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34 1203/2003

 村雨くんと長谷川さん、そして佐々木くんが武器を持ってショッピングモールの奥へ探索に出かけた。

 本当はフードコートの守護に男の手を借りたかったが、そうは言ってられない。少しの間、私はフードコートで南ちゃんと奈々子さん、そして廃人になってしまった女性の面倒をみた。

「南ちゃんは」

 私は椅子で大人しくしている女の子に語り掛けた。

「写真は好き?」

 彼女は首を振って「分からない」と呟いた。

 私は彼女にカメラを渡し、自分の過去の写真を見せてあげた。

 そしてその写真の思い出をひとつひとつ、語ってあげた。

 最初は写真のことを好きかどうか分からない様子の南ちゃんだったが、いつの間にかすっかりと前のめりになって、いつか自分も写真を撮りたいとまで言ってくれた。

 思わず胸が熱くなった。「いつか自分のカメラを持とうね」と言うと、南ちゃんは元気に首を縦に振った。

 試しに南ちゃんに一枚撮影してみなよとカメラを差し出すと、彼女は私を正面に置いて一枚撮影した。びっくりして首を傾げると、南ちゃんは云った。

「お姉さんが私達の希望だから」

 柄にもない事を言われて恐縮だったが、久しぶりに子供の無邪気な笑みを見て私は安堵した。しばらくして老婆が私の近くに来て口を開いた。

「このショッピングモールに風呂はなかったか?」

 私はかぶりを振る。ふと顎に手を添える。

「でも、探せば浴槽自体とシャワーヘッドとかなら、あるかもしれませんね」

 私が言うと老婆は頷いて「探してくる」と云った。

 私はとりあえず止めて、今は男性の方々か物資調達に向かっているので、もう少しだけ待ってください。もし遭遇して事故が起きてしまったら大変ですし。と説明すると、老婆は表情を和らげて。

「確かになぁ」

 と呟く。

「不思議だねぇ」

「え?」

「お前さんは説明が上手い。頭の固い私達も、お前さんの言葉ならするする入ってくる。

「そうでしょうか?」

 老婆は手をひらりとさせて云う。私はまた恐縮だと感じる。

「敵意というか、見下している感じがないからかなぁ」老婆は天井を見上げて云う「お前さんは心から善良であり、そして賢い生き物だとひしひし伝わってくる。つまるところ、安心立命の境地に達している」

 あまり聞かない言葉で老婆は私を評価してくれた。

 恐縮というか、もはやくすぐったいような感覚に強襲された。


 夜になって男性陣が戻って来た。

「裏の倉庫には結構な蓄えがあった。長谷川、頼む?」

 村雨くんの言葉で長谷川さんが前に出て、ボールペンで文字が書かれた紙を差し出す。

「今の人数だとだいたいこのくらいの年月持ちます。そこから考えて、十人でこのくらい、二十人で……」

 驚く事に長谷川さんは、倉庫の物資の量からこのショッピングモールに滞在できる日数を、人数で割り出してくれた。訊いてみると長谷川さんは、もともと会社で経理の仕事をしていたらしかった。

「こんな細かく……本当に助かります!」

 長谷川さんは嬉しそうに微笑みながら、右手を自分のうなじに置いて「ありがとう」と云う。

 その日、村雨くんからこんな話があった。

「この拠点に名前を付けないか?」

 話し合いにより、名前が決定する。

 ショッピングモールの名前からとって『陽徒(ようと)避難所』となった。



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