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第13話 イケメン王子(仮)とドレスとか、少女漫画かよ!

「面白い方ですね」


高級ブティック『リリアーナ』で、あたしがウザい縦ロール貴族を撃退した直後。

なんかキラキラしたオーラを放つ、綺麗な顔立ちの青年に声をかけられた。


「は? あんた誰? 今の見てたわけ?」


あたしは、ちょっと警戒しながら聞き返す。

いきなり馴れ馴れしいんだけど。

まあ、イケメンだから、ちょっとだけ許すけど。


青年は、優雅な笑みを浮かべたまま、軽くお辞儀をした。

なんか、動きがやけに上品なんですけど。


「これは失礼。私は…そうですね、今はただの通りすがりの者、とだけ名乗っておきましょうか」


「はぁ? 怪しすぎでしょ」


絶対、嘘じゃん。

だって、この青年が現れてから、さっきまでポカーンとしてた店員さんたちが、急に背筋をピンと伸ばして、めっちゃ恐縮してるんだもん。

明らかに、タダ者じゃないオーラが出てる。


「ふふ、警戒心が強いのですね。それもまた、あなたの魅力の一つかもしれませんが」


青年は、あたしの疑いの視線を楽しんでいるみたいだ。


「先ほどの立ち振る舞い、実に鮮やかでした。特に、あの高慢な令嬢を言い負かした場面は、見ていて実に痛快でしたよ。あなたのような方は、王都広しといえど、初めてお見かけしました」


「まあね。ウチ、そこらの子とは違うんで」


褒められて(?)、ちょっとドヤ顔になるあたし。


「それで、お名前は?」


「あたし? ゆきぽよだけど。なんか文句あんの?」


「ゆきぽよ…さん、ですか。可愛らしい響きですね」


青年は、クスクスと笑う。

なんか、ちょっとバカにされてる気もするけど…。

まあ、イケメンだから許すか。(二回目)


「ところで、ゆきぽよさん」


青年は、あたしがさっき目を輝かせて見ていたピンクのドレスに視線を移した。


「先ほどの騒ぎで、大切なお買い物の時間を邪魔してしまったかもしれませんね。お詫びと言っては何ですが、よろしければ、そのドレス、私がプレゼントしましょう」


「…………は?」


え、今、なんて?

プレゼント? この、ちょー可愛いドレスを?


「いやいや、なんであんたに買ってもらわなきゃなんないわけ? ウチ、自分で買うし!」


一応、見栄を張ってみる。

でも、内心、めっちゃ揺れてる。

だって、このドレス、絶対高いじゃん!


「おや、遠慮なさらないでください。私にとっては、ほんの些細なことです。それに、美しいドレスは、あなたのような素敵な方にこそ相応しい」


青年が、キラースマイル(死語?)であたしを見る。

うっ…! 顔がいいって、マジでズルい!


「え、マジで!? くれるの!? やったー! あんた、ちょーイイ奴じゃん!」


あたしは、秒で態度を変えて、青年に飛びつかんばかりの勢いで喜んだ。

タダより高いものはない、とか言うけど、可愛い服なら話は別っしょ!


「ふふ、素直な方だ」


青年は、あたしの現金さ(?)を見て、さらに面白そうに笑っている。


「さあ、ゆきぽよさん。遠慮はいりません。この店のものなら、どれでもお好きなだけどうぞ。私がすべてお支払いしますから」


「えええ!? どれでも!? マジで!?」


太っ腹すぎ!

この人、石油王か何か?


「店長、彼女が選んだものは、すべて私の勘定で頼む」


青年が、後ろで控えていた店長さん(めっちゃ緊張してる)に言うと、店長さんは深々と頭を下げた。


「か、かしこまりました!」


「っしゃー! 買うぞー!」


あたしは、目を輝かせながら、店内を駆け巡った。

さっきのピンクのドレスはもちろん、水色のフリフリのやつも、黒のシックなやつも、ぜーんぶキープ!

ついでに、キラキラのネックレスと、可愛い靴も!


「ねーねー、試着していい?」


あたしが聞くと、店員さんが飛んできて、VIP用の豪華な試着室に案内してくれた。

どんだけVIP待遇なんだよ、あのイケメン。


まず、一番気になってたピンクのドレスに着替えてみる。

うわー! マジで可愛い!

レースとかリボンとか、テンション上がる!

あたしの金髪にも、意外と似合ってるかも?


「ど、どーよ?」


ちょっと照れながら、試着室から出て、青年の前に立つ。


青年は、一瞬、目を見開いて、それから、うっとりとした表情で言った。


「…素晴らしい。実によくお似合いですよ、ゆきぽよさん。まるで、春の妖精のようだ」


「えへへ、そーお? まあ、ウチ、可愛いしね!」


褒められて、満更でもないあたし。

他のドレスも全部試着して、全部似合うって褒められて、結局、選んだドレス全部とアクセサリー、靴を、全部買ってもらうことになった!

マジで神!


お会計の時、青年は懐から、なんか黒いカードみたいなのを取り出した。

そのカードには、見たことない複雑な紋章が刻まれてる。

店長さんは、そのカードを見て、さらに恐縮しきった様子で、震える手で受け取っていた。


(やっぱ、この人、フツーじゃないわ…。王族とか、そういうレベル?)


あたしは思ったけど、まあ、深くは聞かないことにした。

だって、面倒くさそうだし。

それより、可愛い服ゲットできたことの方が重要だし!


「本当にありがとね! あんた、マジで神!」


大量の買い物袋を抱えて(半分は、青年の従者?みたいな人が持ってくれたけど)、あたしはホクホク顔で青年に礼を言った。


「どういたしまして。私も、楽しいひとときを過ごさせていただきました」


青年は、優雅に微笑む。


「では、私はこれで。…また近いうちに、お会いできるかもしれませんね、ゆきぽよさん」


そう言って、青年は意味深な言葉を残し、従者を連れて去っていった。

最後まで、名前、教えてくれなかったな。


「ま、いっか! それより、この服たち!」


あたしは、抱えた買い物袋を見て、ニヤニヤが止まらない。

王都、最高じゃん! 来てよかったー!


あたしが、ホクホク顔で『リリアーナ』を出ると、なんか、周りの人たちの視線が、さっきよりさらに増えてる気がした。

ヒソヒソ声も聞こえる。


「おい、あの子だぜ、さっき貴族様を追い返したっていう…」

「しかも、その後、めちゃくちゃ高貴な方と一緒に買い物してたぞ…」

「一体、何者なんだ…?」


うわ、もう噂になってんの? 早すぎ。

まあ、いいや。

あたしは、そんな視線は気にせず、今日の戦利品を抱えて、宿屋『陽だまり亭』へと向かった。


(早く、おばちゃんにも見せたいなー!)


王都での波乱万丈な買い物デーは、こうして幕を閉じた。

でも、あの謎のイケメン青年との出会いが、これからどんな騒動を巻き起こすのか…。

正直、ちょっとだけ、楽しみかも!

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