ジメジメして、カビ臭くて、暗くて、マジ最悪。
あたし、ゆきぽよは、ゴルドーさんの持つ松明の明かりだけを頼りに、不気味な洞窟の中を進んでいた。
「てか、ゴルドーさん。まだ奥あんの? この洞窟」
「ああ。地図があるわけじゃねえからな。どこまで続いてるか…。しかし、この淀んだ空気…嫌な感じだぜ」
ゴルドーさんが、斧を握りしめながら警戒を強める。
あたしも、なんか背筋がゾワゾワする感じがする。
気のせいじゃなくて、マジでヤバい気配が濃くなってきてる。
キシャァァ! チュルチュル! ギーギー!
「うわっ! なんかキモい音、めっちゃ聞こえるんだけど!」
あたしが顔をしかめた瞬間、前方の暗闇から、何かがうごめく気配がした。
松明の明かりが、それを照らし出す。
「うげぇっ!!」
思わず声が出た。
そこは、少し開けた広間みたいになってるんだけど、床も、壁も、天井も、なんか半透明でプルプルしたヤツとか、デカいコウモリとか、緑色のキモい小鬼とかで、埋め尽くされてる!
「スライムに、ジャイアントバット、それにケイブゴブリンか! 数が多いな!」
ゴルドーさんが叫ぶ。
スライム? ゴブリンは分かるけど、コウモリも魔物なわけ? てか、数、ヤバすぎ!
マジで、魔物ビュッフェ状態じゃん!
「ギギィィィ!!」
「キシャァァァ!!」
あたしたちに気づいた魔物たちが、一斉にこっちに向かってくる!
スライムが地面を這い、コウモリが空から襲いかかり、ゴブリンが奇声を上げて棍棒を振りかぶる!
カオスすぎ!
「嬢ちゃん、数を減らすぞ! 囲まれるな!」
ゴルドーさんが斧を振るい、迫ってくるゴブリンを薙ぎ払う!
さすがBランク! 頼りになる!
「わかってるって! うざいのが多すぎんだよ!」
あたしは、足元に迫ってきていたスライムの大群に向かって、思い切り地面を踏みつけた!
ドォォォン!!
『身体強化 極』のパワーを込めた踏みつけ!
衝撃波が巻き起こり、足元のスライムたちが、まとめて吹き飛んで壁に叩きつけられ、ベチャッ! と潰れた!
「うわ、キモ…」
なんか、緑色の液体が飛び散ってるし。
最悪。
「キシャァ!」
頭上からは、ジャイアントバットが急降下してくる!
「うっとおしい!」
あたしは、飛んでくるコウモリを、ハエ叩きみたいに素手でバシッ! と叩き落とす!
数匹まとめて地面に叩きつけられて、ピクピクしてる。
「ギィィ!」
横からは、ケイブゴブリンが棍棒で殴りかかってきた!
昨日までのゴブリンより、ちょっとガタイがいい感じ?
「はい、ワンパン」
あたしは、向かってくるゴブリンの顔面に、カウンターで拳を叩き込んだ!
ゴキャッ! という鈍い音と共に、ゴブリンはくの字に折れ曲がって吹っ飛んでいった。
「嬢ちゃん、右!」
ゴルドーさんの声!
右を見ると、壁を伝って別のゴブリンが飛びかかってこようとしてる!
「サンキュ!」
あたしは、近くに転がっていた手頃な大きさの岩を拾い上げると、それを野球のボールみたいにゴブリンに向かって投げつけた!
「うぎゃっ!?」
岩は見事にゴブリンに命中し、ゴブリンは岩ごと壁にめり込んだ。
「…ふぅ。マジ、キリないんですけど! まだいんの!?」
あたしが辺りを見回すと、さっきまで埋め尽くされていた魔物の姿は、ほとんどなくなっていた。
ゴルドーさんも、残っていた数匹を片付けてくれたみたいだ。
床には、魔物の死骸とか、スライムの残骸とかが散らばってて、マジで地獄絵図。
「…ったく。これだけの数を、あっという間にか。嬢ちゃんの強さは、何度見ても規格外だな」
ゴルドーさんが、呆れたように笑う。
「まあね! で、どーする? まだ奥行く?」
「ああ。こいつらは、明らかに異常発生だ。原因は、もっと奥にあるはずだ」
あたしたちは、魔物の死骸を踏み越えて、さらに洞窟の奥へと進むことにした。
道中、また何度か同じような魔物の群れに遭遇したけど、あたしとゴルドーさんのコンビ(主に、あたしが無双して、ゴルドーさんがサポートするスタイル)で、問題なく蹴散らしていく。
しばらく進むと、道が二手に分かれている場所に出た。
「うわ、分岐とかあんの? めんどくさ」
どっちに進めばいいわけ?
勘で決める?
「待て、嬢ちゃん。こっちの通路…何か感じるか?」
ゴルドーさんが、右側の通路を指さして言う。
あたしも、そっちに意識を集中してみる。
「……んー? なんか、空気が違う感じ? こっちの方が、もっとヤバい気配するかも」
左の通路からも魔物の気配はするけど、右の方が、もっと濃密で、なんか…異質な感じがする。
うまく言えないけど、勘ってやつ?
「俺もそう思う。魔物の巣があるなら、おそらくこっちだろう。行くぞ」
ゴルドーさんも同意してくれた。
あたしたちは、右側の通路へと足を踏み入れる。
こっちの通路は、さっきまでの道より、さらに狭くて、天井も低い。
壁には、なんかヌメヌメした苔みたいなのが生えてて、マジでキモい。
「うわー、なんかヤバそうな雰囲気マシマシじゃん…」
奥に進むにつれて、ゴボゴボ…とか、シュルシュル…とか、今までとは違う、もっと気味の悪い音が聞こえてくる。
そして、通路の突き当たり、少し開けた空間が見えてきた。
その空間の真ん中あたりが、ぼんやりと紫色の光を放っている…?
「ゴルドーさん、あれ、なに?」
「分からん…。だが、この異常な魔力の発生源は、あの光に関係がありそうだ。気をつけろよ、嬢ちゃん!」
ゴルドーさんが、松明を掲げて、ゆっくりと広間へ入っていく。
あたしも、ゴクリと唾を飲んで、後に続いた。
なんか、ラスボス前のステージみたいな雰囲気なんですけど!
広間の中央で光っているのは、地面から突き出た、黒曜石みたいなデカい結晶体だった。
その結晶体が、不気味な紫色の光を明滅させながら、ドクン、ドクン、と脈打っているように見える。
そして、その結晶体の周りには…。
「……なんか…いるんですけど…」
これまでの魔物とは明らかに違う、もっとデカくて、もっと異様な姿をした何かが、結晶体を取り囲むように、うごめいていた。
あれが、魔物大量発生の原因…?
てか、あれ、倒せんの? ウチでも。
あたしは、ゴルドーさんと顔を見合わせる。
いよいよ、ヤバいヤツのお出ましかもしれない。