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第12話 王都とかマジぱねぇ! 服とトラブルと…王子様!?

「Aランク昇格、おめでとうございます、ゆきぽよさん! 近日中に正式な任命式が行われますので、それまで待機をお願いしますね」


ギルドのカウンターで、エリアナさんがニコニコしながら言った。

あたし、ゆきぽよは、ダーククリスタル破壊の功績が認められて、BランクからAランクへの飛び級昇格が決まったのだ! イエーイ!


まあ、待機って言われても、別に暇なわけじゃない。

最近じゃ、あたしの噂を聞きつけた冒険者から、合同依頼(パーティーのお誘い的な?)の話も来るようになったし、指名依頼みたいなのもチラホラ。

でもさー、なんか、イマイチ、ピンとくる依頼がないんだよね。

オーク討伐とか、ワイバーン狩りとか、前よりは手強そうだけど、結局あたしがワンパンしたら終わりじゃん? みたいな。

もっとこう、ドキドキワクワクするようなこと、ないわけ?


そんなことを考えながら、ギルドの談話スペースでダラダラしてると、隣のテーブルに座ってた女の冒険者さんたちの会話が耳に入ってきた。


「ねえ、聞いた? 王都の『リリアーナ』ってお店に、新作のドレスが入荷したんだって!」

「えー! マジで!? あの、貴族の御用達の!」

「そうなのよー! 平民には手が出ないけど、見るだけでも眼福よねぇ…」

「王都はいいわよねぇ。可愛い服とか、キラキラしたアクセサリーとか、いっぱいあって…」


…なんですと!?


「可愛い服!?」


あたしは、ガタッ! と椅子から立ち上がって、会話に割って入った。


「え? あ、はい…?」


女の冒険者さんたちは、突然のあたしにビックリしてる。


「王都に行けば、可愛い服、いっぱい売ってんの!? マジで!?」


「え、ええ、まあ…。特に中央区画には、最新の流行を取り入れたお店がたくさんありますけど…」


「リリアーナって店はどこ!? 教えて!」


あたしの剣幕に押されて、女の冒険者さんたちは、王都の服屋事情について詳しく教えてくれた。

王都には、あたしがいた世界の渋谷とか原宿みたいな、オシャレなエリアがあって、そこには貴族向けだけじゃなく、若者向けの可愛い服屋さんもいっぱいあるらしい!


「行くしかなくね、これ!!」


あたしの心は、一瞬で決まった。

Aランク昇格とか、正直どうでもいい! 今は服! 可愛い服が欲しい!


「エリアナさーん! ゴルドーさーん! ウチ、王都行ってくるわ!」


あたしは、カウンターにいたエリアナさんと、ちょうどギルドに来ていたゴルドーさんに宣言した。


「ええっ!? 王都ですか!? なぜまた急に…」


「可愛い服を買いに行くの! なんか、めっちゃイイ感じの店があるんだって!」


「服…ですか…。まあ、王都は確かに華やかですが、人も多いですし、貴族の方々もたくさんいらっしゃいます。ゆきぽよさん、くれぐれもトラブルには…」


エリアナさんが、心配そうな顔をする。

あたしがトラブルメーカーだって、バレてる?


「嬢ちゃん、王都はいいが、貴族には絶対逆らうんじゃねえぞ。あいつらは、平民なんぞ虫けらくらいにしか思ってねえからな。下手に楯突くと、面倒なことになる」


ゴルドーさんも、釘を刺してくる。


「はいはい、わかってるってー」


あたしは、適当に返事をして、ギルドを飛び出した。

だって、頭の中はもう、王都の可愛い服でいっぱいなんだもん!


王都までは、乗り合い馬車で数日かかるらしいけど、そんなの待ってらんない。

あたしは『身体強化 極』の脚力をフルに使って、街道を爆走!

途中、休憩もほとんど取らずに走り続けたら、なんと、たった半日で王都の巨大な城門の前に着いちゃった!

我ながら、マジぱねぇ!


「うっわー! スッゲー!! マジ都会じゃん!」


目の前に広がる光景に、あたしは思わず歓声を上げた。

今までいた街とは、全然規模が違う!

高い城壁がどこまでも続いてて、その向こうには、お城みたいな建物や、石造りの豪華な建物がいっぱい見えてる!

行き交う人の数もハンパないし、装飾がキラキラした馬車もバンバン走ってる!


「テンション上がるー!」


あたしは、城門をくぐり、王都の中へと足を踏み入れた。

広い石畳の道、道の両脇には色んなお店がずらーっと並んでる。

活気があって、歩いてるだけでも楽しい!

…けど、なんか、ボロい服着た人が物乞いしてたり、衛兵が偉そうに平民を怒鳴りつけてたり、そういう場面もチラホラ目に入る。

華やかだけど、格差もデカいって感じ?


まあ、細かいことは気にしない!

あたしの目的は、可愛い服!

早速、オシャレな店が集まってるっていう中央区画を目指す。


「あ、このワンピ、かわいー!」

「こっちのアクセもヤバい!」


ウィンドウショッピングだけでも、マジで楽しい!

