目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第十九話 衝撃走る王国

 ディーザ侯爵領ドラゴン出現事件より二週間後。

 王城に隣接する演習場にて褒賞授与式典が行われた。 

 ラーヤミド王国の王族並びに全ての貴族当主(支配層の数を絞る体制のため多くはない)が参列している。

 実質はルスタフ公爵家の新造大型ゴーレム、アテネの披露の場だ。


 レイテアには戦争で武勲を立てた者へ贈られる勲章が授与された。

 レイテアの働きに対してやや過分な勲章だと反対意見も出たが、国防省が『新型ゴーレム開発の功績を考えると妥当』と強く意見を通した結果である。


 ここに居合わせた貴族達はアテナの威容にざわめきが止まらない。


「まるで人間ではないか」

「御伽噺の巨人そのものだ」

「どうやって動くのだ」

「後で王家のゴーレムと模擬戦をするそうだよ」

「顔が公爵令嬢だな」

「ゴーレム狂いの公爵令嬢。噂通りか」

「ルスタフ公爵家は武門に鞍替えか」

「公爵にその気は無いようだと聞いたが」

「貴族学院に入る前の年齢だというのにあれを作り上げたのか」

「国防省が取り込むのにあの手この手を回してる」

「帝国も大胆なことを」

「決して認めまいがな」

「王太子も婚約者の武勲を上回るのを求められるだろうよ」


 レイテアに注がれる好奇、羨望、嫉妬、様々な目線。


 しかしレイテアは気にしない。

 元々そういうものに関心が無い。

 彼女の頭の中はゴーレムのこと、それと未だ反応がない御使みつかいのことで占められている。


 アテナと王家所有のゴーレムの模擬戦は集まった人々に大きな衝撃を与えた。


 王家が所有する大型ゴーレム三体。

 体長はアテナと同じ十メートルほどだが、シルエットがアテナと比べるまでもなく、武骨そのものを体現したかのような人型。


 魔導により金属塊を結合させたゴーレム。

 逆さまにしたバケツのような胴体に小さな茶碗のような頭。胴体の真横から短めの腕が伸びていて、短く太い足がそれを支えている。


 三人の魔導士が遠隔で操作するため、動きも鈍重。

 主な用途は城や要塞を攻める際に、兵士の盾となり突き進むもの。


 運搬には大型貨物馬車が必須であり、それゆえ素早い展開は望めない。

 街道が整備されてない地域だとゴーレムを歩かせるが、深い谷や険しい山を乗り越えるのは困難を伴う。


 模擬戦は全く勝負にならなかった。

 アテナは滑らかな動きで三体のゴーレムを次々と行動不能にした。


 それを目の前で観た人々は呆然としてしまい、何一つ反応出来なかったのである。そしてしばらくの後、大きなざわめきがその場を支配する。


「何だあの動きは。本当に人のようではないか」

「ゴーレムの胸へ入っていったレイテア嬢が中で操作しているのか」

「従来のゴーレムでは全く歯が立たぬ」

「ゴーレムだけじゃない。あれが騎士隊や兵士の戦列に飛び込めば、瞬時に蹂躙してしまう」

「恐ろしい」

「攻城兵器の投石器ではかすりもしないぞ」


 同時にこの場へ入り込んでいた帝国を始め、周辺各国の間諜も戦慄を持って本国へ報告を飛ばした。


「あの人型ゴーレムが量産された場合、大陸制覇は最も容易く成し遂げられるだろう」と。


 式典後、レイテアに殺到した茶会への誘い。

 またルスタフ公爵へ主に国防省筋の貴族達から様々な勧誘が舞い込んだ。


 レイテアは全ての誘いを『ダロシウ殿下を通してください』と一蹴、ルスタフ公爵は連日の飲酒が祟り、とうとう胃を患うこととなった。


 ダロシウ王太子は貴族学院へ入った後のレイテアがどんな目に遭うかを想像し戦慄。

 貴族の子弟によるレイテアの争奪戦が起きるのは火を見るより明らかだからだ。


 従者の中から同じ歳の貴族令嬢へレイテアの守りとなるよう命令。

 またレイテアと同級の第八王女アーシアにも同様の懇願をする。

 アーシアはダロシウに大変懐いており、またレイテアにも好意を抱いていたので、彼女は快諾したのである。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?