遠くにあるサキの上に真っ白い灯台が機能を失って佇んでいる。
もう照射灯は息をしていない。でもそこにひっそりと存在していることと、モリを抜けたとき唐突に視界が開けて彼が現れるのが、とても印象的だった。
「いい景色だな」
何故かアロハシャツを着ている浅井は云う。
「そうだろ」
僕は振り返って自信満々に言う。
ある日、僕はふと彼女のSDカードを思い出す。
既存のカメラに入っていた昔からのデータ(1555枚)と、もう一つ、SDカードが彼女の所持品として見つかっている。僕はそれをカメラに入れて、中を確かめてみることにした。
理由は単純で、何かヒントが残されているかもしれないからだ。彼女はそういう予め用意をしておくほど頭が回る人ではなかったが、もしこの中にメッセージがあれば、斎藤楓が拠点とする研究所の位置が分かるかもしれない。
ただ、希望は所詮、希望だった。
でも開いて一枚目に飛び込んできたものは、僕にとってとても興味深いものだった。
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幼児期の彼女がカメラに手を振っている。背景は、遊園地のような場所。
39/42
彼女が両手を広げ、子供らしい満面の笑みを浮かべながらピースしている。
28/42
彼女がリビングらしき部屋でオムライスを食べていた。
その横で、彼女の母親らしき女性が嬉しそうに微笑みつつ、ケチャップをほっぺにつけた彼女にティッシュを差し出している。
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海辺で三人が笑顔で立っていた。
一番背の高い父親っぽい男性と、母親っぽい女性と、彼女だ。
*
これは、彼女の父親がこのカメラを使っていたころのデータだった。
写真を捲れば捲るほど、彼女の一家がどれだけ幸せだったのかを思い知らされた。
僕の家庭環境はお世辞にも良い物だとは言えなかったけど、彼女は父親が事故でなくなるまで、どこにでもあるような暖かな幸せを享受していたのだ。
僕は写真を見ていくたび、やるせない気持ちになった。
彼女のこんな楽しそうな笑顔は見た事がなかったからだ。
僕は、カメラから目線を外して前の壁をみる。
「二ヶ月」
準備は進めて来た。計画を立てた。
でも、彼女のそれだけの期間、孤独にしてしまったことは僕の不徳の致すところである。
万全でもない。完璧でもない。でも想いがある。想いは原動力になる。
明日、全員を集めて遠征計画と遠征組を決める会議を行う。
そしてその後、僕らは、斎藤楓の研究所を探し出し、乗り込むのだ――。
最近、誰かにずっと見られている感覚がある。
人ではない何かに、頭の上から、俯瞰されている気がする。
「……」