目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

19 400/2003

 緑のほとり、桜並木を歩いている新婚の二人を川が反射していた。

 二人は手を繋ぎながら屋台で買ったトルネードポテトを分け合っている。春場は二人を祝福しているようだった。桜のハナびらが一片舞って、一叢作っていた。

「き、気を付けてね?」と友くんは後ろで云ってくれる。

 私は声を潜めて、二人に気がつかれないように何枚か撮影した。

「あ」

 という友くんの声は、私が足を滑らせたことで飛び出たものだった。

 私はずるずると体を擦って、桜のハナびらが浮かぶ川に落ちてしまった。

 その時、カメラも川に落とし壊してしまう。

 でもそんなことより、少し緑がかった水の中から見るハナびらは、西ヨウの社交界で色とりどりのドレスが回った時に広がった光景を、俯瞰で見ているような美しさだった。

 もう既に成人してから、春は二度目だった。



 *



 09時12分

「風邪ひいていない?」

「大丈夫。もう熱は下がった」

 鼻を啜っている兎のスタンプ。

「発熱していたの⁉ もっと早く言ってよ! 看病することだってできたのに」

「心配かけさせるわけにいかないかなって」

 ため息をついて困った顔をしている犬のスタンプ。

 「そんな顔しないで」と呟いている兎のスタンプ。

「カメラの事なんだけど、普段使うものと仕事用は分けていたんだよね?」

「うん。仕事用はもっと高いのを使っているからね」

「じゃあ仕事には影響ないのか。安心したよ」

「あと、水没したカメラだけど、SDカードは無事だったみたい。だからデータは消えていないって」

「本当⁉」

 「安心!」とガッツポーズをする兎のスタンプ。

「まあ、中に入っているデータと言ったら、殆どあの二人の写真だけどね」

「いいじゃない。あの二人が積極的に旅行に連れて行ってくれたんだから。僕も車の免許取れてればなぁ」

「まだ忙しいの?」

「うん。前に発表した研究が業界の著名人の目に留まったから、これからいっそう忙しくなるね。でも必要だから、合間をぬって免許位は取る予定」

「そうなの。大変だね」

「でもこの仕事に誇りを持っているんだ。僕は楽しんでいるよ」

 「力持ち!」と腕の筋肉をがっしりとさせる犬のスタンプ。

 爆笑している兎のスタンプ。

「それでさ、来月の水族館は予定通りで問題ないかな?」

「大丈夫だよ」

「うん。分かった。村雨さんにも連絡しているからね。でも、中村くんは休みが取れないかもって」

「それは残念だね。……あれ、村雨に連絡していないのに、どうして中村くんの予定が分かるの?」

「それはいつも会っているからね」

「日常的に?」

「日常的に」

「どうして?」

「まだコンピューターが慣れないらしいから僕が教えてる」

「まだ慣れていないの⁉」

「びっくりだよね。でも分からないなりに聞いてくるから、微々たる成長はあるよ」

「そうなんだ……二年間触ってまだ分からないなんて、生粋のアナログ人間なのかもね」

「きっとそうだよ」

 爆笑している兎のスタンプ。

「あ、水族館までには新しいカメラを買っておかないとね」

「元々の奴はもう難しい感じ?」

「うん。古い機種だったからね」

「そっか」

「でもいいの。お父さんも随分前に死んじゃっているし、お母さんも死んだお父さんに興味が無かったみたいだから」

「でも君にとってはそのカメラがスタートなんだろう?」

「うん」

「じゃあ僕も探してみるよ。どうにか修復できないか」

「忙しいんだよね? 大丈夫だよ」

「それくらいなら時間はあるよ。任せて」

 「力持ち!」と腕の筋肉をがっしりとさせる犬のスタンプ。

「分かった。無理はしないでね」

 「お疲れ様」と言っている兎のスタンプ。

 「おやすみなさい」と呟いている犬のスタンプ。

 「またね」と手を振っている犬のスタンプ。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?