洞窟の最深部。
あたしとゴルドーさんは、広間の中央で不気味に脈打つデカい黒い結晶体と、その周りでうごめく異様な魔物たちを目の当たりにして、立ち尽くしていた。
空気、重すぎ…。
てか、あの魔物たち、マジでデザイン悪趣味すぎん?
「ゴルドーさん、あれ、何? 魔物?」
あたしが小声で聞くと、ゴルドーさんは険しい顔で結晶体を睨みつけながら答えた。
「…間違いない。ありゃ『ダーククリスタル』だ。周囲の魔力を無理やり吸い上げて、歪んだ魔力を放出し、邪悪な魔物を生み出すと言われている呪いの結晶だ。こいつが、今回の騒動の元凶だろうな」
「へー。じゃあ、あの周りにいるキモいのは、そいつが生み出したってこと?」
「おそらくはな。しかも、ただの魔物じゃねえ。クリスタルから直接、歪んだ魔力を供給されてやがる。かなり厄介だぞ…!」
ゴルドーさんが言い終わるか終わらないかのうちに、結晶体の周りにいた異形の魔物たちが、一斉にこっちを向いた!
全部で3体。
岩石でできたゴーレムみたいなヤツと、腕がいっぱいあるタコみたいなヤツと、黒いモヤモヤでできた獣みたいなヤツ。
どれもこれも、さっきまでの雑魚とは比べ物にならないくらい、ヤバいオーラを放ってる!
「グルォォォ!」
「キシャァァ!」
「シュゴォォ!」
3体のボス(仮)が、同時に襲いかかってきた!
「ちっ! 来るぞ、嬢ちゃん!」
ゴルドーさんが斧を構え、一番手前にいた岩石ゴーレムに斬りかかる!
ガキィィン!
重い金属音が響く!
ゴルドーさんの斧が、ゴーレムの硬い体に弾かれた!?
「くそっ、硬え!」
ゴルドーさんが体勢を立て直す隙に、ゴーレムの巨大な岩の拳が振り下ろされる!
「危ねっ!」
ゴルドーさんは、間一髪でそれを回避!
拳が叩きつけられた地面が、メリメリと陥没する!
パワーもヤバい!
「こっちも相手してらんないんですけど!」
あたしの方には、多腕タコ野郎と黒モヤ獣が迫ってきていた!
「とりあえず、邪魔!」
あたしは、まず突進してきた黒モヤ獣に向かって、ストレートパンチを叩き込んだ!
ボフン!
…あれ? 手応えがない?
あたしの拳は、黒いモヤを素通りして、空を切った。
「シュゴォォ!」
黒モヤ獣は、嘲笑うかのようにあたしの周りを飛び回り、鋭い爪のようなもので攻撃してくる!
「ちょ、実体ないとか、ウザすぎ!」
あたしは、ひらりひらりと攻撃をかわす。
当たっても大したことなさそうだけど、なんか腹立つ!
「キシャァァ!」
そこへ、多腕タコ野郎が、無数の触手を鞭のようにしならせて襲いかかってきた!
「うっとおしいんだよ!」
あたしは、迫りくる触手を掴んで、逆にタコ野郎をぶん投げようとした!
…けど!
ズルッ!
触手がヌルヌルしてて、掴めない!
「うわ、キモ! なんなん、こいつら!?」
硬いヤツ、実体ないヤツ、ヌルヌルなヤツ。
どいつもこいつも、めんどくさい特性持ちすぎ!
「嬢ちゃん、そいつら、物理攻撃が効きにくいタイプかもしれん! 何か別の手を…!」
ゴルドーさんが、ゴーレムと打ち合いながら叫ぶ。
「別の手って言われても…魔法とか使えないし!」
くっそー!
イライラする!
あたしは、こういうチマチマしたのが一番嫌いなんだよ!
「…しゃーない。ちょっと本気出すし!」
あたしは、『身体強化 極』の出力を、グン! と一段階引き上げた!
全身の細胞が活性化するような、内側からパワーが溢れ出してくる感覚!
視界が、さらにクリアになる!
「まずは、ウザいモヤモヤから!」
あたしは、飛び回る黒モヤ獣の動きを完全に見切り、その核(コア)らしき、一際黒い部分を狙って、超高速の掌底を打ち込んだ!
ドパァンッ!!
空気を切り裂くような音と共に、掌底は黒モヤ獣のコアにクリーンヒット!
黒いモヤが一瞬で霧散し、獣は断末魔の叫びを上げる間もなく消滅した!
「よし、一体!」
「キ、キシャ…!?」
残った多腕タコ野郎が、仲間が一瞬で消滅したのを見て、明らかに怯んでいる。
「次、お前ね!」
あたしは、タコ野郎に向かって突進!
