王都を出発して数日。
あたし…いや、ウチ、愛内ゆきぽよは、次の目的地「港町リベルタ」へと向かっていた。
移動手段は、もちろん『身体強化 極』を活かした、徒歩での爆走!
乗り合い馬車とか、遅くてダルいし。
あっという間に、街道を駆け抜けていく。
そして、ついに!
「うっわー! あれ、海じゃん! マジやばー!」
視界の先に、どこまでも広がる青いキラキラしたものが現れた!
潮の香りが風に乗って運ばれてくる!
本物の海! 異世界の海!
テンション、ブチ上がり!
海沿いの道をさらに進むと、活気のある大きな港町が見えてきた。
あれが、リベルタかー。
港町リベルタは、王都とは全然違う雰囲気だった。
石造りの建物もあるけど、木造の、ちょっとゴチャっとした感じの建物が多い。
カモメの鳴き声が響き渡り、色んな国から来たっぽい船が、港にいっぱい停泊してる。
行き交う人たちも、屈強な船乗り風のおっちゃんとか、肌の色が違う商人とか、なんかエキゾチックな格好した人とか、マジで多種多様。
「へー、ここがリベルタかー。なんか、ごちゃごちゃしてて面白そうじゃん!」
とりあえず、情報収集の基本はギルドっしょ!
ウチは、リベルタの冒険者ギルド支部へと向かった。
王都のギルドほどデカくはないけど、それでも結構な広さだ。
中は、酒と潮の匂いが混じった独特の空気で充満していて、カウンターの周りには、いかにも「海の男!」って感じの荒くれ者や、うさんくさい目つきの商人がたむろしてる。
受付カウンターにいたのは、気の強そうな、姉御肌って感じの女の人だった。
「ちわーっす! ウチ、ゆきぽよ! Aランク冒険者なんだけど、なんか面白い依頼ない?」
ギルドカードを見せると、受付のお姉さんは、ウチのギャルな見た目とAランクのカードを交互に見て、一瞬、目を丸くしたけど、すぐにニヤリと笑った。
「へぇ、あんたが噂のAランクね。こんな若い嬢ちゃんとはね。まあ、いいさ。依頼なら色々あるよ。ただし、この街の依頼は、ちっとばかし荒っぽいからね。覚悟しときな」
なんか、肝が据わってる感じで、ちょっとカッコいいかも。
ギルドの酒場で、それとなく「蛇の目」とか、怪しい組織について聞き込みをしてみる。
「ねーねー、おっちゃんたち! この街で、なんかヤバい奴らとか知らない?」
「黒い服着た、怪しい集団とか見なかった?」
でも、リベルタの冒険者たちは、王都の奴らより口が堅いみたい。
「お嬢ちゃんが首を突っ込むような話じゃねえよ。さっさと帰りな」
「蛇の目だぁ? 知らねえな。聞いたこともねえ」
みんな、そんな感じで、全然教えてくれない。
ちぇー。
それでも、何人かに粘り強く聞いて回ってると、ポツリポツリと情報が出てきた。
「最近、港の第3倉庫街あたりで、夜な夜な怪しい荷物の積み下ろしをしてる奴らがいるって話だ」
「ああ。たまに、真っ黒な、どこの船とも分からねえ不審船が出入りしてるらしいぜ」
「裏路地じゃ、黒ずくめの連中が幅を利かせてるって噂もあるな。逆らうと消されるとか…」
第3倉庫街、黒い船、裏路地ね…。
だいたい、悪党のアジトって、そーゆーとこにあるって相場が決まってんのよ。
情報収集もそこそこに、ちょっと街をぶらついてみることにした。
活気のある市場とか、露店とか見て回るの、結構楽しい!
とその時。
「きゃあ!」
「金だ! 金を出せ!」
狭い路地の方から、悲鳴と怒鳴り声が聞こえてきた!
ん? なんか事件?
