「…やっと本命のお出ましか!」
王宮広場に響き渡る喧騒の中、ウチは、目の前に現れた漆黒のローブの男を睨みつけていた。
さっきまで暴れてた黒装束の雑魚どもとは、明らかにレベルが違う。
こいつから放たれるプレッシャーだけで、周りの空気全部が凍りついてるみたいだ。
「ふむ…ネズミが紛れ込んでいるとは思っていたが…まさか、これほどの『イレギュラー』だったとはな」
ローブの男は、静かに呟く。
フードの奥の顔は見えないけど、その声には、底知れない闇みたいなものが感じられる。
「貴様が、我らが『蛇の目』の計画を邪魔する蝿か」
その言葉と同時に、男の体から、ドス黒いオーラみたいなものが溢れ出した!
ズンッ! と重たい威圧感が広がり、近くにいた騎士や、まだ逃げ遅れていた民衆が、膝から崩れ落ちる!
「ぐっ…なんだ、この威圧は…!」
通信機から、アルの苦しそうな声が聞こえる。
壇上にいるアルや国王陛下も、このプレッシャーの影響を受けてるっぽい。
「これが…『蛇の目』の首魁…!」
騎士団長のおじさんが、歯を食いしばって叫ぶ。
首魁って、ボスのこと?
マジかよ、いきなりラスボス登場とか、展開早すぎ!
「けど、ウチには関係ないし!」
あた…ウチは、そんな威圧感なんて、ほぼノーダメージ!
『身体強化 極』のおかげか、単に神経が図太いだけか、どっちかは分かんないけど!
「先手必勝!」
ウチは、地面を蹴って、ローブの男に向かって一直線に突撃!
最高速! 渾身の右ストレートを、その胸元に叩き込む!
「遅い」
しかし!
ローブの男は、ウチの拳が当たる寸前に、まるで予知していたかのように、スッと体を横にずらして、完璧にかわした!
しかも、その動きには一切の無駄がない!
「なっ!?」
マジか! ウチのスピードについてくるヤツ、初めてなんですけど!
「ほう、速さと力は本物のようだが…それだけでは私には届かんよ」
ローブの男は、余裕綽々で呟くと、今度はその手をスッと前に突き出してきた。
手のひらから、禍々しい闇の力が渦を巻く!
「闇よ、穿て」
ドゴォォォン!!
漆黒の破壊光線みたいなものが、ウチに向かって放たれる!
その威力、ダーククリスタルのボスの比じゃない! ヤバい!
「うおっ!」
ウチは、咄嗟に横っ飛びで回避!
光線が着弾した地面が、えぐれて消し飛んだ!
危な! 食らったら、マジでヤバかったかも!
「やるじゃん、おっさん!」
(見た目はおっさんかどうか分かんないけど!)
「まだだ!」
ローブの男は、間髪入れずに次の攻撃を繰り出す!
地面から無数の黒い棘が突き出してきたり、重力が異常に重くなって動きを封じようとしてきたり、なんか空間が歪んで視界がおかしくなったり!
未知の魔法? 異能?
とにかく、攻撃が多彩で、しかも全部が超強力!
「ちょっ…! マジで強すぎ!」
ウチは、『身体強化 極』と『気配察知』『危機回避』スキルをフル稼働させて、必死に応戦する!
パンチで黒い棘を粉砕し、跳躍して重力場から逃れ、勘で空間の歪みを見切って攻撃をかわす!
でも、相手の攻撃は止まらない!
ズバッ!
「いっ…!」
ローブの男が放った、見えない風の刃みたいなものが、ウチの腕を浅く切り裂いた!
ドレスの袖が破れて、血が滲む!
マジか! ウチがダメージ食らうとか、初めてなんですけど!
「ゆきぽよさん!」
アルや騎士団長たちが、援護しようと魔法を撃ったり、剣で斬りかかったりしてくれるけど…。
「無駄だ」
ローブの男は、そんな援護攻撃なんて、軽く手を振るうだけで、全部弾き飛ばしてしまう!
全然、相手になってない!
(くそっ! このままじゃジリ貧じゃん!)
ウチは、防戦一方になりながら、打開策を考える。
ただ力任せに突っ込むだけじゃ、こいつには勝てない。
もっと…もっと、うまく力を使わないと…!
相手の動きを、もっと深く読む!
攻撃の予備動作、魔力の流れ、呼吸のリズム…!
『気配察知』スキルを、さらに研ぎ澄ます!
そして、『身体強化 極』のパワーを、ただぶつけるんじゃなくて、もっと一点に集中させる!
衝撃波を、もっと鋭く! 速く!
ウチは、ローブの男が次の闇魔法を放とうとした、その一瞬の隙を突いた!
地面を強く踏み込み、圧縮した衝撃波を、相手の足元に叩き込む!
「なっ!?」
ローブの男の体勢が一瞬崩れる!
その隙を見逃さない!
ウチは、回避と同時に体を捻り、カウンターの回し蹴りを、ローブの男の脇腹に叩き込んだ!
ドゴォッ!
「ぐっ…!」
初めて、ローブの男から苦悶の声が漏れた!
効いた!
「ほう…戦いの中で、さらに成長するというのか…。面白い!」
ローブの男は、体勢を立て直しながら、フードの奥で、どこか楽しそうに笑った気がした。
そして、その体から、さらに強大な魔力が溢れ出す!
こいつ、まだ本気じゃなかったのかよ!
ウチも、さらに集中力を高める!
ここからが、本当の勝負だ!
両者が、再び激突しようとした、その時。
「…ふむ。どうやら、時間切れのようだな」
ローブの男が、不意に攻撃の手を止め、呟いた。
「は? 時間切れ?」
「予定外の邪魔が入ったが、まあいい。目的のいくつかは達成できた」
目的? こいつの目的って、テロや暗殺じゃなかったの?
一体、何を企んで…?
「今日のところは、これくらいにしておこう。次に会う時が、貴様の最後だ、イレギュラー」
ローブの男は、そう言い残すと、その体を黒い霧に変え、一瞬でその場から掻き消えた!
「あっ! 待て!」
ウチが叫んでも、もう遅い。
跡形もなく、消え去ってしまった。
「………」
後に残されたのは、破壊された広場と、呆然とする人々、そして…ローブの男が去り際に放った、禍々しい魔力の残滓。
見ると、広場の中央に、巨大な魔法陣が形成され、そこから、おびただしい数の魔物が召喚され始めていた!
「げっ! 置き土産までして行きやがった!」
ゴブリン、オーク、リザードマン…さらには、キメラみたいな合成魔獣まで!
さっきまでの戦闘とは、また別の悪夢が始まろうとしている!
「あの野郎…! 絶対、次はぶっ飛ばす!」
ウチは、召喚される魔物の群れを睨みつけながら、拳を固く握りしめた。