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38 1222/2003

「うわっ」

 いきなりフラッシュが光ったので咄嗟に手で押さえた。びっくりしてしまった。

 撮影してしまっただろうか? と僕はカメラを弄ってみる。でも南に渡したカメラと操作方法が微妙に違ったせいで、僕は早々に諦念する。

 ふと寝つけなくて起き上がった時刻は深夜の三時。

 机の上に置かれていた忘れ物を見に来たら、それはあの人のカメラだった。

 撮っちゃったかな? と心配になりながらも、僕はそのカメラを持ち上げると、今から数時間前の事を思い出してしまう。

 大人たちが集まって話していた内容を偶然僕は聞いてしまった。

 盗み聞きするのはちょっと心苦しかったけど、でも寝付けなかったから不可抗力だし、何よりダンボールの壁が良くないと思う。

 小惑星衝突。あと、チョウジン計画なるもの。

 正直全容は把握できなかったけど、大枠は理解した。

 つまりみんなは、このことを僕たちに伝えるかどうか、そしてチョウジン計画とやらに賛成なのかについて話し合っている様だった。

 結論はまだ出ていない。

 話し合いは二時間にも及び、眠気の限界がやってきたのだろう。


 正直、いきなりそんな事を言われても困るという長谷川さんの意見に、僕は賛成だ。

 長谷川さんはチョウジン計画とやらもその楓? なんとかっていう人の事もあまり信用していないみたいだった。

 何故、この場所に避難所があるのか知っていたか。そういうのも上がっていた。でもやっぱり、僕は、聞いてしまったから思う所がある。

「……」

 僕はフードコートのガラス張りから、淡い月光を伸ばしている右手に受ける。

 あの頃、僕は絶望していた。

 色んな事があって、僕を助けようとしてくれた人に命を守られた。

 その結果、僕たちはこの場所に流れ着いた。

 だけど、問題だったのは、このショッピングモールはもうおかしくなった人たちに占拠されていたことだ。

 僕らは抵抗したけど、奴らはそうは許してくれない。だから、

 僕はとあるダンボールの壁を見つめる。

 その中には、廃人と呼ばれるものになっている女性が、奈々子おばちゃんによって介護されている。

「――お母さん」

 母は、僕を庇ってああなった。

 僕は母に繋がれた命がある。その命は、胸に手をかざすと確かなぬくもりを伴って鼓動を繰り返している。息を吸うと、お腹が膨らむ。息を吸うと、活力が湧いてくる。

 お母さん。いまお母さんは何を想っているの?

 僕が生きていてよかった?

 それとも、僕を庇って後悔してる?

 どっちなんだろうね。

 ただ少なくとも、お母さんなら、前を向けって言ってくれたような気がする。

「……親孝行には早いかな」

 その時、僕の部屋から南が目を擦りながらごそごそと身をよじって出てきた。

「ささにい?」

 南は月光を背にしている僕を見て、そう呟いた。

「ごめん、寝つけなくって」僕は微笑む。

「あさおきれないよぉ」と南は大きなあくびをする。

 僕は南の元に歩み寄っていく。そして南の頭を撫でて、一緒に毛布にくるまった。

 カメラは元の位置に戻しておいた。



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