覗いてみると、ガラの悪いチンピラ風の男たちが、若い女の子を取り囲んで、カツアゲしてる真っ最中だった。
うわー、テンプレな悪役。
「ちょ、ウザいんだけど! この街、治安悪くね?」
ウチは、ため息をつきながら、チンピラたちの前に割って入った。
「あんたら、何してんの? ダサすぎなんですけど」
「あぁ? なんだ、この派手なアマは! 関係ねえヤツはすっこんでろ!」
チンピラの一人が、ナイフをチラつかせて脅してくる。
しょーもな。
「はいはい、ゴミはゴミ箱へー」
ウチは、襲いかかってくるチンピラたちを、一人ずつ、軽く蹴散らしていく。
パンチ一発、キック一発で、面白いように吹っ飛んでいくチンピラたち。
数秒後には、全員地面に伸びて気絶していた。
楽勝。
「だ、大丈夫ですか…? あの、ありがとうございます!」
助けた女の子が、涙目で感謝してくる。
「いーえ、どーいたしましてー。気をつけなよー」
女の子に手を振って、その場を立ち去ろうとすると、後ろから声をかけられた。
「あんた、なかなかやるじゃないか」
振り返ると、そこには、薄汚れたコートを着た、胡散臭い笑顔の細身の男が立っていた。
年の頃は、30代くらい?
いかにも、情報屋って感じ。
「誰? あんた」
「俺か? 俺は、この街で細々と情報屋をやってるモンさ。さっきのケンカ、見させてもらったよ。あんた、ただの嬢ちゃんじゃなさそうだねぇ」
男は、探るような目でウチを見る。
「もしかして、あんた、『蛇の目』って組織を探してるんじゃないかい?」
「! なんでそれを…」
「ククク…このリベルタで、俺の知らない情報はないんでね。もし、蛇の目の情報が欲しいなら、取引しないかい? あんたの腕っ節と、俺の情報を交換するってのはどうだい?」
男は、ニヤリと笑う。
うさんくささMAXだけど、こいつ、何か知ってるっぽい。
「いいよ。取引成立。で、何を知ってんの?」
「話が早くて助かるよ。蛇の目は、このリベルタで、主に密輸と…聞くところによると、人身売買にも手を染めてるらしい。表向きは、大きな海運会社を隠れ蓑にしてるが、奴らの本当の拠点は、港の第7埠頭にある、今は使われていない古い大型倉庫だ。夜になると、そこが連中のアジトになる」
「第7埠頭の、古い倉庫ね…」
思ったより、具体的な情報が出てきた。
こいつ、マジで使えるかも。
「ただし、その倉庫の警備は、かなり厳重だぜ。並の冒険者じゃ、近づくことすらできやしない。ま、あんたなら、どうにかなるかもしれんがね」
男は、またニヤリと笑う。
なんか、試されてる感じ?
まあ、いいけど。
「情報、サンキュ。役に立ったわ」
「どういたしまして。もし、上手くやれたら、また何か面白い情報を持ってきなよ。いつでも歓迎するぜ」
男は、そう言って、人混みの中に消えていった。
結局、名前も聞けなかったな。
まあ、いっか。
これで、蛇の目のアジトの場所は特定できた。
あとは、夜になるのを待って、そこに忍び込むだけ!
「めんどくさいけど、さっさと終わらせて金貨ゲットしなきゃね!」
ウチは、決意を新たにして、まずは腹ごしらえのために、港で一番ウマいと評判の海鮮料理屋を探し始めた。
潜入前には、やっぱ美味しいもの食べとかないとね!
夜。
月明かりだけが、波止場をぼんやりと照らしている。
潮風が、ちょっと肌寒い。
ウチは、情報屋の男に教えてもらった、第7埠頭の古い大型倉庫群の前に来ていた。
周りには、人影一つない。
でも、倉庫のあちこちには、見張りの黒装束が立っているのが見える。
数は…ざっと見て、10人以上?
「さて、どっからお邪魔しよっかなー?」
ウチは、ニヤリと笑って、闇に紛れて動き出した。