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第二十話 ときめき!貴族学院

 ラーヤミド王立貴族学院。 

 国を担う人材を育成する為にあり、十五歳になると貴族子弟はここへ通うことになる。


 レイテアは先月、十五歳の誕生日を迎えた。

 今日この日、希望通り魔導科へ入学したレイテアは始業の儀式へ出席している。


 魔導技術は農業、工業、国防と幅広く使われていているため、技術者志望の男子が圧倒的に多い。

 女子は城勤めを見越した生活科、教師になる者が多い教養科などに多く在籍している。


 ディーザ侯爵領の件と勲章を受章したこと、しかも王太子の婚約者。それは在学生含め周知の事実であり、レイテアは入学前から目立つ存在となっていたが当然のことであろう。


 始業の儀式は終わり、新入生達はそれぞれの講義室へ向かう。

 魔導科のそれは他の科に比べかなり広い作りになっている。魔導を扱うため、様々な道具も置かれているからだ。


 レイテアはひとり隅の席でアテナの武装について思いを巡らせていた。


「あなたがレイテアさんね」


 レイテアの隣に座り、にこやかに話しかけてくる令嬢。


「は、はい。えっと……」

(な、なんてお綺麗で凛々しい方……どなたかしら)


 実は同年代女子とは侍女カシア以外に全く接点がないレイテア。茶会の誘いを全て断ったのもそのためである。


「オリドア・メティル・ディーザよ」 

「レイテア・ミーオ・ルスタフです。もしやディーザ侯爵の……」

「ええそうよ。父はディーザ侯爵。あなたには返しきれない恩を感じています」


 オリドアの髪は薄いブラウン。光の加減で僅かに紫がかって見えるのはディーザ侯爵と同じ。

 レイテアよりも頭ひとつ背が高い。大柄なディーザ侯爵に似たのだろう。

 女子としては高身長、それもあって年上の雰囲気を纏う。


「あっいえ。わ、わたくしは王命に従っただけで……」


 照れて俯くレイテアの手を柔らかく包み、オリドアは微笑んだ。


「よろしければ仲良くさせていただきたいたいのです。レイテアさん」

「わ、わたくしでよければ喜んで……」

(こんな素敵な方と知り合えるなんて)


 これに視線を向ける学生たち。

 ある者は優しげな視線。

 ある者は僅かに暗いものが見え隠れする視線。

 またある者は敵意を隠そうともしない視線。


 注がれる視線に当のレイテアは全く気がついていない。


 講義室へ入ってくる男。


「全員揃ってるな? これから四年間、君らを受け持つタイバだ。研究者であるが教授の資格もある。人は死ぬまで学び続けるものだが、若いうちは学べば学ぶほど身につくから、心して講義に臨んでほしい。ここで学んだことは後にきっと諸君らの財産となることを保証する」


 髪に白いものが混ざり始めているタイバ教授は鋭い眼光で学生ひとりひとりを見ながら挨拶をした。


「さて今年の新入生に従来のものとは全く違う大型ゴーレムを開発しただけでなく、それを運用しディーザ侯爵領に現れたドラゴンを鎮圧した学生がいる」


 学生達は一斉にレイテアに注目する。


「レイテア・ミーオ・ルスタフ。立ちなさい」

「はっ、はい」


「私もあの模擬戦は見学したんだよ。魔導を追い求める者として、大変刺激的な経験だった。さて。ここで全員に聞かせてほしいことがある。君があのゴーレムを作ろうとした動機。学生諸君だけじゃない、私もそれが知りたいのだ」


 レイテアは緊張してしまう。

 工房の長であるガードやディーザ侯爵、見せ物団団長への交渉の際、一切ものおじすることなかったレイテア。


 ゴーレムを作り上げることに関しては彼女は堂々としたものだが、人前で話すのは本来苦手なのである。


「わ、わたくしは幼い頃に出会った御伽噺に心打たれました。そ、それが全ての始まりです」

「ほう。御伽噺?」

「は、はい。悪魔の軍勢に襲われた王国を白い巨人が救う物語です」


 学生達の間から『あ、あれか』『あったな、そういうの』などと声が漏れる。


「なるほど。幼き頃の君はその物語に傾倒したわけだ」

「は、はい。私わたくしはその白い巨人をいつか作り上げて、王国の守りとしたい……そう願うようになりました」

「はっはっは! いや、失礼。その発想はどこから来たのかね?」

「えっ?! あ、いえ、母に尋ねたところ、王家所有の大型ゴーレムがあり、それならわたくしも作ってみたいと思ったのです」

「君は技術者気質だったわけだ。大いに結構。何者かになろうとしてなる者ではなく、気がついたらなっていた者だな、君は。ゴーレム製作の課題、楽しみにさせてもらうよ」


 このやり取りを聞いた学生達、小声で囁き合う。


「可愛らしい顔してるのに、すごいゴーレム狂いだな」

「女子にしては大変珍しい子だね」

「あの物語、私は王太子妃様に憧れたわ」

「私もですわね」


「静粛に! 学生諸君、技術は何かを成す為にある。つまりは手段だ。魔導を修めようとする者は決してその手段を目的としてはならない。

 これはかつて栄華を誇った古代帝国が滅びた原因でもあるからだ。知ってる者もいるだろうが、技術に飲み込まれた者は道を踏み外す」


 学生達は静まり返る。


「彼女の『ゴーレムを王国の守りとしたい』、これが目的、つまり理念だな。これを決して忘れぬよう」


 タイバ教授のこの一言は講義室に力強く響いた。

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