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第十八話 忍び寄る脅威

「ここは……」


 ドラゴン鎮圧後、死骸処理を含めた後始末に追われるディーザ侯爵に別れを告げ、レイテアはルスタフ公爵家へ急ぎ戻った。


 アテネを格納し、ガードへ整備点検を依頼するとすぐに父の公爵とともに王城へ出向き、国王へ報告。

 王は大層喜んだものの、帝国のはかりごとの結果だと知り、表情は厳しくなる。


「生物、ドラゴンさえ兵器にするものを帝国は作り上げたわけだ。あのまま進んでいたらここ、王都へ到達していた」

「一切の証拠が存在しませんので帝国は知らぬ存ぜぬを通すでしょうな。ハルミヤ鋼の採掘現場のみならず、国境警備を厳しくせねばなりますまい」


 ルスタフ公爵も渋い表情を浮かべている。


「報告にあった楔は魔導院と国防省の共同作業で解析させる。無効化の手段を模索だ」


 ふと優しげに微笑む国王。


「レイテア嬢、君のゴーレムはダロシウからも報告が上がってる。画期的なものだそうだね。褒賞式はそのゴーレムのお披露目も兼ねるとしよう。本当によくやってくれた」

「畏れ多きお言葉、望外の喜びでございます」 


 国王は安堵を浮かべたダロシウ王太子とともに退室。


「レイテア、私は今でも君がドラゴンを鎮圧したとは信じられない気持ちだよ。我が娘ながら国の危機を救ったことは喜ばしい」

「お父さま、ガードさんを始めとした工房の方々、ポーシェさま、“考えるスライム”を快く分けてくださった団長さん、そしてドラゴンさま。皆さんの協力なくしてわたくしひとりでは不可能でした」

「ああそうだな。礼をしなければならない。サーカス団への興行許可はかなり前に出している。そのうち我が領にて公演をするだろう?」

「ええ。具体的な日程はおっしゃってませんでしたが」


 以前訪れた時、見せ物小屋にあったドラゴンの看板。結局あれを見ることなかったが、ルスタフ領での公演に必ず観に行こうと決意しているレイテアであった。


 その夜。

 気がつくとレイテアは幼い頃過ごした部屋にいた。

 机の上には何度も読み返し、今でも宝物のように扱っている童話の書。

 悪魔の軍勢に蹂躙される王国を救った白い巨人の物語。  


「この本、まだ綺麗な状態……」

「あなたの記憶を再現したのです」


 振り向くと数名の男女が立っていた。

 こうして会うのは三度目。

 髪、肌、眉毛にまつ毛、瞳、全てが白い女。

 その後ろには同じような風貌の老若男女がレイテアを見つめてる。


「何もできない私達に代わって、同胞を救ってくれたこと、感謝します。レイテア・ミーオ・ルスタフ」


 全員レイテアに礼をする。


わたくしだけでは無理でした。あの、おじさまがどうなったかご存知ですか?」


 取り乱しているレイテア。


「あの黒い楔は本来の魂を引き剥がし、傀儡にするもの。ですから私達はあれに近づけませんでした。恐らく彼の魂はその影響を受けたのかと。あなたの魂と違って漂着した魂ですから」

「そんなっ!」

「安心なさい。彼の魂は今もあなたと共にあります」

「えっ?」


 ドラゴンの化身たる女性は優しく微笑む。


「心配はいりません。今は眠っているような状態なのです。そのうち目覚めることでしょう」

「そうなのですね! おじさま……」

「あなたと彼には私達が惜しみなく力を貸します。困った時はいつでも呼びなさい。レイテア・ミーオ・ルスタフ、あなたの名前は我々の間でずっと語り継いでいきましょう」


 起床後は朝食もそこそこにカシアを連れ、工房街へ急ぐレイテア。


 待っていたのは親方であるガード。

 二の腕の太さはレイテアの足と変わらないはどの屈強な壮年男性。


「お嬢さま、ナイフの刃が欠けてますが何に使ったんで?」

「ドラゴンに打ち込まれていた楔です。何度も突きました」

「あー例のものですな。現物見てないから確かなことは言えませんが、恐らくそれもハルミヤ鋼でしょうなぁ」

「ガードさん、注文していた武装はどうなっていますか」 

「剣と槍はあと三ヶ月はかかります」  


 男がレイテアを通して注文していたものだ。

 かつての会話を思い出すレイテア。


『本当は飛び道具、ライフルとかロケットランチャーあたりが欲しいんだけどなぁ』

(それはどんなものですか)


 ------------------説明中--------------------


(おじさまの世界の武装は恐ろしく感じます)

『あぁ俺もそう思うよ。平和だなんて言っても多勢の死体の上に歴史が成り立ってる。それはここも同じだろう?』

(ええ)

『今のところアテナの仮想敵は帝国の大型ゴーレムだ。接近戦じゃ万が一捕まったら危険だから、リーチのある武装がいい。剣より槍がいいと思うんだけどなぁ、俺は』

(お父さまにお願いして、剣と槍の家庭教師は手配済みですわ)

『レイテアちゃんはちょっと大変だけど、俺も付いてるから!』

(頼りにしてます、おじさま)

『火薬は偶然発明されたものだけど、この世界でも同じにならないとは限らない。帝国も大きな国だよな?』

(はい。公にはしていませんが、帝国の人口は推定四百万人。そば米を品種改良したものが普及してからは爆発的に人口が増えたとお父さまに聞きました)

『食糧革命か』

(それに帝国の領土にもかつての古代帝国の遺跡が多々あるだろうとポーシェさまがおっしゃってます)

『古代文明……やばいキーワードだよな』

(王国内の遺跡からも使途不明な遺物が多数発掘されてます)

『なるほどなぁ。その研究はどこがしてるの?』

(魔導院と国防省です)

『そっかぁ。超兵器みたいなものがあっても不思議じゃないかもね』


 まだ数日と経ってないにもかかわらず、遠い日の出来事に思えるやり取り。


「ガードさん、よろしくお願いします」

「任せてくれよ、お嬢さま。ハルミヤ鋼はたっぷりあるんだ。でかいサイズのは初めて作るがアテナが使いこなすに相応しいエモノに仕上げてみせるよ」

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