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第20話 罠とか余裕でしょ! 蛇野郎、今度こそボコる!

王都郊外の、寂れた倉庫街。

半開きの扉から中に入ると、そこには案の定、黒装束の集団と、その中心に立つ仮面の蛇野郎(ファング)が待ち構えていた。

完璧なまでの、罠。


「ククク…お待ちしておりましたよ、ゆきぽよ嬢。懲りずにまた罠にかかるとは。学習能力のない方だ」


蛇野郎が、前回と同じセリフで嫌味を言ってくる。

ワンパターンなんだよ、こいつ。


「うるせー! あんたこそ、懲りずにまた出てきたな! しつけーんだよ、蛇野郎! てか、仲間、めっちゃ増えてんじゃん。ウケる」


あたしが、周りにズラリと並んだ黒装束(ざっと見て20人くらい?)を指さして言うと、蛇野郎は肩をすくめた。


「前回の失態は繰り返しません。今度こそ、貴様をここで確実に始末させていただきます」


蛇野郎の仮面の奥の目が、ギラリと光る。

前回より、なんか殺気マシマシな感じ。


「やれ」


蛇野郎の短い命令。

それを合図に、20人の黒装束たちが、一斉にあたしに向かって襲いかかってきた!

四方八方から、短剣、クナイ、鎖、毒の吹き矢(!?)みたいなのが飛んでくる!

しかも、前回より動きが連携されてる!

フォーメーション組んでんじゃん!


「うっわ、マジで殺る気じゃん!」


けど!

今のあたしは、前回とは違うのだ!

レベルも上がったし、新しいスキルもゲットしたし!


「気配察知!」


スキル名を口に出すのはちょっと恥ずかしいけど、意識を集中!

すると、死角から迫るクナイの軌道や、床下に仕掛けられた罠(落とし穴的な?)の気配が、手に取るように分かる!


「はい、見えてるー!」


迫りくる攻撃の嵐を、最小限の動きでひらりひらりとかわしていく!

『危機回避』スキルも、地味にいい仕事してるっぽい!

避けきれない攻撃も、なぜか勝手に体が動いて、急所を外してくれる感じ!


「なっ!? 攻撃が当たらない!?」

「動きが前回より速いぞ!」


黒装束たちが、動揺してるのが分かる。


「お前らが遅いだけでしょ!」


回避しながら、反撃開始!

近くにいた黒装束の顔面にハイキック!

別のヤツの腕を掴んで、そのまま他のヤツらに投げつける!

倉庫にあったデカい木箱を蹴り飛ばして、まとめて数人を吹っ飛ばす!


「うざい!」

「邪魔!」

「どけや!」


まるでダンスでも踊るかのように、縦横無尽に倉庫内を駆け回り、黒装束たちを次々となぎ倒していく!

パンチ! キック! 投げ!

時々、プロレス技もどき!


「ぐはっ!」

「ぎゃっ!」

「あべしっ!」


断末魔の悲鳴が、倉庫内に響き渡る。

わずか数分で、あれだけいた黒装束たちは、床に転がる屍(気絶してるだけだけど)の山と化した。


「ふぅー、雑魚掃除、完了っと」


パンパンと手の埃を払いながら、一人だけ悠然と立っている蛇野郎に向き直った。


「……」


蛇野郎は、部下たちが全滅したのを見ても、表情一つ変えない(仮面で見えないけど)。

ただ、静かに拍手をした。


パチ…パチ…パチ…


「素晴らしい。噂に違わぬ、いや、噂以上の力だ。これほどの逸材が、なぜ我々『蛇の目』に牙を剥くのか…実に惜しい」


「は? 何言ってんの? キモ」


「ククク…まあ、いいでしょう。小手調べは終わりです。ここからは、私が直々に、あなたを闇へと葬り去って差し上げますよ」


蛇野郎は、懐から新たな武器を取り出した。

それは、湾曲した刃を持つ、奇妙な形状のダガー二刀流。

黒曜石のような、鈍い光を放っている。


「今度の武器は、そう簡単には折れませんよ?」


蛇野郎は、ダガーを構え、低い姿勢をとる。

その体から、さっきまでとは比較にならないほどの、濃密な殺気が放たれる!


「へぇ、やっとやる気になったわけね。望むところ!」


拳を握りしめ、迎え撃つ!


次の瞬間、蛇野郎の姿がブレた!

速い! 前回の剣の時よりも、さらに速い!

二本のダガーが、変幻自在な軌道を描きながら、あたしの全身を襲う!


キィン! ガッ! カン!


両腕や脚を使って、ダガーの攻撃を受け止め、弾き、捌いていく!

金属同士がぶつかるような、甲高い音が連続して響く!

