「いやです」
青天の霹靂だと言わんばかりの愕然顔を見せる中村くんと、その横に立っている僕がいた。
ショッピングモールの裏手にある雑木林で、一つの石板の前にいる少年に会いに来た。
「佐々木くん、でいい?」
僕は尋ねる。
「好きにしてください」と彼は云う。
「なあ通。そこを何とか聞き入れてくれないかなぁ」
中村くんは両手を合わせて懇願すると、佐々木くんは目線を移して僕を見た。
「つまりなんですか。嘘をついていたということですか?」
僕は固唾を呑み込んで、ゆっくり頷いた。嘘の代価はやはり苦しいものだった。
「薄々分かっていましたよ」
とさっぱり佐々木くんは云って、石板に向きを正した。
その石板には、僕が来る数日前に長谷川という男によって殺された人が埋まっているらしい。そしてその人は聞くところによると、彼女の先輩だったと聞いている。
「ごめんなさい」
僕は腰を折って頭を下げる。
自分がしでかしたことの尻拭いをしようとした。
この追求に誤解などない。僕は、確かに彼らに嘘をついた。
意図的に希望があるように演出して、彼らを、利用しようとした。
「また嘘をつかないという確証はどこにありますか? それに、どういう目的があって中村と僕にそれを打ち明けたのか分かりません。もっと加えるなら、その事実を中村と僕以外に打ち明けるつもりがさらさらないっていうのが、余計に不快です」
と佐々木くんは冷たく叱責する。
僕は思わず右胸を抑えたくなるくらいの電撃と視界の端に黒い影が浮かび上がる。
「……佐々木くんの言う通りだ」
僕は何度か呼吸を繰り返してから、身に渦巻く静かな願いを言葉にしようと四苦八苦した。
打ち明けてしまった。もう後戻りはできない。全てを、齟齬や誤解なく彼に伝えなければならない。そして説得しなければならない。打ち明けてから、どうにかして。
「佐々木くんにとって僕は、いきなり現れた中村との昔馴染で『#$%%#$(わたし)』の彼氏だと豪語する人だと思う。それでも僕はどうしても救いたい。お願いだ。地球について、なんて大それた狡い言葉はもう使わない。僕の大切な人、僕が守るべきだった人を救うのを、手伝って欲しい」
僕の言葉に、佐々木くんは一瞬目が泳いだ。でも矢継ぎ早に口を開いて、
「僕はあなたの事を不愉快だと思っているわけではない。ただ、欺く腹積もりであそこまで嘘をぺらぺら語れる人が好かないんです」
佐々木くんはおでこの皺を寄せ、眼を鋭くさせる。
「このモールの暴徒にもそういう人が居ました。どこへ行ったか分からないけど、無精ひげに太った暴力的な男性が……。僕はもう、騙されるのが嫌なんです」
「お、俺達がお前らを騙すなんて」
と中村くんが口を出した。ぎろりと佐々木くんの眼光が二人に向けられる。
「中村、ごめんけど少し僕が話すよ」
僕は中村くんの方を見ずに口止めした。中村くんは顔面を蒼白させる。
どうやら中村くんは、佐々木くんが僕を完全に拒絶しているように見えているのかもしれないが、僕の眼には違って見えた。
彼は今、僕を見定めようとしている。
僕が何を目的として、どういう手段を用いることが出来る大人なのかを。
その時、僕はふいに昔の自分を追憶する。
……そうか。父から見た僕は、常にこういう風だったんだ。
「信じて欲しい」
「……は?」
僕は困惑する佐々木くんを真っすぐ見つめた。
彼は肩をぴくんとさせて目を逸らす。
だがしばらく僕が見つめていると、彼は目の下を赤く染めて僕の方を見て軽く地団太を踏んだ。
「じゃあ条件です。行動で示して」
佐々木くんは条件を提示した。
「まずは三部南と仲良くなってください。そうすれば、僕もあなたを信用します」
ミベミナミ。佐々木くんの次に最年少である女の子だ。
「分かった」
僕は帰り道、中村くんの必死の土下座をフル無視しながら広い駐車場の中心に立った。
そしてその場所から、ショッピングモールを正面から撮影した。
写真の楽しさを知りたい。
ずうっと僕はそう思っていた。