ヌルヌル触手が、また鞭のように襲いかかってくる!
「んなもん!」
あたしは、触手の動きを完璧に読み切り、そのすべてを掻い潜ってタコ野郎の懐に飛び込む!
そして、そのぶよぶよした本体(胴体?)に、渾身の右ストレートを叩き込んだ!
ズッッッッ…!!!
鈍い衝撃音!
タコ野郎の体が、ありえない形に歪み、内部から破裂するように弾け飛んだ!
緑色の体液が飛び散る!
「うげ! 最悪!」
あたしは、咄嗟に顔をガードしたけど、服とかにちょっとかかったかも…。
マジで萎えるんですけど…。
「嬢ちゃん、ナイスだ! あとはこいつと…!」
ゴルドーさんが、岩石ゴーレムとまだ奮闘している。
あたしも加勢しようとした、その時。
ゴゴゴゴゴ…!
広間の中央にあるダーククリスタルが、ひときわ強く脈打ち始めた!
そして、砕け散ったタコ野郎や消滅した黒モヤ獣の残骸から、紫色の魔力が立ち上り、クリスタルに吸い込まれていく!
「まずい! あのクリスタル、魔物を再生させる気か!?」
ゴルドーさんが叫ぶ。
え、マジ?
それ、無限ループってやつじゃん!
だるすぎ!
「だったら、あのクリスタル自体をぶっ壊せばいいんでしょ!」
あたしは、ターゲットを岩石ゴーレムから、中央のダーククリスタルに変更した!
「邪魔すんな!」
あたしは、ゴーレムの横をすり抜け、クリスタルに向かって一直線にダッシュする!
「グルォォォ!」
ゴーレムが、あたしを止めようと腕を振りかぶる!
「行けぇ! 嬢ちゃん!」
ゴルドーさんが、身を挺してゴーレムの前に立ちはだかり、その攻撃を受け止める!
「ゴルドーさん!」
「俺のことは気にするな! クリスタルを、やれぇぇぇ!!」
ゴルドーさんの背中が、頼もしく見えた。
…あんま時間かけると、ゴルドーさんがヤバいかも。
「しゃーない! これで、終わり!!」
あたしは、ダーククリスタルに向かって跳躍!
空中で体を捻り、全てのパワーを右足に込めて、踵落としを叩き込む!
「くらえやぁぁぁ!!」
あたしの踵が、脈打つダーククリスタルに、吸い込まれるように激突した!
バキィィィィィィィィィィィィン!!!!!!
今までで一番デカい破壊音が、洞窟中に響き渡る!
ダーククリスタルは、蜘蛛の巣状にヒビが入り、次の瞬間、粉々に砕け散った!
紫色の光が、弾けるように消滅する!
「グ…オ……」
あたしの後ろで、ゴルドーさんを抑えつけていた岩石ゴーレムも、まるで糸が切れた人形のように、動きを止め、ガラガラと崩れ落ちていった。
「…………」
広間に、静寂が戻る。
さっきまでの淀んだ魔力の気配は、嘘のように霧散し、洞窟にはただ、ひんやりとした空気が流れているだけだ。
「…はぁ、はぁ…終わった…のか?」
ゴルドーさんが、肩で息をしながら呟いた。
結構、ボロボロだ。
大丈夫かな?
「ふぅー、やっと終わったー! マジ、疲れたんですけど!」
あたしは、ケロッとした顔で(まあ、ちょっとは疲れたけど)、腕を組む。
クリスタル、思ったより硬かったな。
最後の踵落とし、結構マジで力込めたし。
「お前さんは、本当に…化け物だな…」
ゴルドーさんが、呆れたように笑って、その場にへたり込んだ。
「ま、これで解決っしょ? 街も平和になるんじゃね?」
あたしは、砕け散ったダーククリスタルの欠片を蹴飛ばしながら言った。
欠片は、もう光っておらず、ただの黒い石ころみたいだ。
…あれ? なんか、奥にまだ道、続いてない?
気のせいかな。
「ああ…。これで、魔物の異常発生も収まるはずだ。…帰るか、嬢ちゃん。ギルドに報告しねえと」
「だねー。早く帰って、風呂入りたい! なんか、色々浴びたし!」
あたしたちは、互いを労い(主にゴルドーさんが疲弊してるだけだけど)、薄暗い洞窟を後にすることにした。
帰り道は、魔物の気配もすっかり消えていて、楽勝だった。
こうして、あたしとゴルドーさんの、ドキドキ(主にゴルドーさんが)洞窟探検&原因究明ミッションは、無事(?)に幕を閉じたのだった。
まあ、あたしにかかれば、こんなもんっしょ!