彼の名前は「佐々木くん」と言う。年齢は十六歳。
暴徒に襲われて逃げ込んだこの場所で、信用できる人がいなくて塞ぎ込んでいた。
でも、私の二日間の説得で出てきてくれて、共にショッピングモールを拠点にすることになった。彼は極度の人見知りだが、一度打ち解けると相手の気持ちを汲んで行動を変えられる優しさを持っていた。
「大丈夫?」
佐々木くんは最初、一人でいた小学生くらいの女の子「南ちゃん」と仲良くなった。
二人は肉親を亡くしたからか、お互いに通じ合っている部分があり、打ち解けるのも早かった。とりあえず順番に声かけをしていった。
そして二階にあるフードコートを本拠地として、物資の整理や仮住居の設営を開始する。
「佐々木くん」
私が話しかける。
「はい」と彼は頷く。
「ダンボールで個室を作ろうと思うんだけど、手伝ってほしいんだ」
彼はこくりと頷く。
私と佐々木くんと南ちゃんで、ショッピングモールの裏手からダンボールを運び込み、ガムテープで囲いを作る。
「このあたりにしようと思うけど、どうかな?」
「いい、と思います。あっ」
「どうしたの?」
「でも、こっちの通路をなくして部屋の大きさを取ったほうが、安心するかも」
佐々木くんが言うと、彼の背中の陰に立っている南ちゃんも頷く。
「良いと思う。そうしよっか」
こんな具合で、ダンボールとテーブルで組んだ仕切りを一部屋とし、残ったテーブルなどでフードコートの入口にバリケードを作った。
「出来たなぁ」
と村雨くんが息を吐く。
「部屋が広いけど、このフードコートのデカさで考えたら、六十人分は作れるんじゃないか?」
「そうだね。とりあえずはこんな感じで良いと思う。もし足りなくなるようなことがあれば、別のエリアに同じものを作ればいい」
「そうだなぁ。その時になれば他にも人がいるだろうから、問題はないな」
村雨くんは「よし」と腰に両手を当ててから、屈んで佐々木くんの頭を豪快に撫でた。
「や、やめろ!」と佐々木くんは悪態をつくも、南ちゃんはその様子を見て嬉しそうに笑っていた。
佐々木くんは南ちゃんの面倒を見て、そして佐々木くんのことは村雨くんが気に掛ける。そんな構図ができていった。
たぶん、村雨くんにとって佐々木くんとの交流は、息子としたかった関係なのだろう。
私は、三人を並べて一枚、撮影した。