王子の隠れ家で行われている、超本格的な作戦会議。
騎士団長っぽいゴツいおじさんとか、クールビューティーな諜報員のお姉さんとかが、難しい顔して地図とか睨んでる中、ゆきぽよはソファに座って呑気に尋ねた。
あたしの問いに、アルフォンス王子が真剣な表情で答える。
「『蛇の目』の狙いは、おそらく建国記念祭最終日の王宮広場での式典、あるいはその後の夜会でしょう。大規模な魔法によるテロか、あるいは父上…国王陛下や私、他の王族を狙った暗殺の可能性が高いと考えています」
「うわ、マジでヤバいやつじゃん…」
さすがに、ちょっと事の重大さを理解してきた。
「そこで、ゆきぽよさんには…」
アルは、地図上の一点を指さした。
王宮広場と、王宮そのものだ。
「式典当日、及び夜会において、現場に待機していただきたいのです。騎士団や衛兵も最大限の警備を敷きますが、相手は『蛇の目』。通常の警備を突破してくる可能性は十分にあります。もし、敵の主力…特に、ファングのような幹部クラスの戦闘員が現れた場合、これを迎撃し、無力化していただきたい」
「なるほどねー」
ゆきぽよはポンと手を打った。
「要するに、ヤバい奴が出てきたら、ウチがボコればいいってことね? シンプルでいーじゃん!」
「…まあ、大筋では、そうなりますね」
アルは、苦笑いを浮かべる。
周りの側近たちは、「この娘、本当に大丈夫なのか…?」みたいな顔してるけど、気にしなーい。
「でもさー、敵のボスとか、どこに出てくるか分かんないんでしょ? ずっと待ってんの、ダルいんだけど」
「そこは、我々諜報部隊が全力で敵の動きを探ります」
クールなお姉さん(諜報員らしい)が、キリッと言った。
なんか、仕事できそう。
「あとさー、夜会って、やっぱドレスとか着なきゃダメなわけ? めんどくさ」
「ええ、王宮の夜会ですから、正装は必須です。ですが、その点はご心配なく。こちらで特別なものを用意させます」
アルが、意味深に微笑む。
特別なドレス? ちょっと気になるかも。
作戦の概要が決まり、決行日である建国記念祭最終日まで、あと数日となった。
アルや側近たちは、計画の詳細を詰めたり、情報収集したり、めっちゃ忙しそう。
捕らえたファング(あの蛇野郎の少年)の尋問もしてるみたいだけど、なかなか口を割らないらしい。
根性あるじゃん、あいつ。
一方、あたしはというと…。
「はー、暇すぎ…」
特に、やることがない。
アルには「念のため」とか言って、王宮での貴族のいなし方講座みたいなのを開かれたけど、正直、右から左へ聞き流してた。
だって、ウザい奴は、身分とか関係なく、メンチ切るか、吹っ飛ばせばよくない?
仕方ないから、街に出て、祭りの雰囲気を楽しむことにした。
王都は、建国記念祭の真っ最中で、めっちゃ盛り上がってる!
色とりどりの飾りが街中にあって、屋台もいっぱい出てる!
「うわー! この串焼き、ウマ!」
「こっちのリンゴ飴もヤバい!」
アルに貰ったお小遣い(報酬の前借り的な?)で、屋台のB級グルメ(異世界版)を食べ歩き!
昨日買ってもらった可愛い服着て、街をぶらぶらするの、マジ最高!
このまま、ずっと祭りならいいのにー。
でも、そんな華やかな雰囲気の裏では、やっぱり不穏な動きもあるみたい。
時々、アルから通信が入って、「昨夜、武器庫に侵入しようとした者がいた」とか、「怪しい魔道具の取引情報があった」とか、物騒な報告が来る。
諜報員のお姉さんたちが、頑張って情報を追ってるらしい。
やっぱ、最終日の式典が本命っぽいな。
そして、いよいよ決戦前夜。
あたしは、再びアルの隠れ家に呼び出された。
最終確認ってやつだ。
「準備は万全です。明日は、必ずや『蛇の目』の計画を阻止し、王国を守り抜きましょう」
アルが、力強く宣言する。
側近たちも、緊張した面持ちで頷いている。
「ゆきぽよさん。あなたの力なくして、この作戦は成り立ちません。明日は…どうか、よろしくお願いします」
アルが、あたしの手を両手で握って、真剣な目で見つめてくる。
うっ…! 顔がいい!
「ま、任せとけって! ウチがいれば、百人力…いや、一億人力だし!」
あたしは、胸をドンと叩いて、自信満々に答えた。
(本当は、ちょっとだけドキドキしてるけど、ナイショ)
「そうだ、ゆきぽよさん。夜会用のドレスですが、こちらを」
アルが、従者に合図すると、大きな箱が運ばれてきた。
中に入っていたのは…。
「うわっ! なにこれ、カッケ―!」
漆黒の、マーメイドラインのドレス!
見た目は超エレガントなんだけど、よく見ると、生地に銀色の糸で複雑な模様が織り込まれてて、なんか、ただのドレスじゃないオーラが出てる!
「これは、王家に伝わる特殊な魔法繊維で織られたドレスです。見た目以上に動きやすく、並大抵の攻撃なら防ぐ防御効果も付与されています。あなたのために、仕立て直させました」
「マジで!? 防具付きドレス!? 最強じゃん!」
テンション上がるー!
これなら、夜会で暴れても大丈夫そう!(暴れる前提)
あたしは、その漆黒のドレスを受け取って、ご機嫌で隠れ家を後にした。
いよいよ、明日が決戦の日。
建国記念祭の最終日。
王都は、きっと、今日以上に盛り上がるんだろうな。
そんなお祭りの裏で、テロとか暗殺とか企んでる奴らがいるなんて、マジで許せない。
あたしがやることは、一つだけ。
ヤバい奴が出てきたら、全員、ぶっ飛ばす!
それだけっしょ!