目移りしちゃって、なかなかお店に入れない。

キョロキョロしながら歩いていると、人混みの中で、誰かがわざとぶつかってきた。


「あっ!」


その瞬間、腰のポーチに違和感!

見ると、汚い手の男が、あたしのポーチに手を突っ込もうとしてる! スリだ!


「てんめぇ! 何してんだコラァ!」


あたしは、持ち前の反射神経で、男の手首をガシッ! と掴んだ!


「ぎゃっ!?」


男が、悲鳴を上げる。


「人のモン盗ろうとか、マジでありえねーし! 死にてーの!?」


あたしは、掴んだ腕を捻り上げて、男を地面に叩きつける!


「ご、ごめんなさい! 許して!」


男は、涙目で命乞いしてる。

しょーもないヤツ。


「るっせー! 金輪際、やんじゃねーぞ!」


軽くお仕置きして(骨は折ってない、たぶん)、解放してやる。

男は、這う這うの体で逃げていった。


「ふんっ、雑魚が」


周りの人たちが、めっちゃこっち見てるけど、気にしない。

気を取り直して、買い物再開!


そして、ついに見つけた!

見るからに高級そうな、オシャレビル!

『リリアーナ』って看板が出てる! ここだ!


ドキドキしながら中に入ると、そこはもう、別世界!

キラキラのシャンデリア! ふかふかの絨毯!

そして、めちゃくちゃ可愛いドレスや、宝石が並んでる!

ヤバい! 全部欲しい!


「きゃー! このドレス、ちょータイプ!」


あたしが、レースがいっぱいついたピンク色のドレスに駆け寄ろうとした、その時。


「あらあら、どこから迷い込んだのかしら? 場違いなネズミが一匹」


後ろから、なんか嫌味ったらしい声が聞こえた。

振り返ると、そこに立っていたのは、見るからに高慢ちきな、フリフリのドレスを着た金髪縦ロールのお嬢様と、その取り巻きみたいなのが数人。

いかにも、テンプレな悪役令嬢って感じ。


「はぁ? なんか言った、この縦ロール」


あたしがメンチを切ると、縦ロールは扇子で口元を隠して、クスクス笑った。


「まあ、下品な口の利き方。平民はこれだから困るわ。ねえ、あなた。その汚らしい恰好で、この『リリアーナ』に何の用かしら? 冷やかしなら、お帰りになって」


「はぁ!? ウチだって客だし! 服、見に来たんですけど!」


「まあ! あなたのような方が、ここの服を買えるとでも? 身の程を知りなさいな」


カッチーーン!

あたしの堪忍袋の緒が、音を立てて切れた。


「うっさいんだけど! あんたこそ、何様!? 顔と性格、どっちもブスすぎ!」


「なっ…! き、汚い言葉! 無礼者! この私を誰だと思っているの!」


縦ロールが、顔を真っ赤にしてキーキー叫ぶ。


「誰でもいーし! ウザいから消えてくんない?」


「こ、この…! お父様に言いつけてやるわ! 衛兵! この無礼者を叩き出しなさい!」


縦ロールが叫ぶと、後ろに控えていたゴツい護衛の男たちが、あたしを取り囲もうとしてきた。


「はいはい、暴力ね。予想通りだわ」


あたしは、ため息をついて、向かってくる護衛たちに向かって、軽く足払いと掌底を繰り出した。


ドカッ! バキッ! ゴンッ!


「「「ぐふっ!?」」」


護衛たちは、あっという間に全員、床に伸びて気絶した。

もちろん、手加減はしたけど。


「ひぃぃぃっ!?」


縦ロールとその取り巻きは、目の前の光景が信じられないって顔で、腰を抜かしてへたり込んだ。

店員さんたちも、口をあんぐり開けて固まってる。


「だから、ウザいって言ってんでしょ。二度と、ウチの前に現れんなよ、ブス」


あたしは、縦ロールに向かって、びしっとメンチを切ってやった。

物理的な攻撃はしないけど、精神的なダメージは与えとかないとね。


縦ロールは、わなわな震えながら、涙目で何か叫んでいたけど、結局、取り巻きと一緒に這うようにして店から逃げていった。


「ふんっ、雑魚め」


あたしが、スッキリした気分でドレスに向き直ろうとした、その時。


「…ふふっ、面白い方ですね」


すぐ近くから、穏やかで、でもどこか芯のある声が聞こえた。

え? と思って声の方を見ると、そこには、シンプルな服装だけど、明らかに育ちが良さそうな、綺麗な顔立ちの青年が立っていた。

年の頃は、あたしと同じくらいか、少し上くらい?

なんか、キラキラしたオーラが出てるんですけど!


「あなた、なかなか見事な『お掃除』でした」


青年は、楽しそうに微笑みながら言った。


「は? あんた誰? 今の見てたわけ?」


あたしは、キョトンとして聞き返す。

てか、この人、イケメンじゃん! タイプかも!


青年は、微笑みを深めて、あたしに一歩近づいた。

その瞬間、あたしの異世界ライフに、また新たな、そして、とんでもなく面倒くさそうな(でも、ちょっと面白そうな)展開が訪れる予感がした。

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