姉弟が質素な食事を終えた後。
ヴァロフェスは、離れにある物置小屋を今夜の寝床に使わせてくれと神妙に申し出た。寒いから、とメルディは家の中にいるよう勧めたが、彼は頑として首を縦に振らなかった。
「何だか、変わった人……」
黒い外套をはためかせ、裏口から外へ、夜の闇に溶け込むヴァロフェス。
それを見送り、メルディが小さく溜め息をつく。
「あの物置って古いから隙間風が凄いのよ? 風邪をひいたりしないのかなぁ?」
「う、うーん。どうだろ……」
真顔で心配している姉に相槌を返しながらも、ダインは気が気ではなかった。
結局のところ、あの男、ヴァロフェスは何者なのか。
こちらが油断するのを狙って、何か、悪さを働くつもりではないだろうか。
「……あッ!!」
思わず、ダインは声をあげていた。
「まさか!! あいつ、アレを狙っているのか!?」
「ど、どうしたの?」
突然、大きな声を出した弟に驚き、メルディが振り返る。
「アレって何の話?」
しまった、とダインは両手で口を押さえる。
「ダイン?」
「な、何でもない」
声が震えそうになるのを必死で堪えながら、ダインは言った。
しかし、それは恐怖や不安のせいではなかった。
激しい、怒りだった。
火で焙られたかのように、頭の芯が熱くなるほどの。