洞窟から地上に戻ってきた時の、太陽の眩しさ!
マジ、生き返る心地だったわー。
あのジメジメ洞窟、二度と行きたくないんですけど。
「はー、マジ疲れたー。早く風呂入りたいんだけど」
あたし、ゆきぽよは、泥やらスライムの粘液やら(考えたくない)で薄汚れた服をパタパタさせながら、隣を歩くゴルドーさんを見る。
ゴルドーさんは、あたし以上にボロボロ。
鎧は傷だらけだし、顔にも煤がついてるし、歩き方もなんかフラフラしてる。
「…ったく。お前さんは、なんでそんなにピンピンしてやがるんだ…」
ゴルドーさんが、恨めしそうな目でこっちを見る。
「えー? ウチも結構疲れてるんですけど? てか、ゴルドーさん、マジで大丈夫?」
「ああ、なんとかな…。だが、当分、洞窟はこりごりだぜ…」
あたしたちが、そんな会話をしながら街に戻り、冒険者ギルドの扉を開けると、中にいた人たちが一斉にこっちを見た。
そして、次の瞬間、ワッ! と歓声が上がった。
「おおっ! 帰ってきたぞ!」
「ゆきぽよさんとゴルドーさんだ!」
「ご無事でしたか!」
エリアナさんが、カウンターから飛び出してきて、あたしたちの元へ駆け寄ってきた。
その目には、うっすら涙が浮かんでる。
「ゆきぽよさん! ゴルドーさん! 本当によくご無事で…! 心配しました!」
「おう、エリアナさん。まあ、なんとかな」
ゴルドーさんが、疲れた顔で笑う。
「まさか、本当に原因を突き止めて、解決してきたというのですか…?」
エリアナさんが、信じられないといった様子で聞く。
「まあね! なんか、黒いキモいクリスタルがボスだったから、ウチがぶっ壊してきた!」
あたしがドヤ顔で言うと、ギルド内が「おおーっ!」と、どよめいた。
「詳しい話を伺いましょう。マスターがお待ちです」
エリアナさんに案内されて、あたしたちはギルドの奥にある、一番豪華な部屋に通された。
そこには、ギルドマスターのおじさん(前に緊急依頼を貼りだしてた人だ)が、ドーンと座っていた。
なんか、威厳ある感じ。
「よくぞ戻った、ゴルドー、そして…ゆきぽよ君」
ギルドマスターが、あたしたちを見て頷く。
あたしたちは、洞窟での出来事を報告した。
主にゴルドーさんが、ダーククリスタルのこと、異形の魔物のこと、そしてクリスタルを破壊した経緯を説明してくれた。
あたしは時々、「そうそう! めっちゃキモかった!」「タコみたいなヤツ、ヌルヌルでマジうざかったし!」「クリスタル、ウチが踵落としで粉々にした!」みたいに、感想を交えつつ補足した。
報告を聞き終わったギルドマスターは、しばらく黙って腕を組んでいたけど、やがて、深い溜息をついた。
「…信じられんな。まさか、あの『魔物の巣穴』の元凶がダーククリスタルであり、それを破壊して戻ってくるとは…」
ギルドマスターは、あたしとゴルドーさんを交互に見た。
「ゴルドー、貴殿の長年の経験と勇気にも感謝する。そして、ゆきぽよ君」
ギルドマスターの視線が、あたしに注がれる。
なんか、めっちゃ真剣な目で見られてるんですけど。
「君の力は、規格外だ。Bランクという枠には、到底収まりきらん。今回の功績は、街をスタンピードの危機から救ったと言っても過言ではない」
「え、そんなにヤバかったの?」
「ああ。君たちがあのクリスタルを破壊してくれたおかげで、周辺の魔物の活性化は急速に収束に向かっている。街の危機は去ったと言っていいだろう」
マジか!
あたし、そんなすごいことしちゃったんだ。
まあ、なんかヤバそうなのはぶっ壊すに限るって思っただけだけど。
「よって、今回の依頼報酬、金貨5枚に加え、特別ボーナスとして、さらに金貨5枚を支給する!」
ドン! と、金貨が10枚、テーブルの上に置かれた!
