続けた。


「私はそのギルドマスター、アルベール・ド・ロワだ!そして我が『ロイヤルファング』は、貴様たちのような凡人には想像もつかぬほど、高貴で!力強く!そして未来に輝くギルドだ!」


 アルベールと名乗った男は、オレとリリスさんが何か言う隙も与えず、自分のギルドの自慢を開始した。


「見ただろう?この高価な装備!王都の冒険者ギルドの中で、これほどの後ろ盾を持つギルドがどこにある?ない!我々だけだ!資金があるということは、つまり最高の装備、最高の情報、そして何よりも最高のコネクションが手に入るということだ!」


 男は自信満々に捲し立てる。オレはあまりの勢いにあっけにとられてただ聞いているしかなかった。反論しようにも彼は息つく間もなく話し続けるのだ。


「そして、我がギルドには私という最高のリーダーがいる!そしてこの優秀な弟たちもいる!知略に長けるベルトラン!豪腕無双のティボー!そして可憐で癒やしの力を持つアメリア!我々四兄弟の力を持ってすれば、どんな依頼も簡単にこなせる!どんな困難も乗り越えられる!我が『ロイヤルファング』は、すでに多くの貴族や有力者から注目を集めているのだ!」


 そう言いながら、アルベールは後ろに控える弟と妹を大げさに指差す。ベルトランは苦虫を噛み潰したような顔をし、ティボーは腕組みをしてふんぞり返っている。アメリアは相変わらず遠い目で、アルベールの方すら見ていない。彼の「優秀な弟たち」という言葉には、どうにも説得力がないように見えた。


「まあ、前置きはこれくらいにしておこう。貴様たちだ。見るからに冴えない風貌だが、まあ、そちらの女の方はそれなりに見どころがあるかもしれん。そこでだ。我が『ロイヤルファング』は、今、優秀な人材を広く募集している!貴様たちのような者には本来なら声をかけるようなことはしないのだが、今日はお目が高い気分だ。特別に我がギルドへの入団を許してやってもいい!」


 アルベールは胸を張り、まるで王が慈悲を下すかのような口ぶりで言った。


「いや、オレたちも冒険者ギルドをさっき設立した……」


「冒険者ギルド?尚更だ。無謀な挑戦はやめておけ!貴様たちのような、頼るアテもないであろう者にとっては、これ以上ない僥倖であるぞ!愚かなプライドは捨てて、我が『ロイヤルファング』の傘下に入れ!我々の庇護のもとで、王都の一流冒険者として輝くのだ!これが貴様たちが生き残る唯一の道だぞ!」


 オレは依然としてその一方的な言葉に、ただ口を開けているしかなかった。断ろうにも、彼の言葉の波に流されてしまう。アルベールはそこでようやく一息ついた。その瞬間、オレはようやく我に返ったが、言葉が出てこない。オレが呆然としていると、隣にいたリリスさんが、ゆっくりと深々とため息をついた。


「はぁ……」


 その短い息には、途方もない呆れと隠しきれない苛立ちが込められているように感じられた。アルベールは自分の話の成果を待つようにリリスさんを見た。リリスさんは感情のこもらない、氷のように冷たい声で言った。


「しつこいと……殺しますよ」


 その言葉を聞いた瞬間、アルベールは文字通り飛び上がった。顔色が一瞬で青ざめ、キンキラの鎧がカチャリと鳴る。彼の目に宿るのは先ほどの尊大さではなく純粋な恐怖と混乱だ。


「な、な、なにを……!き、貴様!この私、アルベールに……!」


「はい?耳が遠いんですか?しつこいのは嫌いなんです。特に貴方たちみたいに中身がなくて騒がしいのは、生理的に受け付けない。二度と話しかけないでください」


 リリスさんはジロリとアルベールを睨みつけた。その瞳の奥に宿る冷たい光は、冗談で言っているのではないと雄弁に物語っていた。


「おい女!貴様……」


 その時、凄まじい殺気がその場にいた全員を凍りつかせた。先ほどまでの冷たい怒りとは明らかに違う、純粋で、研ぎ澄まされた殺意が空気そのものをビリビリと震わせている。穏やかなリリスさんの雰囲気は一変し、まるで氷の刃を何枚も突きつけられているような、そんな悍ましい感覚……


「は?話しかけるなと言いましたよ?死にたいんですか?」


 その追い討ちをかける言葉に、アルベールは完全に怯えきってしまい言葉にならない呻き声を漏らす。


「ひっ……!お、覚えていろ!ロイヤルファングを敵に回したことを……!」


「敵?何のことですか?」


「いいだろう。このアルベールを前に怯むことなく勇猛果敢に挑んでくるか!銀髪の女!我がライバルとして認めようではないか!帰るぞ弟たちよ!」


 そう絞り出すように言うと、アルベールはくるりと踵を返し、後ろの二人を急き立てるように慌てて逃げ出した。ベルトランとティボーも、兄の尋常でない様子に驚きつつ一目散にアルベールを追う。アメリアは相変わらず無表情だったが、最後にアルベールが逃げていく様を見ながら、小さくため息をついたように見えた。


 嵐のように現れ、そして恐怖に駆られて去っていったロイヤルファングの一団を見送りながら、オレは未だに呆然としていた。

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