「あの野郎! 逃げる時に置き土産とか、マジでタチ悪いんだけど!」
目の前で、さっきまで何もなかったはずの王宮広場の地面から、次から次へと魔物が湧き出してくる。
ゴブリン、オーク、リザードマン…なんかデカいキメラみたいなやつまでいるし。
あの黒ローブの男、どんだけヤバい召喚魔法使ってんだよ。
広場は、またしてもパニック状態。
さっきの襲撃で、騎士団や衛兵の人たちも、結構消耗してるっぽい。
あちこちで悲鳴が上がり、戦闘の音が響き渡る。
「うわー! マジでキリないんですけど!」
ゆきぽよは、思わず叫んだ。
さっきの黒ローブとの戦いで、さすがのウチもちょっとは疲れてるのに。
休む暇もなしかよ!
「けど、ここでへこたれるウチじゃないし!」
気合を入れ直し、再び魔物の群れに向かって突撃!
「邪魔なんだよ、お前ら!」
『身体強化 極』のパワーを、今度は広範囲にぶちまける感じで!
近くにいたゴブリンの集団を、まとめて蹴り飛ばす!
突進してきたオークを、カウンターのパンチで地面にめり込ませる!
尻尾で攻撃してきたリザードマンの尻尾を掴んで、ハンマー投げみたいに他の魔物にぶつける!
「オラオラオラー!」
気分は、まるでアクション映画の主人公!
…って言っても、やってることは、ただの暴力だけど!
周りを見ると、アル(アルフォンス王子)や騎士団長のおじさん、諜報員のお姉さんたちも、必死に戦ってる。
アルは、剣で華麗に魔物を切り伏せながら、的確な指示を飛ばしてる。
王子様なのに、マジで有能。
「ゆきぽよ嬢! 大型魔獣は任せた! 我々は小型の掃討と民衆の避難誘導を!」
騎士団長のおじさんが叫ぶ!
「おっけー! あのデカいキメラ、ウチがやる!」
ちょうど、ライオンとヤギと蛇が合体したみたいな、キモいキメラがこっちに向かってきていた。
火球とか吐いてきて、マジうざい!
ウチは、キメラが吐き出す火球を避けながら、一気に懐へ!
そして、そのデカい胴体に、渾身のボディブロー!
ドゴォォン!!
キメラが「ギャオオオン!?」みたいな悲鳴を上げて、くの字に折れ曲がる!
よし、効いた!
そのまま、連続でパンチとキックを叩き込む!
ウチが大型の魔物を引きつけて、派手に暴れてる間に、騎士団や衛兵の人たちが、小型の魔物を着実に数を減らしていく。
諜報員のお姉さんたちは、負傷した人を安全な場所へ運んだり、パニックになってる人に冷静に指示を出したりしてる。
なんか、いい感じの連携プレーじゃん!
どれくらいの時間が経ったんだろ。
気づけば、あれだけ湧いて出てきた魔物の姿は、ほとんどなくなっていた。
広場には、魔物の死骸と、破壊された露店や装飾の残骸が散らばっていて、かなり悲惨な状態だけど…。
「…終わった…のか?」
誰かが、か細い声で呟いた。
広場を包んでいた喧騒が、嘘のように静かになっていく。
戦闘、終了。
広場の被害は、かなり大きい。
建物もボロボロだし、地面もあちこち陥没してる。
負傷者も、たくさん出てるみたいだ。
でも、ゆきぽよの無茶苦茶な活躍と、騎士団や衛兵、側近たちの奮闘のおかげで、死者は…奇跡的に、ほとんど出ていないらしい。
アルフォンス王子は、すぐに負傷者の手当ての指示を出したり、不安がる民衆に「もう大丈夫です!」って呼びかけたりしてる。
王子様、マジ働き者。
戦後処理は、駆けつけたギルドの人たちも協力して、迅速に進められていく。
ウチは、もうヘトヘトで、その辺の瓦礫に腰掛けて休んでいた。
すると、アルがこっちにやってきた。
その顔は、疲労困憊って感じだけど、どこか清々しい表情をしてる。
「ゆきぽよさん。…本当に、ありがとう」
アルは、深々と頭を下げた。
「あなたがいなければ、王都は…この国は、壊滅していたでしょう。なんと礼を言ったらいいか…」
「いやいや、別にいーって。ウチも、暴れたかっただけだし?」
照れ隠しで、つい、そんなことを言ってしまう。
「ゆきぽよ殿!」
騎士団長のおじさんも、屈強な騎士たちを引き連れてやってきた。
そして、全員が一斉に、ウチに向かって敬礼する!
「貴殿の勇気と力に、心から敬意を表する! 王都を救ってくれて、感謝する!」
「え、あ、ど、どうも…」
なんか、ガチな感謝と尊敬の眼差しを向けられると、めっちゃ照れるんですけど!
周りを見ると、避難していた民衆の人たちも、遠巻きにこっちを見て、手を振ったり、お辞儀したりしてる。
中には、「ありがとう、お嬢ちゃん!」って叫んでる人もいる。
…なんか、マジで、英雄扱いじゃん。
ウチ、ただ暴れてただけなのに。
でも…。
(ま、当然っしょ! このウチがやったんだし!)
心の中で、ちょっとだけ、ドヤ顔してみる。
その後、アルの隠れ家に戻って、改めて状況整理の会議が開かれた。
「『蛇の目』の首魁らしき男は取り逃がしましたが、彼らの計画は阻止できました。奴らの目的は、式典の妨害による混乱の誘発と、おそらくは我々の戦力…特に、ゆきぽよさんの力のデータ収集だったのかもしれません」
アルが、厳しい表情で分析する。
「しかし、脅威が完全に去ったわけではありません。『蛇の目』は、まだ必ずや次の手を打ってくるでしょう。我々は、この国から奴らを完全に排除するまで、戦い続けなければなりません」
アルは、強い決意を目に宿して、宣言した。
側近たちも、力強く頷く。
(はぁー、まだ続くのかー。めんどくさ)
正直、もう帰って寝たい気分だけど…。
あの黒ローブのムカつく顔を思い出すと、なんか、このまま終わらせるのもシャクだ。
それに、アルとか、騎士団のおじさんとか、宿屋のおばちゃんとか、なんか、守ってやりたいって思う人たちが、この世界にもできちゃったしなー。
「…しょーがないなー」
ウチは、大きなため息をついた。
「分かったよ。もう少しだけ、この面倒な戦いに付き合ってやるよ。ただし! 約束の金貨500枚と、バカンスと、スイーツ全奢りは、絶対だからね!」
「! ありがとうございます、ゆきぽよさん!」
アルが、またパッと顔を輝かせる。
現金なヤツめ。
戦いの傷跡が生々しく残る王宮広場。
傾き始めた夕陽が、瓦礫の山をオレンジ色に染めている。
でも、その光景は、終わりじゃなくて、始まりの合図みたいにも見えた。
これから、どうなるか分かんないけど。
とりあえず、ウチはウチのやり方で、この異世界で生きていくしかない。
Aランク冒険者として、王国の(非公式な)切り札として、そして、ただの能天気ギャルとして!
「…とりあえず、腹減った! 晩飯、何にしよっかなー!」
ウチは、お腹をグーグー鳴らしながら、今日の晩御飯のことと、約束のスイーツのことを考え始めるのだった。
戦いは続く! けど、腹が減っては戦はできぬ、ってね!