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37 1223/2003

 ショッピングモールの屋上に座って、蒼穹と遠方にある高速道路を同じ画角にいれて一枚撮影してから、昨日の深夜の話し合いについて私は考える。


 村雨くんは「信用しきるのは危ないと思う。でも、時間がないのなら、その計画とやらにかけてみてもいいのかもしれない。あと、子供に話すのは酷すぎるってのが俺の意見」


 長谷川さんは「信用できないのは自分も同じですし、振り返って考えると怪しむべき部分は沢山あります。まずあなたの言葉から、斎藤楓という男が三年前の機密情報漏洩の日に、小惑星について知っていたような仕草をしていたというのは分かりますが、だとしてもタイミングが変だ。今日のこのタイミングというのも、その三年前の機密情報漏洩時も、図ったような感じがあります。信じるにしても、もっと相手を見極める時間が必要かと。そして僕は、子供たちに話すのは反対です」


 奈々子さんは「私はそうだねえ、その計画とやらは難しくて決めきれない。判断材料がなさすぎる。でもこれだけは言えるね。子供に黙っておくのは酷薄すぎる。この世界が終わるというのも、計画のこともだ」


 総合すると。

 『斎藤楓の言う事は信用できないし、判断するにも情報がないため難しい』

 『子供に話した方が良いのかどうかも判然としない』

 私個人でいうならそれこそ、子供に気を遣って打ち明けないという選択肢は取らない。

 何故なら子供は子供でも物事を知る権利がすべからくあるからだと思っているからだ。

 でも時にしてそれは間違った結果を生みかねない。もし佐々木くんが小惑星の衝突が近い事を知り、そして私達が決めあぐねている超人計画も知ってしまうとして、そのとき彼が、狼狽しパニックになってしまったら元も子もないじゃないか。

 誠実に生きるのなら全てを語るべきだが、後々の事を予想したとき、それが良い結界になるとは限らないことを私は知っている。


 私は短く息を呑んで、右手を顎に持って行き、親指以外を折って口にあて考える。

 改めて考えてみると、私は自分が大人であることがどれだけ大変であるかを思い知らされたとも言えた。

 私は子供のころ、自分が生きていればそれでいい、自分でやりたいことを進め、その結果二本足で立てていればいい。と考えていた。もちろん、上っ面の強がりではあった半面、そういう生き方をしたからこそ手にした視野の解像度も愛すべき趣味もある。

 でも決断は往々にしてやってくる。

 『大人は最初に様々な事を一人で決め抜き』

 『次に自立して生きて』

 『最終的には誰かを幸せにすることを目指す』

 でも私が歩んできた人生は、一人で決め抜くことだけは立派だったが、自分一人で生きていけたかと言われると怪しい。

 友くんや村雨、中村くんや先輩が、そういう甘い私を否定しなかった。それこそが、私の今の独りよがりの生き方を肯定している。

 でも、『大人は最初に様々な事を一人で決め抜き』

 『次に自立して生きて』

 『最終的には誰かを幸せにすることを目指す』

 という手順から外れた私は、きっと最後の『他者の幸せ』の部分でつまずいてしまう。

 無論、その当たり前のルートから外れたなら、自分なりに幸福を探すしかない。

 それを分かって私だって自分なりのルートを、自分なりに探そうとしていた。

 だが現実はそうはいかない。いま、私は決断を迫られている。誰かの幸せを考えて、何かを決めなければならない時がやって来た。

 もしかすると、どれだけまともなルートを巡って来た人でも、いずれは予想外の事態に立たされ、身動きが取れなくなるのかもしれない。

「……私には自立が足りなかった」

 今更後悔しても遅い。

 それはどれだけ願っても取り返す事は出来ないものだし、加えて一度そのルートに足を踏み入れれば、私は今の私にはなれなかっただろう。

 ないものねだりだし、この道を歩いたからこそ見える景色がある。やはり人生は、完璧にはなれない。でも、完璧ではないからこそ、それは美しいのかもしれない。

 落ち込んじゃダメなんだ。いま、私が。

 一人前に足掻いてみよう。不完全な私が、この現状についてどうするかを選んでみよう。

 私はさながら、人生で一番大きな崖を登ろうとしているみたいだ。

 それもその崖を登る私の足には、色んな命や想いが絡まっている。

 ふと気を緩めてカメラを点ける。そして私は首を傾げた。

「あれ」

 見知らぬ黒い写真が一枚、最新のアルバムに記録されていた。




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