「き、金貨10枚!? やったー!! マジで!? ウッソー!?」
あたしは、人生で見たこともない大金(異世界基準)に、テンションMAX!
目がチカチカする!
これで、当分、ウマいもん食い放題だし、可愛い服とか買えるかも!
「あ、ありがとうございます!」
あたしは、慌てて金貨をポーチにしまい込んだ。
落としたらマジで泣く。
「さらに、ゆきぽよ君。君をBランクに留めておくのは、ギルドとしても損失だ。早急にAランクへの昇格を推薦させてもらう。異論はあるかな?」
「え、Aランク!? やった! なるなる!」
あたしは、二つ返事でOKした。
ランクが上がれば、もっと稼げるもんね!
「うむ。では、近日中に正式な手続きを行おう。今日はゆっくり休むといい。二人とも、本当によくやってくれた」
ギルドマスターは、満足そうに頷いた。
あたしたちは、ギルドマスターの部屋を後にした。
ギルドのホールに出ると、冒険者たちから拍手と歓声で迎えられた。
「よくやった!」
「街を救ってくれてありがとう!」
「あんた、すげえな!」
なんか、めっちゃ英雄扱いされてるんですけど!
ちょっと照れるじゃん。
まあ、ウチだし当然っしょ! って顔しといたけど。
ゴルドーさんも、周りの仲間たちから肩を叩かれて、労われていた。
まんざらでもなさそうだ。
ギルドを出ると、街の雰囲気が、朝とは全然違うことに気づいた。
ザワザワした感じがなくなって、活気が戻ってる。
すれ違う人たちの顔にも、笑顔が見える。
「おお、マジで平和になったんじゃね?」
あたしがキョロキョロしていると、果物屋のおばちゃんが、あたしに気づいて駆け寄ってきた。
「あんた! ゆきぽよちゃんだろ! ギルドから聞いたよ、あんたが魔物をやっつけてくれたんだってね! ありがとうよ!」
そう言って、真っ赤なリンゴみたいな果物を、あたしの手に握らせてくれた。
「え、あ、ども…」
なんか、こーゆーの、慣れないな。
でも、悪い気はしないかも。
あたしは、ゴルドーさんと別れて、宿屋「陽だまり亭」に戻った。
「あらあら、ゆきぽよちゃん! おかえり! 無事でよかったよぉ!」
宿屋のおばちゃんも、あたしの無事をすごく喜んでくれた。
そして、「お疲れだろうから」って、すぐにお風呂を用意してくれた。
異世界のお風呂は、なんかデカい木の桶みたいなやつだったけど、お湯はちゃんと温かくて、いい匂いのするハーブ? みたいなのが浮いてた。
「はぁ~、生き返る~…」
お湯に浸かると、どっと疲れが出てくる感じ。
洞窟での泥とか、魔物の体液とか(思い出したくない)、全部洗い流して、マジでスッキリ!
お風呂から上がって、部屋に戻る。
ふかふかのベッドにごろーんと寝転がる。
最高。
(Aランクかー…)
ベッドの上で天井を眺めながら、さっきのギルドマスターの言葉を思い出す。
Aランクになったら、もっとヤバい依頼とか受けられるのかな?
ドラゴン討伐とか、マジであるかも?
今回の洞窟のボス、正直、レイジボアよりは手強かった。
ちょっとだけ、「ヤバいかも?」って思った瞬間もあったし。
『身体強化 極』の力、まだ全然、底が見えないけど、もっと強い敵と戦ってみたい気もする。
…なんてね。
まあ、基本は楽して稼ぎたいんだけど。
(とりあえず、明日は何しよっかなー)
難しいことは考えずに、あたしは心地よい疲労感に包まれて、またすぐに眠りに落ちていった。
翌朝。
すっかり元気になったあたしは、いつも通り、ギルドへと向かう。
街の人たちの視線が、昨日までとちょっと違う気がするけど、まあ、気にしない。
「さて、今日はどんな依頼があるかなー?」
英雄扱いされても、あたしはあたし。
能天気ギャル、ゆきぽよの異世界ライフは、まだまだ続くのだ!