あたしの皮膚、どんだけ硬くなってんだろ?


「その反応速度…! やはり、ただ者ではない!」


蛇野郎は、攻撃しながらも、冷静にあたしの動きを分析しているみたいだ。

こいつ、マジで厄介!


「お喋りしてる暇あんなら、もっと本気で来いよ!」


あたしは、防御一辺倒から、攻撃に転じる!

ダガーの隙間を縫って、強烈なパンチを叩き込む!


「くっ!」


蛇野郎は、それを紙一重でかわし、バックステップで距離を取る!

そして、ダガーから黒い波動のようなものを放ってきた!


「うおっ!?」


咄嗟に横に飛んで回避!

波動が当たった倉庫の壁が、ジュッ! と音を立てて溶けた!

…え、今の、魔法的なやつ!?

こいつ、剣士じゃなかったの!?


「驚きましたか? これが、我が主より賜りし『闇の力』の一部です」


「マジかよ! なんでもアリか!」


さらに警戒レベルを引き上げる!

物理攻撃だけじゃなく、魔法っぽいものまで使ってくるなんて、マジでチートじゃん!(人のこと言えないけど)


「気配察知!」


スキルをフル活用し、蛇野郎の次の動きを読む!

ダガーの攻撃、闇の波動、そして、時折混ぜてくるトリッキーな体術!

そのすべてを、予測し、回避し、反撃する!


「な、なぜ私の動きが読める!?」


蛇野郎が、初めて焦りの色を見せた!

よし、イケる!


一気に勝負を決めるために、最大のパワーを込めて、蛇野郎に向かって突進した!


「これで、終わりだぁぁぁ!!」


拳が、蛇野郎の仮面めがけて突き進む!


「甘い!」


蛇野郎は、最後の抵抗として、懐から何かを取り出し、あたしに向かって投げつけた!

また毒針か!?


「危機回避!」


スキルが自動で発動!

あたしの体は、最小限の動きでそれを避…けなかった!?


プスン!


何かが、あたしの肩に突き刺さる感覚!

毒針じゃない…? なんだこれ…?


一瞬、ほんの一瞬だけ、体の力が抜けるような感覚に襲われた!

まずい!


その隙を、蛇野郎は見逃さなかった!

ダガーを逆手に持ち、あたしの懐に飛び込んでくる!


「もらった!」


蛇野郎のダガーが、あたしの心臓めがけて突き出される!


…かに見えた。


「…残念だったな」


あたしは、ニヤリと笑って、蛇野郎の腕を、いとも簡単に掴み取った。


「なっ!?」


蛇野郎が、驚愕に目を見開く。


「ちょっと痺れるやつ? 効かねーし、そんなもん」


さっき刺されたのは、たぶん、一時的に神経を麻痺させる系の暗器だったんだろう。

でも、あたしの『身体強化 極』の前では、効果なんて一瞬だ。

むしろ、油断して懐に飛び込んできたアンタがマヌケっしょ。


「う、嘘だ…馬鹿な…!」


「はい、おしまい!」


掴んだ腕を捻り上げ、がら空きになった蛇野郎の仮面に、今度こそ、渾身の右ストレートを叩き込んだ!


ゴシャァッ!!!


鈍い音と共に、蛇野郎の仮面が粉々に砕け散る!

そして、その下の素顔が露わになった!


「……え?」


そこに現れたのは、あたしとそう変わらないくらいの、まだ若い少年の顔だった。

整ってはいるけど、どこか影のある、寂しそうな瞳…。


「ぐ…ぁ…」


少年…蛇野郎は、白目を剥いて、そのまま後ろに倒れ込み、気を失った。


「……マジかよ…」


ちょっとだけ、後味が悪い気分になった。

まあ、敵だし、仕方ないけどさ。


気を取り直して、気絶してる蛇野郎(少年)の懐を探る。

何か情報持ってないかなーって。

すると、羊皮紙に書かれた、指令書らしきものが出てきた。

内容は…『冒険者ゆきぽよを始末せよ。失敗は許されぬ。…次なる計画のためにも』みたいな感じ?

字が汚くて、よく読めない部分もあるけど。


「次なる計画…?」


なんか、まだヤバいこと企んでるっぽいな、こいつら。


「ふぅ、やっと片付いた! マジ疲れた!」


あたしは、倉庫の中に転がる黒装束たちと、気絶してる元・蛇野郎を見渡して、大きく息をついた。

今回の依頼(罠)、思ったより骨が折れたわー。


「さてと…腹減ったー! なんかガッツリ系の肉、食いたい!」


後始末とか、アルへの報告とか、色々あるけど、まずは腹ごしらえだ!

あたしは、上機嫌で(戦闘でストレス発散できたし)、倉庫を後にした。

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