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 姉が寝入るのを見計らい、こっそり、ダインは家を抜け出した。

注意深く周囲の様子を伺いながら、雪の降り積もった街道を辿って森へと向う。

 骨の髄まで凍えさせるような森の夜道を半刻ほど歩き、ポッカリ、歯が抜けたかのように視界の開けた、荒れ果てた土地にたどりつく。

その頃には、雪雲はすでに空から消え去り、かわりに鎌のような三日月が輝いていた。

淡い月光に照らし出され、雪上に長い影を落としているのは、死者のように乾いた表皮を持つ巨木。

雪の積もった土の中から、赤黒い根がはみ出している。

うねうねと大蛇のように絡み合う枝には葉は一枚もない。

太い幹には、まるで人面をかたどるように黒々とした洞が穿たれていた。

ダインは巨木に駆け寄り、その不気味な洞に躊躇うことなく手を突っ込む。

しばらくの間、ダインの手は虚空の中をさまよったが――、やがて、固く冷たいものがその指先に触れる。

「よ、よかったぁ。ちゃんと、ある。盗まれてない……」

 思わず、安堵の笑みがこぼれた。

 一度、大きく深呼吸をし、洞の中のそれを、傷つけぬよう、ゆっくりと取り出す。

 それは目も眩むような、金色の輝きを放つ頭蓋骨だった。

 しかし、よく見れば、それが作り物だと分かる。

 面頬として用いられているのは、人間の髑髏を模した仮面。

前立てには鋭い鋲の付いた王冠のような飾りが施され、それには血のように赤い宝石が数個、埋め込まれていた。

それは不気味にも壮麗な、異形の兜だった。

ダインはそのうちの一つ、一番小粒な宝石をナイフで抉り取り、街の質屋に売り飛ばしていた。

「早く、こいつの買い手を見つけなきゃ」

 巨木の音の上に腰をおろしながら、ダインは溜め息をつく。

 彼の手の中で、黄金の兜は月光を反射し、粘りつくような輝きを放っていた。

「あいつ――、ヴァロフェスみたいな変なやつにウロチョロされちゃ、オチオチ、夜も眠れないもんなぁ……」



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